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堕落のアッコちゃん(1)

2013/05/30 Thu 17:30

●1アッコちゃんタイトル



 カラッとした秋晴れだった。
 水野明子は朝の空気を胸一杯に吸いながら、丘の上の学校に続く遊歩道を一人歩いていた。
「アッコぉー!」
 背後から聞こえる声に振り向くと、緑の樹木に挟まれた坂道を、夏美と香代が大きく手を振りながら走って来るのが見えた。
 バタバタと靴音を立てて二人が同時に止まった。ハァハァと肩で息をしながら明子の横に並ぶ二人に、明子が「おはよ」と微笑むと、今度は小さなエンジン音が背後から迫って来た。ハァハァと呼吸を整える夏美が振り向きながら言った。
「松崎の奴、また原チャリで登校してんだよ」
 立ち止まって振り返ると、黒い原付に乗ったフルフェイスの松崎が見る見る近づいて来た。
「アッコ、おはよ」
 松崎のバイクが三人の後ろで止まった。小気味良い排気音がカラカラカラっと響き、原付バイク特有の焦げた排気ガスの匂いが辺りに漂った。
「おはよ、じゃないよ。この間、西野先生にバイク通学を注意されたばかりじゃない」
 明子が頬をプッと膨らませながらいうと、松崎は「ごめんごめん、寝坊しちゃってさ、今度から気をつけるよ」と苦笑いしながら素直にエンジンを止めた。
 そんな松崎の後ろから、続々と生徒達が坂を上って来た。松崎の原付を囲んで立ち止まっている明子達を横切る生徒達は、口々に「アッコおはよ」と声を掛けていった。それは仲の良い友達だけでなく、喋った事のない男子も、名前も知らない下級生も、みんなみんな明子に「おはよう」と声を掛けるのだった。

 そんな明子は、いわゆる学園のアイドルだった。
 常に成績は学年トップで、教師達からは東大は間違いないと太鼓判を押されていた。
 しかし、かといって明子はガリ勉タイプではなかった。
 二年の時にはテニスの都大会に出場した事もあれば、世田谷美術コンクールでは風景画部門で優勝した事もある。勉強も芸術も、そしてスポーツも優秀な記録を残していた。
 しかも明子は、誰もがびっくりするくらいに可愛かった。学園祭の『彼女にしたい生徒ランキング』では三年連続一位で、某有名ファッション雑誌の人気企画『制服の似合う女の子』でも、東京地区の二位にランキングされるほどだった。雑誌のモデルやテレビ出演からの依頼も殺到していた。挙げ句の果てには、人気絶頂のアイドルグループのプロデューサーが直々にスカウトにやって来るくらいだった。
 しかし明子は、そんなアプローチを全て無視し、普通の女子高生として生活していた。自分の優秀さをひとつも自慢する事なく、皆と同じように学校に通っていた。
 明るくて可愛くて成績優秀で、尚かつそれを威張らない優しい女の子。そんな明子が学園のアイドルになるのは必然的な結果であった。

 長い坂を登り切ると白い校舎が見えて来た。校門の前では生徒指導の西野先生が仁王立ちになり、生徒達に「おはよう!」と威嚇していた。松崎は、「ちっ」と舌打ちしながら足を止めると、バイクを引いたまま遊歩道の脇の林の中に潜り込んだ。
 バキバキバキと小枝が折れる音がした。「大丈夫?」と心配そうに林の中を覗く明子を、夏美と香代が「アッコ、そんなの無視して行こうよ」と言った。
「うん……でも、心配だから、ちょっと見て来る……」
 そう言いながら明子が林の中に入っていくと、夏美と香代は呆れながら「先に行ってるよ〜」と笑い、校門へと向かったのだった。

