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蠢女7(因果応報)

2012/12/02 Sun 00:01

7蠢女



 ボランティアの青年達のおかげで、私は、東京に帰る自衛隊のトラックに同乗させてもらえる事になりました。
 自衛隊に交渉してくれたのは、桑原という二十四歳の青年でした。
 トラックの荷台に乗る直前、突然彼は私に一枚の名刺を渡しました。

「もし、東京で困った事があったらこの携帯に電話して下さい。僕にできる事だったら力になりますから」

 そう言いながら彼は、「明後日には僕も東京に戻りますから」と私を見送ってくれたのでした。

 そんな青年達のおかげで、私は無事にこの町から脱出する事ができました。
 しかし、これからが大変です。今までに東京など一度も言った事がなく、もちろん知り合いなど一人もいません。それに所持金は0円なのです。
 知り合いもなく、住む所もなく、お金もない。
 そんな状態で、道もわからぬ東京で果たして生きて行けるのでしょうか。

 そんな不安に襲われながら、二十三年間暮らしてきた町を幌の隙間から眺めていました。これから私の人生はどうなってしまうんだろうと、爪をカリカリと噛みながら恐怖に身を縮めていました。
 すると、私の隣で文庫本を読んでいた三十半ばの自衛隊員が「あのぅ……」と声を掛けてきました。
「はい」と振り向くと、彼は、どこかのゆるキャラのように丸まった寝袋を片手に持ち上げながら、「よかったらどうぞ」と、それを私の前に置きました。
 ふと、周りを見ると、幌の中はシーンっと静まり返っていました。十人ほどいた隊員達は、既にみんな寝袋に包まって寝てしまっておりました。

「もし、ライトの明かりが気になったら言って下さい、消しますから」

 男はそう言うと、ヘルメットに付いていたライトを指差しながら微笑みました。そんな彼が読んでいた単行本は、太宰治の『人間失格』でした。
 私は素直にその寝袋を頂き、それを抱き枕のように抱えながらソッとその場に踞りました。それを見ていた男は、まるで我が子を見るような温かい目で私に微笑むと、再び小説を読み始めたのでした。
 しかし、実際トラックの荷台に寝転がってみると、思っていた以上に振動と騒音が激しく、とても寝られるような状態ではありませんでした。
 それでも、何度か寝返りを打ちながら必死に寝ようとしておりますと、またしても男が「やっぱりライトが気になって眠れませんか?」と声を掛けてきました。

「いえ……振動が凄くて……」

 私がそう言うと、男は「どれどれ」と言いながら、開いていたページにしおりを挟みました。そしていきなり私が抱いていた寝袋を「失礼」と言いながら奪い取ると、素早くカバーを外し、そこにバサバサと広げながら、「中に入れば多少は和らぎますよ」と、自信ありげに笑ったのでした。
 男が言う通り、寝袋の中に入ると振動はほとんど気にならなくなりました。それでもまだ、すぐ真下でタイヤがゴボゴボと鳴っている騒音が気になっておりましたが、しかし、寝袋の中は妙に温かく、いつしか私は眠りに引き込まれて行ったのでした。

