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蠢女4(屠殺)

2012/12/02 Sun 00:01

4蠢女



 今になって失禁と脱糞の不快感が伝わってきました。お尻で潰れている糞は、肛門や尻肉や太ももの裏に凄まじい痒みを与えてきました。両手が拘束されている為に、そこを掻く事ができない私は、その激しい痒みに身悶えながら、早く死にたいと、そればかり考えていました。
 すると、遠くの方から、パチパチという音が聞こえてきました。それは紛れもなく何かが燃えている音でした。
 この部屋は、壁の上に小さな窓があるだけですので、私の位置から火の明かりを確認する事はできませんが、時折、風に乗った炎がゴオォォォォォォっと凄まじい唸りをあげているのが聞こえてくる事から、どうやら火の手はすぐそこまで迫っているようです。
 そう言えば、さっきからこの部屋には石油ストーブを消した時のような臭いが漂っています。それに、よく見ると天井にも薄らと煙が充満しているのが見えます。
 幸い、この病院は自家発電機が備え付けられていたため、例え大地震でも真っ暗闇になる事はありませんでしたが、しかし、こうやって煙が充満して行くのを身動きできないまま黙って見ているというのも、強烈な恐怖です。まさに、カゴのまま水の中にじわりじわりと入れられて行くネズミの恐怖の再来です。

 できるだけ苦しまずに死にたい。カゴのまま水に入れられ、もがき苦しみながら溺死するネズミのようには死にたくない。
 そう思いながらみるみる天井に溜まって行く黒い煙を見ておりました。
 しかし、生身の体を焼かれるのです。身動きできない状態でジリジリと焼かれて行くのです。これが苦しくないわけがないのです。
 生きたまま焼かれる人間というのは、いったいどのくらい焼かれて息絶えるのだろう。
 ふとそう思いました。そう考えると、変な薬がまだ効いている私は、なかなか死ねそうにはありませんでした。きっと、皮が捲れ、肉が爛れ、そして溢れ出した自分の内臓が、体にぶら下がったままぐつぐつと煮え滾る残酷なシーンを見せつけられるのです。
 これならば、まだ水の中で窒息するネズミの方がましなのです。

 そんな自分の悲惨な姿を想像しながら、猿ぐつわの中でひーひーと叫んでおりますと、ふいに、床で何かが動いた気配を感じました。
 ハッと床を見下ろすと、目玉を飛び出した男が「うぅぅぅぅ」と唸りながら、必死に立ち上がろうとしていました。
 私の頭に穴を開けた男は生きていました。顔を落花生のように凹ませながらもまだ生きていたのです。
 男は椅子にしがみつきながら、必死に這い上がってきました。
 椅子の肘掛けからヌッと現れた男のその顔は、まさに『ムンクの叫び』そのものでした。

「足が動かん……頼む……助けを呼んで来てくれ……」

 男はそう呟くと、弱々しく震える指で、私の手首の革手錠を外し始めました。
 それを外しながらも、男は何度も飛び出る右の目玉を、ぽっかりと開いた穴の中に戻し、その痛みに悲鳴を上げていました。
 右の手錠が外れると、私は自分の手で左の手錠を外し始めました。
 そして胸と腰を固定していた革ベルトを外し、そのまま前屈みになって両脚の革ベルトを外しました。
 ゆっくりと椅子から立ち上がると、すぐさま尻に付着する糞を手で拭い取りました。そこを爪でガリガリと掻くと、何ともいえない快感が尻に広がりました。
 そんな私を片目でジッと見ていた男が、「早く」と私を急かしました。
 私は、手の平に溜まったその糞を男の顔面に投げつけました。
 男は、「わあっ!」と叫びながら後ろにひっくり返りました。私は素早く男に馬乗りになると、そこにぶら下がる眼球を引っ張ってやりました。
「うぎゃゃゃゃゃ!」と絶叫する男の目の穴からは、ミミズのような筋肉が伸びていました。
 左手で眼球を掴み、眼球にくっついているその肉紐を千切れない程度にグイグイと引っ張りながら、右手についている糞を、男の凹んだ顔面に塗り付けてやりました。
「許してくれ! 許してくれ!」と叫ぶ男を見て、なぜか私は奇妙な快楽に包まれていたのでした。

 気が付くと、私は男の顔の上に跨がっていました。全裸でしたので当然陰部は剥き出しです。
 そんな私の尻には大量の糞がついておりました。その糞だらけの尻を男の顔に押し付けながら、肉紐がくっついたままの眼球をしゃがんだ股間に引き伸ばしてやりました。
「やめてくれぇ!」
 そう叫ぶ男の眼球を糞だらけになった陰部に擦り付け、そして鉄の棒で処女を引き裂かれた血まみれの穴の中にぐにゅぐにゅと押し込んでやりました。

「破られた処女膜が見えますか」

 私は狂ったようにケラケラと高笑いしながら、更に奥へ奥へと眼球を押し込みました。
 すると、顔と繋がっていた肉紐が、ぷつんっと千切れました。頭を持ち上げながら絶叫していた男は、その反動でコンクリートの床にゴッと激しく後頭部を打ち付け、「うぅぅぅぅ」と唸りながら一つしかない目玉を一瞬白くさせたのでした。
 私は急いで男の体から下りると、床に転がっていたドリルを手にし、昏睡している男の鼻の頭にそれを突きつけました。
 そのレバーを回すと、ピリカ、ピリカ、ピリカ、という例の音が部屋に響き渡りました。
 その音に気づいた男がハッと黒目を戻し、「やめろ!」と、回転するドリルの先を掴みました。
 ドリルは凄まじい勢いで男の指の肉を引き千切りました。細切れになった肉片が飛び散り、真っ黒な血が噴き出しました。
 男は、骨が剥き出た無惨な指を見つめながら、「うがぁ!」と顔を顰めました。
 そんな男の鼻の頭を、ピリカ、ピリカ、と高速回転するドリルの先が捕らえました。ぷしゅるるるるるるっという気味の悪い音と共に肉は削られ、一瞬にして男の鼻は消えました。真っ赤な血の中に骨を剥き出した鼻の穴が、二つぽつんぽつんと開いているのが見えました。
 そのまま私は、男のもう片方の目にドリルの先を向けました。そして、ほとんど気絶してしまっている男に向かって、意味の分からない歌を小声で歌いながら、そこにドリルを回転させたのでした。