 林の中は、昨夜の雨でじっとりと湿り、緑の香りが濃厚だった。
 雨で弛んだ地面を恐る恐る進む明子は、バイクを引きずりながら進んで行く松崎の背中に「どこまで行くの」と声を掛けた。松崎は、雑草の中に捨ててあるペシャンコになった段ボールの前で足を止めると、「ここ」と笑いながらその段ボールを爪先でひっくり返したのだった。

「へぇ〜いつもここに隠してるんだぁ〜」
 明子が興味津々でそこを覗き込むと、松崎は「灯台下暗し」と自慢げに笑いながら潰れた段ボールでバイクを隠した。
 その上に枯れ葉をバサバサと散りばめながら、「なぁ」と明子に呟いた。
「ん?」と首を傾げる明子から慌てて目を反らした松崎は、「放課後……カラオケ行かねぇか……」と小さく呟いた。
 頭上で野鳥がキュッキュッキュッと鳴いていた。爽やかな朝の風が雨上がりの木々をすり抜け、明子のミニスカートを小さく揺らした。松崎は、両手で濡れた枯れ葉を鷲掴みにしたまま黙って明子の返事を待っていた。そんな松崎の汚れたスニーカーをジッと見つめながら、明子は(あの時もそうだった……)とふと思った。



 それは、二ヶ月前の土曜日だった。
 下校途中、バイクでやって来た松崎に「たまにはカラオケにでも行ってストレス発散させようぜ」と誘われ、駅裏のカラオケボックスに連れて行かれた。
 てっきり夏美や香代や雄次や高橋がいると思っていた。しかし、カラオケボックスには誰もおらず、待てど暮らせど誰もやって来なかった。
「みんなは?」と聞いた瞬間、松崎の目がギラリと輝いた。
「アッコ……」
 そう言いながら、松崎はいきなり明子の肩を両手で掴んだ。「えっ?」と目を丸めると、松崎は真正面から明子の顔を覗き込みながら、「好きなんだ」と呟いた。
 不意に隣りの部屋から安室奈美恵の『SWEET 19 BLUES』のイントロが聞こえて来た。松崎は、その曲に合わせるかのようにして、もう一度「好きなんだよ……」と小声で囁くと、ジッと明子の目を見据えた。
(だから……なに?)と明子は頭の中で呟いた。あまりにも松崎の顔が近すぎて緊張していたため声が出なかったのだ。
 すると、ジッと明子の目を見つめていた松崎の顔がいきなり迫って来た。(あっ!)と思った瞬間、松崎の唇が明子の唇に押し付けられ、生暖かい舌が口内にヌルっと侵入して来たのだった。

 まさかこんな展開になるとは夢にも思っていなかった。明子は一瞬にして全身が硬直してしまった。まして明子はキスの経験がなかった。十七歳になる今まで一度も男の子と付き合った事はなく、男の人に手を握られた事もなければ髪を撫でられた事もない生娘だった。
 このいきなり訪れた恐怖に明子は何がなんだわからなくなってしまった。体が固まり、頭が真っ白になっていた。抵抗できないまま、ただただ松崎の生暖かい舌の動きを脳で追っているだけだった。