 それから、どれくらい眠ったでしょうか、不意に違和感を感じた私は、うっすらと目を開けました。
 いつしか隣の男のヘルメットのライトは消えていました。幌の隙間から入り込む国道の外灯が、静まり返った荷台をぼんやりと照らしています。
 そんな薄暗い中、横向きで踞っていた私の目の前で何かがモソモソと蠢いておりました。まだ半分夢の中だった私は、モノクロに浮かび上がるその蠢く物体をぼんやりと見つめていました。しばらくして、だんだんと意識が鮮明になってくると、そのタランチュラのように蠢いている物体が人の手だという事に気づきました。
 太い指が恐る恐る蠢きながら私の胸をまさぐっていました。それに気づいた瞬間、私は条件反射で両手を組み、胸をガードしました。
 するとその手は一瞬私の腕に挟まれましたが、慌ててサッと逃げてしまったのでした。
 それは明らかに痴漢でした。誰かが眠っている私の胸を触っていたのです。
 私は怖くて身動きできませんでした。痴漢の犯人を捕まえるなど、気の弱い私には到底できるわけがございません。ですから私は、そのまま気づいていない振りをして時が過ぎるのを待つ事にしたのでした。
 しかし、しばらくするとその手は、また私の体に忍び寄ってきました。今度は、寝袋のファスナーを開けようとしているのです。
 私は必死に寝た振りをしながら、ゆっくりゆっくり下がって行くファスナーを薄目で見つめていました。
 体は恐怖で硬直していました。まるで金縛りに遭ったかのように固まっています。 
 寝袋のファスナーが鳩尾部分を通過して行きました。すると、ファスナーを下ろしている手とはまた違う手が、寝袋の上から私の尻を撫で始めたのです。
 その位置からして、尻を撫でているのは、あの『人間失格』を読んでいた男に違いありません。「中に入れば多少は和らぎますよ」などと、親切に寝袋をくれたあの男は実は痴漢だったのです。

 ファスナーを膝まで下ろすと、その指はジャージのズボンの上から私の股間をスリスリと撫で始めました。
 やめてください、というその一言がどうしても出てきませんでした。この荷台には十人ほどの屈強な自衛隊員が潜んでいるのです、もし彼らが全員グルだとしたらと思うと、そのあまりの恐怖に息をするのもやっとでした。
 恐怖に固まった体が次第にガクガクと震えてきました。私の体が震えるなり、二つの手は一瞬サッと引きましたが、しかし、どちらかの男が「こいつ、起きてるぜ」と小声で笑うと、二つの手は再び私の体を弄り出し、さっきよりも大胆に蠢き始めたのでした。

 あっと言う間にジャージのズボンは下ろされてしまいました。下着の上から股間と尻を撫でる二人の男は、嬉しさのあまり必死に笑いを堪えているようです。
 ガクガクと震える私の頭上で、二人の男はじゃんけんを始めました。タイヤとエンジン音が延々と響く闇の中で、二つの手がグーやチョキやパーを出しているのがぼんやりと見え、私は叫び出したいほどの恐怖に駆られました。
 人間失格の男がチョキを出して勝ちました。もう一人の男が「ちっ」と舌打ちしました。
 人間失格の男が、静かに私の上に乗りながら「声を出すなよ」と囁き、素早く私の下着を脱がすと、そのゴリラのような大きな手で私の股を開いたのでした。
 剥き出された陰部にヌルリとした感触が走りました。男の腰が動き始めると、私の体もゆっさゆっさと動き始めました。
「こいつ、濡れてるぜ」と、人間失格が笑いました。するともう一人の男が、「やっぱ、最初からそのつもりだったんだよ」と、私の胸を鷲掴みにしました。
 腰をコキコキと動かす人間失格は、私のうなじに顔を埋めながらはぁはぁと荒い息を吐きました。男の耳の裏からは、古い油のようなニオイがもわもわと漂ってきます。

 人生、三度目のセックスでした。その三度とも意志に反した強姦でした。
 加賀谷にやられた一度目のセックスは意識が朦朧としており何が何だかわかりませんでした。二度目の百姓にやられた時は、覚醒剤が効いていたため凄まじい快楽を得ました。
 そして三度目のセックス。今は、快楽とか恐怖とかを感じる前に、男の体から漂うその体臭にひたすら吐き気を覚えていたのでした。

 人間失格が、私の耳元で「んふっ」と息を吐きました。その息と同時に、私の穴の中で男の液体がシュッと飛びました。
 人間失格は、私のうなじに顔を埋めながら、犬のようにくふくふと鼻を鳴らしていました。すると、それを見ていたもう一人の男が「正常位以外は禁止な。隊長に見つかっちまうからよ」と小声で囁きました。
 その言葉に、私は脱糞しそうなほどの絶望を感じました。唇を震わせながら恐る恐る薄目を開けてみますと、案の定、三人の男が私の顔を覗き込むようにして笑っていたのでした。

