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毒林檎1

2013/05/30 Thu 18:00

毒林檎1



 俺は、原田凉子に指定された新宿のMホテルに向かって都庁前の歩道を歩いていた。
 時刻は正午を回ったばかりだった。
 気持ちの良い秋晴れ。
 これから始まるスリリングな計画への期待。
 ホテルへと向かう俺の足取りは、自然に軽やかになっていた。

 こんな時間からホテルにしけこんでセックスするのは久しぶりだった。
 二年前、当時付き合っていた小笠原由貴とは、よく真っ昼間からホテルでセックスしていた。
 由貴とは同じ会社の同じ営業部だったから、外回りの営業をサボってそれをするのは容易い事だった。
 しかし、由貴と別れてからは、そんな冒険は全くしなくなった。
 最も、あいつと別れてすぐに俺は結婚したから、そんな冒険をする暇も体力も、そしてその必要もなくなっていた。新居と新妻を得てしまった俺は、それで満足していたのだ。

 なのに俺は今、また冒険をしようとしている。
 今まさに、真っ昼間のホテルにしけこみ、まだ見た事のない人妻を抱こうとしている。
 別に妻に飽きたというわけではない。
 特に妻以外の女とヤリたくて堪らないというわけでもない。

 ならばどうして?

 その理由は、原田凉子に持ちかけられたその計画があまりにも楽しそうだったからだ。そんなスリリングなセックスは普通ではなかなかできないと思い、俺は二つ返事でその計画に乗ったのだ。
 しかもこれは、その計画の面白さだけでなく、その相手となる人妻も実に魅力的な女だったのだ。
 最初は、どうせこんな馬鹿げた計画に乗って来る女など、デブ、ブス、ババア、といった醜い女に決まっていると高を括っていたのだが、しかし、原田凉子から相手の写真をスマホで見せられた時、俺はおもわず「これ、なんかの詐欺じゃないでしょうね?」と、原田凉子を疑ってしまったほどだった。

毒りんご1

 そのくらい相手の女は綺麗だった。だからその写真を見たとたん、俺は原田凉子に対して警戒してしまったのだが、しかし、よくよく考えれば、原田凉子ほどの女が俺のような貧乏人を詐欺るというのもおかしな話だった。

 そもそも原田凉子という女は、ウチの会社の顧問をしている弁護士だった。しかも年齢は三十歳と、弁護士にしては若く、スラリと伸びた美脚に長い黒髪がよく似合う、知的女特有の冷たい感じのする美女だった。
 そんな原田凉子が本気を出せば、その地位と頭脳と美貌で、大企業の社長でも大物政治家でも、俺なんかよりもずっと金を持っている奴らから大金をせしめる事はいくらでもできるだろう。だからわざわざ危ない橋を渡ってまでも貧乏人のこの俺から小金を詐欺る必要などどこにもないのだ。

 そう思った俺は素直に原田凉子を信じ、この計画に乗る事にした。
 それを原田凉子に伝えると、さっそくその日のうちに、俺のUFJ銀行の通帳に五万円が振り込まれ、それと同時に、計画実行の期日と場所、そして計画内容が記されたメールが俺のPCのメールに送られて来た。

 これがそのメールだ。

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 お世話になっております、弁護士の原田です。
 この度は、貴殿のお力をお貸しして頂ける運びとなり、大変有り難く思っております。
 早速ですが、計画の日程が決まりましたので御報告させて頂きます。


 期日・10月7日
 時間・13時
 場所・新宿Mホテル


 尚、念の為、前回打ち合わせ致しました計画内容を記しておきます。
 誠に御面倒をお掛けしますが、デリケートな案件故に、今一度、御慎重に計画の御確認をしていただけますようお願い申し上げます。

① Mホテルの2階ラウンジ『花梨』にて、依頼人に貴殿を御紹介致します。その際、前回貴殿にお渡しした『霊媒師』の名刺を依頼人に渡して下さい。貴殿にはあくまでも『霊媒師の石橋』を演じて頂き、呉々も私と内通している事を依頼人に悟られぬようにして下さい。

② 喫茶店ではアイスコーヒーを注文して頂きます。アイスコーヒーが届き、二口飲んだ後、トイレに行って下さい。その間に私が貴殿のアイスコーヒーに睡眠薬を入れます。もちろんこの睡眠薬は偽物であり、ラムネを砕いた粉末ですので人体には全く影響はございません。しかし、依頼人は強力な睡眠薬だと思っておりますので、貴殿にはそれなりの演技をして頂きます。

③ 依頼人を霊視するという名目で、3人でホテルの部屋に向かいます。すぐに貴殿は気分が悪くなったと言ってベッドに寝て下さい。そしてすぐさま眠った演技をして下さい。その際、貴殿が本当に寝ているかどうかを私が確認いたしますが、それには絶対に反応しないよう我慢して下さい。

④ その後、眠った演技をする貴殿と依頼人を残し、私は部屋を出て行きます。その時点で、貴殿の体は依頼人のモノとなります。約1時間ほど貴殿の体は依頼人に弄ばれる事となりますが、もちろん依頼人には避妊具の使用を厳守する事や、又、貴殿の体に危害を加えるような危険行為は絶対にしないようにと十分言い聞かせておりますので、その点はご安心下さい。