 ふと気が付くと胸を揉まれていた。松崎の指が動く度に制服がカサカサと音を立て、不快感に近い感触が幼気な胸を刺激した。
 そんな松崎の指が、ジワリジワリとブラウスのボタンを外し始めると、そこで初めて、明子は「イヤ!」と叫んだ。が、しかしそれは頭の中で虚しく響いているだけであり、声にはならなかった。
 ブラウスを掻き分けた松崎の指は、まるで蛇のようにしてブラジャーの上から忍び込んで来た。カサカサした指先が、その柔らかさを確かめるかのようにして、白い乳肉をむにゅむにゅと押していた。
 松崎の手がブラジャーの中にすっぽりと治まった。大きな手の平は、パン生地をこねるようにして柔らかい乳肉を揉み始めた。
(イヤ、イヤ、イヤ、イヤ)
 今までにない不快感に襲われた明子は、脳も体も固まったままその言葉だけを必死に唱えていた。
 松崎が松崎ではなくなっていた。今、目の前で、必死に胸を弄っているこの男は、あのいつも愉快で剽軽な松崎ではなく全くの別人なのである。
 男。これが男という生き物なんだ。そう思った瞬間、さっきから右太もものに押し付けられているコリコリとした物体の正体がわかり背筋がゾッとした。虫歯臭い口臭と、舌にヌルヌルと絡み付く唾液に激しい吐き気を催した。
「うっ」と嘔吐きながら、おもいきり顔を左に反らすと、勢い余った松崎の顔が明子の右肩に倒れた。唾液でネトネトになった松崎の唇が鎖骨に押し付けられた。思わず明子が「いや!」と小さく叫ぶと、松崎は「好きなんだよ、気が狂いそうなほど好きなんだよ」と呟きながら、そのまま明子のうなじに舌を這わせた。

 隣りの部屋から『SWEET 19 BLUES』のサビが聞こえて来た。歌っている女の人は、相当この曲を歌いこなしているらしく、強弱の激しい部分は声を枯らして誤魔化している。
 そんな歌声が響く小さな部屋で、松崎は明子をソファーに押し倒した。スカートの中に手を入れ、凄い力で太ももをこじ開けようとした。明子は必死に太ももを閉じながら、「やだ、やめて!」ともがいていたが、しかし、もう片方の手で乳首をキュッと摘まれた瞬間、まるで何かのスイッチを入れられたように急に力が抜けた。
 その一瞬の隙を狙って、松崎は弛んだ太ももの中に手を入れた。股間の奥で松崎の指がモゾモゾと動き出し、木綿のクロッチが明子の膣にグイグイと押し付けられた。本気で犯されると危惧した明子が、「やめて!」と大きな声で叫ぶと、それと同時に松崎の指がクロッチの端から滑り込んだのだった………



 原付バイクに被せた段ボールの上に、松崎は湿った枯れ葉をドサドサと乗せていた。そんな松崎の背中を見ながら、明子はあの時の恐怖を思い出していた。
 あの日、結局松崎は明子の性器に一度触れただけだった。それは、松崎の指がそこに触れた瞬間、明子が顔をくしゃくしゃにして泣き出したからだった。
 それから二ヶ月間、お互いあの時の事には一切触れないようにしていた。ふとした時に、二人の間に気まずい空気が流れる事はあったが、互いに気を使っているせいか、そんな空気はすぐに消えた。だから二人の関係は、何もなかったかのように今まで通りの関係に戻りかけていた。
 しかし、せっかくあの出来事を封印していたのに、ここに来て松崎はパンドラの箱を強引にこじ開けようとしていた。

「放課後……ここで待ってるから……」
 振り返った松崎は、恥ずかしそうにモゾモゾしながら明子の顔を覗き込み、「な、いいだろ?」と確認をした。
 明子は下唇を噛みながら首を振った。長い黒髪が乱れ、朝の秋風に昨夜のリンスの香りが漂った。
「もうすぐ受験だよ……そんな事してる暇ないよ……」
 松崎を傷つけないようにしようと、そう優しく微笑んだ明子だったが、しかし、そんな明子の目を見ていた松崎の目が、いきなりギラッと鈍く光った。
 松崎の両手が明子の細い肩を鷲掴みにした。真正面から見据える松崎の唇が迫ると同時に、あの時、乱暴にワレメを擦られた松崎の指の感触が蘇り、明子は咄嗟に後ろに飛び退いた。
 松崎は、明子の肩に乗せていた両手をMJのスリラーのゾンビのようにぶらりと伸ばしたまま、「……どうしてだよ……」と悲しそうな表情を見せた。
 そして、ふらふらと明子に近づきながら、「俺の気持ち……わかってるんだろ?……」と首を傾げた。
 明子は、枯れ葉を踏みしめながら後ずさりした。
「わかってる……私も、松崎の事、嫌いじゃないから……」
「じゃあどうして!」
 松崎が感情的に叫んだ。
「……受験を控えてるのよ……今はそんな気分にはなれないわ……」
 突然、丘の上の校舎からチャイムが鳴り出した。校門の前で、「早くしろ!」と怒鳴っている西野先生の声が林の中に谺していた。
 松崎は、明子の目をジッと見つめたまま立ち止まっていた。
「だから、今はお互い受験の事だけを考えましょ……ね?……」
 そう首を傾げながら松崎の顔を覗き込むと、不意に松崎が「ふっ」と鼻で笑った。それは、まるで何かに拗ねているような、嫌悪を感じる笑い方だった。
 明子は、松崎がそんな笑い方をするのを見るのは初めてだった。嫌な予感がし、一瞬背筋がゾッと寒くなった。
 松崎はもう一度「ふっ」と鼻で笑いながら顔をいやらしく歪めた。そして明子の顔を上目遣いでチラチラと見ながら、「ヌルヌルだったくせに……」と呟いたのだった。