 従軍慰安婦。その言葉の意味や歴史はなんとなくしかわかりませんが、そんな言葉がふと私の頭を過りました。
 本来、人々を救うはずの兵隊さんが、今、代わる代わる私の股の中で蠢き、私を苦しめています。
 兵隊さんも人間です。男ですからそれなりに欲望も大きい事でしょう。それはわかります。わかりますが、しかし、この荷台の中での出来事はあまりにも残酷すぎました。
 結局、そこにいた十一人の自衛隊員のうち、七人もが私の子宮に欲望を吐き出しました。全て膣内射精でした。腰を振りながら私の頬を片手で鷲掴みにし、「このメス豚が、このメス豚が」と唸る男や、無理矢理肛門に指を入れて来る男もいました。
 そんな男達は、ことが終わると、何もなかったかのように寝袋の中に潜り込み、そしてガーガーと大きな鼾をかいて寝てしまうのでした。

 最後の男が終わった頃には、幌の隙間から朝日が注ぎ込んでおりました。
 私は、最後の一人が寝袋に入ったのを確認するなり、幌にぶら下がっていたティッシュの箱を奪い取り、素早く寝袋の中に潜り込みました。
 寝袋の中は、男達の体臭と液臭が混じった凄まじい異臭が籠っていました。
 そんなニオイに吐き気を催しながらも、私は箱の中からせっせとティッシュを引きずり出し、それを穴の中に押し込みました。
 穴から溢れた七人の精液が、私の尻をねちゃねちゃにしておりました。尻に付着した精液と寝袋の底に溜まったブヨブヨの精液をティッシュで拭い取り、そのまま下着を履いたのでした。

 そっと寝袋から這い出ると、その丸めたティッシュを幌の隙間からひとつひとつ捨てました。すると、いきなり運転席側にあった小窓がガラッと開き、皆から隊長と呼ばれていた男が私をギッと睨みながら「ゴミを外に捨ててはいかん!」と怒鳴りました。
 その瞬間、なぜか私の頭に『因果応報』という言葉がパッと浮かびました。
 それは、精神病院に毎週来ていたお坊さんが私に教えてくれた言葉でした。

『人は良い行いをすれば良い報いがあり、悪い行いをすれば悪い報いがある』

 お坊さんは、個別診断室でそう私に説明しながら、私の胸を揉んでいました。

 私は、窓を閉めた隊長の後頭部を見つめながら、『因果応報』と、呟きました。
 そして、(私がどんな悪い行いをしたというのでしょう、いったい私が何をしたというのですか?)と、誰に問うわけでもなく心で呟きながら、再び異臭の漂う寝袋の中に潜り込んだのでした。


 それから数時間後、トラックは賑わう場所で止まりました。
 結局、一睡もできなかった私は、寝袋の中に潜ったままそんな賑やかな騒音に聞き耳を立て、東京だ、と思いました。

「キミ」

 寝袋の外で、隊長らしき人の声が聞こえました。
 誰かが私の寝袋を揺すりながら「起きなさい」と言いました。
 寝袋からそっと顔を出すと、運転席の小窓から顔を出していた隊長が「ここは新宿駅の東口だ。ここでいいだろ?」と、面倒臭そうに言いました。
 私は、返事もしないまま素早く寝袋から抜け出すと、男達の膝が並ぶ通路を、四つん這いになって進みました。
 荷台の最後尾で腰を下ろした私は、幌のシートを右手に掴みながらソッと振り返りました。
 幌の影の中で、私を輪姦した男達がニヤニヤと笑っていました。

「因果応報……」

 私は男達に向かってそう呟くと、そのまま荷台から飛び降りたのでした。

(つづく)

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