 男の顔は大量の血と、削り取られた肉片でぐちゃぐちゃになっていました。
 ぶくぶくと白い泡を噴き出している所を見ると、まだ生きてはいるようでしたが、しかし、これだけ大量の血が出ていれば時間の問題でしょう。
 返り血で赤鬼のようになっている私の頭上では、真っ黒な煙がまるで黒いヘドロのように蠢いていました。
 一刻も早くここから脱出しなければと思いながらも、しかし私は、今になって激しい痛みを感じていました。
 こめかみに恐る恐る指を這わすと、そこにはパチンコ玉ほどの穴がぽっかりと開いているのがわかりました。ギザギザになった傷口に触れると、強烈な痛みが頭全体を襲い、同時に猛烈な吐き気が襲ってきました。
 このままでは逃げ切れない。きっと途中で野垂れ死にしてしまう。
 そう思っている私は、このままこの病院から脱走するつもりでいました。この大火に乗じてここから逃げ出すのです。
 しかし、例えここから逃げ出しても私には行く場所がありません。
 ですが、このままここに居れば、いずれ必ず私は殺されます。極悪な外部職員は加賀谷たち以外にも沢山いるのです。加賀谷が死んだとて何も変わらないのです。
 ですから私は、この騒乱を機にここから逃げ出し、大地震の混乱に紛れながらこの町から出ようと考えていたのでした。

 しかし、例の薬が切れて来たのか、先ほどから脳がズキンズキンと異常な痛みを発しておりました。長いハサミで脳味噌を掻き回されたままのこの状態では、この町から出られるどころか、病院を囲む森からさえも脱出は無理でしょう。
 私は、天井にみるみると溜まって行く黒い煙を見上げながら、絶望に打ちひしがれていました。両手で髪を掻きむしりながら、ただただひたすらに、ぎゃああああああああああっと叫んでいるだけでした。

 既に大火はこの建物を飲み込んでいるのか、コンクリートに囲まれたこの狭い部屋は異様な熱気に包まれていました。コンクリートは燃えませんから、鉄の扉を開けない限り私は焼き殺されません。しかしその代わり、高熱と煙に燻されハムのようになって死ぬのです。
 全部こいつが悪いんだ、と、私はザクロ頭の加賀谷を見ました。
 おまえのせいで私は燻製となって死ぬのだ、と、床に転がっていた長いメスを拾いました。
 こいつの内臓を引きずり出し、コンクリート壁のフライパンでホルモン焼きにして食ってやる。
 そう笑いながら私は加賀谷の死体を仰向けにし、制服のボタンを外し始めました。白い肌着を捲ると、熊のような胸毛の中に中途半端な『般若』の刺青があるのが見えました。
 こんな外道に処女を奪われた、しかも鉄の棒で引き裂かれた。
 そう思えば思うほどに私の怒りは膨れ上がりました。最も残酷な方法でこの死体を滅茶苦茶にしてやらなければ気が治まらない。
 そう思いながら、取りあえず般若の刺青をメスで切り取っていると、ふと、加賀谷の制服のポケットの中に銀色の眼鏡ケースのような物があるのを発見しました。
 もしやと思いながらその銀色のケースを取り出すと、案の定それは携帯用の注射器ケースでした。
 震える手でケースを開けると、使用済みの注射器と透明のパッケージに入った白い薬が一袋ありました。その手作り的なビニールパッケージは、まさに先ほどの白い薬と同じ物でした。
 それが覚醒剤であるという事は、もはや疑いの余地はありませんでした。しかし、例えそれが違法な薬物であろうと、どれだけ人体に有害であろうと、黒煙に包まれている今の私には関係ありませんでした。どうせ私はあと数分で死ぬのです。そんな私に法律も健康も関係ないのです。

 私は少しでも楽に死にたいという気持ちから、震える指でパッケージを開けました。
 しかし、水がありません。白い粉を溶かす肝心な水がないのです。
 元々この部屋には水道がありません。昭和時代にこのB房に収容されていた患者達は、バケツで水を与えられていたといいます。
 先ほど加賀谷が使っていた水も、ペットボトルごと床に転がり全て零れてしまっていました。
 一瞬、パニックに陥った私でしたが、しかしすぐにいい案を思いつきました。
 私はその場にしゃがむと、底を丸めた手の平の上に小便をしました。緊張しているせいか、尿はチロッとしか出ませんでしたが、しかし、白い粉を溶かす分は確保できました。
 銀色のケースの蓋に手の平の小便を垂らし、そこに白い粉をまぶしました。指で擦りながら粉を潰し、そして素早く注射器に吸い込んだのでした。

 自分で注射をするのは初めてでした。しかし、精神科の医師たちから毎日のように実験台にされていた私達患者は、注射される事にはプロ並みに慣れています。
 見よう見まねで腕の血管を探し出し、そこに浮き出た血管に針を刺しました。小便で溶かした覚醒剤が、みるみる私の体内に入って行き、そして私は再び、脳に冷水を垂らされたような刺激をピキっと感じたのでした。

(つづく)

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