 明子の顔が一瞬にしてカッと赤くなった。
 確かに、あの時の明子の性器はシロップを垂らしたかのようにヌルヌルに濡れていた。決して性的興奮していたわけでもないのに、無意識のうちに下着まで汚してしまっていた。
 それをズバリ指摘された明子は、強烈な恥ずかしさと怒りに包まれた。しかし、事実、そこを触られている以上、言い訳する事も誤魔化す事も出来ず、明子はただただ顔を真っ赤にしながらその場に立ち竦み、激しい羞恥と怒りに耐えるしかなかった。
 すると、そんな明子の表情に松崎は慌てた。元々気の弱い彼は、今にも泣き出しそうな表情で明子の顔を覗き込みながら、「ごめん、そんなつもりで言ったんじゃないんだ」と言い換えた。
 校門の方から「あと一分!」という西野先生の怒鳴り声が聞こえて来た。明子はギュッと下唇を噛んだまま、枯れ葉を蹴って走り出した。
「本当に好きなんだ!」という松崎の声が背後で聞こえた。明子は振り向きもせず枯れ葉の坂を駆け上ったのだった。

 松崎から受けた屈辱により、激しい羞恥と怒りに苛まれていた明子は、教室に入ってもなお貪よりと落ち込んでいた。
 朝のホームルームでは、担任の磯貝先生から「体調悪いのか?」と聞かれ、一時限目の数学でも二時限目の日本史でも、それぞれの教師がいつもと違う明子の異変に気付き、「どうした?」と心配してくれた。休み時間になる度に大勢の女子生徒が明子を取り囲み、皆が心配そうに明子の顔を覗き込んでは、「大丈夫?」や「熱があるんじゃない?」と口々に声を掛けてくれた。そのくらい、この日の明子の様子はおかしかった。
 そんな明子の頭の中では、常に松崎のあの言葉が浮かんでいた。
「ヌルヌルだったくせに……」
 そう吐き捨てた時の松崎のいやらしい目と、馬鹿にしたような歪んだ頬。そんな松崎の表情が言葉と共に浮かぶ度に、明子は叫び出したいほどの羞恥に駆られ、激しい自己嫌悪に陥ってしまうのであった。

 たったその一言で、明子がこれほどまでに落ち込んでしまうのには、それなりの理由があった。
 それは、あの出来事があったその夜、明子はもうひとつの黒い渦に巻き込まれていたからだった。
 その黒い渦は、松崎のそれとは比べ物にならないくらい、残酷で悲惨で、そして卑猥だった。もう二度とその黒い渦の中から出て来れなくなり、一生その黒い渦に巻かれて生きていかなくてはならないと思えるほど、それは、そのくらい明子にとって衝撃的な出来事だった。

(つづく)

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