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裸のOL4



 それは、会社の昼休みの事でした。
 昼休みはいつも1人で屋上へと行き、遠くに聳える新宿の高層ビルをボンヤリと眺めているのが私の日課でした。錆びた金網越しに都庁を見つめていたそんな私に、同じ課の水橋さんが「さっき棚崎部長が探してましたよ」と教えてくれました。
 私は入社当初から棚崎部長が酷く苦手でした。真面目で神経質でヒステリックな棚崎部長はいつも私に冷たく、他のOLならば笑って許されるような失敗でも私にだけは容赦せず、それはまさしくパワーハラスメントを絵に描いたようなそんな上司だったのです。
 社内で孤立している私には、そんな棚崎部長のパワハラに太刀打ちできる力はございません。同僚達は棚崎部長にパワハラされる私に対して見て見ぬ振りを決め込み、できるだけ私には関わり合いにならないようにしようという空気が社内に漂っていたのです。
 そんな棚崎部長に呼出しされた私は、いっその事、この錆びたフェンスをよじ登りビルの屋上から飛び降りてしまいたいとさえ思いますが、しかしいつもそう思ってはいても実際にそれを実行する勇気のない私は、結局はヒステリックな棚崎部長の餌食にさせられるのでした。

 会社に戻ると、まだ昼休みののんびりとした空気の中で、棚崎部長の机の周囲だけがピリピリと尖った空気が漂っていました。
 私は恐る恐る棚崎部長の机に向かいます。そんな私を見る社員達の顔はどこかニヤケており、今から私が棚崎部長にパワハラを受けるのを楽しみにしているようでもあります。
 そんな社員達の冷たい視線に去らされながら、私は棚崎部長の机の前で足を止めました。
「あのぅ……」
 私がそう呟いた瞬間、書類を書いていた棚崎部長がピタリと手を止めました。
 そしてゆっくりと私の顔を見上げます。
 棚崎部長のその顔はまさしくカマキリのようでした。神経質そうに尖ったアゴと吊り上がった細い目、そして細い顔の半分を覆うほどの大きなレンズのその眼鏡は、まさにカマキリの目玉のようです。
 そんな棚崎部長は、これもまたカマキリのように小刻みに首をピクピクと動かしながら私をジロッと睨み、冷血そうな薄い唇を小さく動かしてはポツリと呟きました。
「非常階段のハトの糞……すぐに片付けなさい……」

 非常階段に散乱する鳩の糞は、まるで白いペンキをぶちまけたかのようにそこに大量にこびりついていました。
 それは雑巾で擦っても落ちるようなモノではなく、又、タワシで擦ってもビクともしません。
 そんな化石のような鳩の糞を前にした私が、どうしたらいいのかと呆然としていますと、それを面白半分に見学しにきた4人の男性社員が、「これで擦ると早いよ」と、なにやらお好み焼きで使うような鉄のヘラを貸してくれました。
 私はしゃがんだまま「どうも……」っと恐る恐るそれを受け取り、非常階段の縞鋼板にガリガリと擦り付けます。
 すると男性社員達は「どう?それだと落ちるの早いだろ?」と私の手元を覗き込みました。
 こう書くと、なにやらこの人達が親切な男性社員達のように見えますが、しかし違います。
 私は知っているのです、この男性社員達がそう言いながらもしゃがんでいる私のブラウスの胸元やスカートの中をいやらしい目でみている事を……。
 そうです、彼らは棚崎部長のパワハラに対抗するかのように私にセクハラをしてくる、実に悪質な男性社員達なのです。
 今までにも私は、この男達に酷いセクハラ被害を受けております。
 私のパソコンのトップページを勃起した男性器の画像に切り替えたのも彼らですし、私のデスクの引き出しに唾液を入れたコンドームを入れたのも彼らの仕業です。
 そんな彼らは直接私の体を触って来る事もあります。すれ違いざまに胸を鷲掴みしたり、デスクに座っている時いきなりスカートの中に手を入れてくるなど日常茶飯事です。
 しかし、そんな彼らのセクハラは、最近、特にエスカレートして来ました。
 先日も、そのグループの1人が突然夜中に私のアパートにやって来て、ドアを開けろとしつこく騒ぎ立てました。怖くなった私はドアの鍵を掛けたままドア越しに対応していると、その男はいきなりアパートの廊下でペニスを出しました。それをドアスコープから見ていた私が小さな悲鳴をあげると、男は私が怯えているのがおもしろいのかニヤニヤと笑いながらペニスを上下に動かし始め、そして「おまえも自分のアソコを触ってみろよ……」などとドア越しに呟いては、ドアノブに大量の精液を掛けたのでした。
 又、別の男も、夜中に私の携帯電話に電話を掛けてきては、今からドライブに行こうと誘って来ました。私が断ると、男はいきなり「テレホンセックスしないか」と言い始め、「今、どんなパンツ履いてるんだ」や「最近セックスしたのはいつだ?」などと一方的に質問を始め、そして「おまえの洗っていないオマンコを舐めてやるよ……」などと、受話器越しにベチャベチャと舌を鳴らすと、とたんに「うっ!」と短く唸り、ティッシュの音をカサカサとさせながら電話を切りました。
 そんな彼らは、鉄のヘラでガリガリと鳩のフンを削っている私を見下ろしながら、なにやら無言でニヤニヤと笑っております。
 ふと私はイヤな予感がしハッと顔をあげると、私の目の前にいた男がいきなりブラウスの首元に手を押し込んできました。
 ブチ!っとブラウスのボタンが千切れ、ミルキー色したボタンが鳩の糞だらけの非常階段に転がります。
「やめて下さい!」
 両手で胸をガードしながら私が踞ると、ブラウスの中に手を入れる男は「ちょっとだけ、ちょっとだけ」と笑いながら乱暴にブラジャーの中に手を押し込み、物凄い握力で私の胸を鷲掴みにしました。
「痛い!」
 私がそう叫びながらしゃがんだまま体を引くと、男の手はスポッとブラウスから抜け、男は胸を握っていたままの形の手を仲間達に見せながら「柔らけぇぞ」とヘラヘラ笑ったのでした。
 そんな男達はそれで満足したのか、泣いている私に「バーカ」と捨て台詞を残して去って行ったのですが、しかしそれから間もなくして今度はいきなり棚崎部長がやって来たのでした。