⑤ 依頼人は貴殿が本当に眠っていると思い込んでおります。先日お話ししましたように、依頼人は性嗜好障害者であり、眠っている男性にしか性的欲情を感じないという病気なのです。しかも依頼人は、同時に極度な男性恐怖症という厄介な病気を持っております。ですから、もし貴殿が途中で目を覚ましたりするとパニック障害を引き起こす可能性が高く、非常に危険な精神状態となる恐れがございます。そのため、絶対に途中で目を覚ましたりしないで下さい。例え貴殿が途中で我慢できなくなったとしても、絶対に貴殿から依頼人に手を出さないで下さい。もし貴殿がこの計画を無視し、自らの意思で依頼人に手を出すような事があれば、不本意ながらその場で貴殿を強姦罪で訴えなければならなくなりますので、その点、御了承の上、十分にお気をつけ下さるようお願い致します。

⑥ この計画の趣旨は、依頼人を騙す事が目的です。依頼人を騙しながらも、その要望を叶えてやる事が目的なのです。そもそも、眠っている男性と性行為をする事など現実的には不可能です。例えば、強力な睡眠薬や麻酔薬を使用すればそれは可能かもしれませんが、しかしそれは明らかに犯罪であり、法を守るべく弁護士としましては、さすがにその要望にはお答えできません。ですから、今回、貴殿に御協力頂き、このような計画を立てさせて頂いたのです。幸い、依頼人は貴殿の写真を御覧になり、大変乗り気になっております。ですから、例えこれが依頼人を騙す計画であっても、依頼人だけがこの事実を知らぬままに計画を終わらせれば、この計画は成功となるのです。もちろんその場合には、お約束通り、先にお支払いした手付金とは別に五万円の成功報酬をお支払いさせて頂きますので、何卒、計画を成功させて頂けますよう宜しくお願い致します。

          原田法律事務所 弁護士 原田凉子

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 そこには、この計画の趣旨、順序、そして注意事項に至まで事細かく記されていた。
 もしこれが本当であり、この計画の裏に詐欺とか策略といった騙しが何もないのであれば、これほどおもしろくておいしい話はない。
 要するに、ただ寝転がっていればいいのだ。ホテルのベッドで小一時間寝たフリをしているだけで十万円が貰えるのである。しかも驚く事に、寝たフリをしている間に綺麗な人妻が勝手にセックスしてくれるという信じられないサービス付きなのだ。
 これは怪しい。話が旨過ぎる。
 が、しかし、弁護士ともあろう者が、こんなメールを送って来るくらいだから、恐らくこれは事実であろう。もしこれが何らかの詐欺だったとしたら、このメールもあの手付金の振込も証拠となってしまうわけであり、そんな不利益な事をあのヤリ手女弁護士がわざわざするはずがないのだ。

 だから俺は今、巨大な都庁を時々見上げつつ新宿Mホテルに向かって歩いている。
 青空に聳え立つ都庁は、熱り立つペニスを想像させた。根元に植えられた街路樹は陰毛で、竿の所々に張りついているオリンピックの垂れ幕はティッシュのカスだった。
 と言う事は、青空に浮かんでいるあの白い雲は精液だな、と思いながらゆっくりと顔を元に戻すと、目の前のT字路の奥で新宿中央公園のナイアガラの滝がキラキラと輝いているのが見えた。
 新宿中央公園は、すっかり秋に染まってた。
 つい先日まで緑一色だった木々は紅葉に染まり、ベンチで雑談しているホームレス達の衣装も、ランニングシャツから濃紺のドカジャンに変わっていた。

 スマホのナビ通りに公園を抜けると、Mホテルはすぐ目の前にあった。
 レンガタイルの張られた10階建てのホテルだった。
 まるでバブル期のマンションのような趣味の悪いエントランスを進み、黒いフイルムが張られた自動ドアを抜けると、広いロビーには埃っぽい絨毯が広がっていた。
 いきなりロビーの真正面にエスカレーターが伸びており、そのエスカレーターを上がった正面のレンガの壁に、『喫茶・花梨』と書かれた看板が見えた。
 とにかく古臭いビジネスホテルだった。派手な絨毯の柄もキラキラと輝くシャンデリアも、そして意味もなく置かれているミロのヴィーナスの石像も昭和の香りがプンプンした。
 そんな内装も下品だったが、ロビーに屯している人達もやっぱり下品だった。
 エレベーター前の小さなソファーには、見るからに水商売とわかる派手なおばさんが細い煙草をプカプカと吹かしていた。観葉植物を挟んだその横のソファーには、まさに一仕事終えたばかりといったデリヘル嬢らしき女が、疲れ切った表情でスマホを弄っていた。
 小さな売店には中国人の団体が群がり、フロントには農協の団体らしき田舎臭い親父達が群がっては、「酒は持ち込みしとるはずなんに、なんでこんな料金になるんや!」と若いフロントマンを恫喝していた。そして奥の応接セットには、今時珍しい暴力団風の男達が、何やら深刻そうな表情で密談を交わしているのだった。

 エスカレーターに運ばれながら、そんなロビーを上から眺めていた。ロビーにいるほとんどの人が煙草を吸っているせいか、エスカレーターが上がるにつれ、煙の濃度は薄れていった。
 エスカレーターを降り、看板の矢印の方向を見ると、すぐに喫茶店の入口だった。
 重いガラス戸を引いて店内に入ると、店を囲むFIX窓には新宿公園の紅葉が見事に広がっていた。
 素早く「いらっしゃいませ、お一人様ですか?」と聞いて来た茶髪の女店員の肩越しに、原田凉子が手を挙げているのが見えた。
 そんな原田凉子の隣には、まるでグリム童話に出てくるお姫様のような清楚な女が、白いオーラを輝かせながら潮らしく座っていたのだった。

(つづく)

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