 私が必死にガリガリと鳩のフンを削っていると、棚崎部長は「これじゃあ階段に傷が付いてしまうじゃないか」と言いながら私の手からヒステリックに鉄のヘラを奪い取り、「ちゃんと丁寧に雑巾でやりなさい!」とこめかみに青い血管を浮かばせながら叫んでは、私の顔に鳩のフンが付いた雑巾を投げつけたのでした。
「キミはねぇ、会社にいたって何もする事がないんだよ。わかるでしょ? それでもちゃんと給料は貰えるんだから、せめてこれくらいは一生懸命にやってもらわないと困るんだよ……」
 棚崎部長はカマキリのような目で私を睨みながらそう言うと、「今日中に全て綺麗にして下さいね。綺麗にするまで帰ってもらっては困りますよ。もちろん朝まで掛かっても残業手当は出ませんからね。ではよろしく」と、ワザとらしい御辞儀を私にするとそのままガシャン!と非常階段のドアを閉め、ドアのカギをガチャン!と閉めたのでした。

 いつの間にか日が暮れ、ふと顔をあげると非常階段は真っ赤な夕日に照らされていました。
 夕日に染まる新宿のビル群はチカチカと赤い光を点滅させ、電気が付き始めた都庁はまるで合体ロボットのようでした。
 ビルの下の大通りには溢れんばかりの車のテールランプが無数にキラキラと輝き、茶色い排気ガスがイナゴの大群のようにモワモワと沸き上がっておりました。
 私はふとビルの中が静まり返っているのに焦りを感じました。早く終わらせて帰ろう。そう思った私は、大好きな夕暮れ時の新宿に包まれながらせっせと鳩のフンを雑巾で拭き始めました。
 やっと非常階段の床のフンを拭き終えた私は、次は手すりにこびり付いているフンに取り掛かりました。気がつくといつの間にか非常階段には蛍光灯の冷たい光が灯り、ネオンが輝く新宿の空は真っ暗でした。
 時計を見るともう10時を過ぎています。
「お腹が空いたなぁ……」
 そう独り言を呟いた瞬間、いきなり非常階段の扉がガチャッと開きました。
「終わりましたか」
 そこには、非常階段の緑色に照らされた棚崎部長が立っていました。
「いえ、あとはここだけです……」
 私は慌てて手すりに雑巾をあてます。
 すると棚崎部長は「今日はもういいだろう……あとは明日にしなさい」とポツリと呟き、そのままスタスタとスリッパを鳴らしながら消えて行きました。

 掃除道具を片付け、トイレの洗面所で爪先にこびり付いた鳩のフンを洗い流していると、ふいにトイレの入口に現れた棚崎部長が「聞きたい事があるから、手を洗ったらちょっと来てくれ」と、洗面所で前屈みになっている私の背中に向かって吐き捨てるように言いました。私が洗面所からパッと顔をあげると、私の目の前にある鏡にはその場を去ろうとする棚崎部長の横顔が一瞬だけ見えました。その顔は非常階段の緑色の灯りがボンヤリと照らされ、まるで特殊メイクをしているのではと思うくらいにカマキリに似ていたのでした。

(つづく)

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