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毒林檎12

2013/05/30 Thu 17:59

毒林檎12



 遂に女はイった。
 恍惚とした半開きの目で、眠ったフリをする俺の顔をジッと見ながらイってしまった。
 細い肩をハァハァと揺らしながら、女はゆっくりと腰を上げた。
 ドロドロに濡れた穴の中からペニスが勢い良く飛び出し、小便に濡れた腹にピタンっと音を立てては跳ね上がった。
 イキそびれた俺のペニスは、まだビンビンに勃起していた。白濁の汁が滴るコンドームは、おばあちゃんの指のようにシワシワになっていたが、しかしその中の肉棒は石のように硬くなったままだった。
 それでも女は、そんなペニスを無視するかのように俺の体からスルリと下りた。
 ズルズルとベッドの端に移動すると、ベッドの下に落ちていた白いバスタオルを拾った。そして「ふーっ……」と小さな溜め息をつきながらゆっくりと立ち上がると、勃起した俺を放置したままフラフラと浴室に向かって歩き出したのだった。

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 浴室のドアがガチャンっと閉まると、同時に俺はムクっと顔を上げた。
 白いレースのカーテンに、新宿公園の緑が薄らと透けているのが見えた。シーンっと静まり返った部屋には、セックス後の独特な空気が貪よりと漂い、床に落ちた掛け布団と乱れたシーツが、より一層卑猥感を醸し出していた。

 ビンビンに勃起している悲しいペニスを、ピンっと指で弾いた。そしてその指でコンドームに滴る白濁の汁をヌルヌルと擦り、その奥に潜む硬い肉質を確かめながら(どうすんだよコレ……)と情けなく呟いた。
「チッ」と舌打をしながら起き上がると、浴室からシャワーの音が聞こえて来た。
 それを確認した俺は、ムラムラした気持ちのままベッドを下りると、約二時間近く固まっていた体を思いきり伸ばした。
 ムムムムムっ……と唸りながら背伸びをした。そしてそのまま後ろに仰け反ると、不意に鏡台の前に置いてある女のバッグが目に飛び込んで来た。
 俺は慌てて体を元に戻し、絨毯に足音を忍ばせながら鏡台へと向かった。そして口が開いたままの黒いバッグの中を覗き込むと、一番上にポツンと置いてあった携帯電話を素早く取り出した。
 何度も何度も浴室に振り返りながらガラケーをパカッと開き、取りあえずメールボックスを開いたのだった。

 着信メールのほとんどは、『沙耶』という名の女のものばかりだった。恐らく娘であろう、その内容は『今、塾に着いたよ』や、『今日の晩ご飯のおかずはなに?』といったくだらないものばかりだった。
 そこには、原田凉子とやり取りしているメールはひとつも見当たらなかった。彼女からのメールがあれば、その中に、あの女の正体を特定できるような事が書いてあるだろうと期待していたのだが、やはり計画が計画だけに警戒しているのか、原田凉子のメールは全て削除されているようだった。
 それでも俺は、この中に何かひとつでも女の正体がわかるようなヒントが隠されていないかと、必死になって過去のメールを開きまくった。
 スクロールしながら流れるメールを目で追った。ものの見事に、『沙耶』、『沙耶』、『沙耶』、と娘のメールばかりが並んでいたが、しかし、ひとつだけ『原田先生』と表示されたメールがポツンっと潜んでいるのを発見した。

 それは今から約一ヶ月ほど前、原田凉子から送られて来たメールだった。

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真鍋商事の違約金請求事件について御報告致します。
予てより、請求額の半額を支払うという事で和解を進めてまいりましたが、先月の五日をもち、無事和解が成立致しました。
確かに、アーノルド氏を箕輪社長に紹介したのは奥様であり、御自身が責任を感じるのも無理はありませんが、しかし、今回のトラブルの原因は全てエルウェイ・ホールディングス側にあり、奥様の責任ではございません。
 それは、箕輪社長はじめ西野専務も十分承知している事ですので、どうか御安心下さい。

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 このメールには、今回の昏睡レイプについては一言も書かれていなかった。だから女は、原田凉子から届いたいくつかのメールの中で、このメールだけは安心だと思い削除しなかったのだろう。
 が、しかし、このメールは決して安全なメールではなかった。いや、むしろ非常に危険なメールだった。
 というのは、このメールの内容から、俺は彼女の正体がわかってしまったからだ。

 俺の会社はミノワ・エージェンシーと言い、世界各国から宝石を買い付けている貿易の会社だった。
 社長の名は箕輪裕一郎。
 メールに書いてあるように、確かにウチの会社は、昨年の二月頃から民事訴訟を起こされていた。
 告訴したのは、銀座の真鍋商事という宝石店だった。期日までに約束のスターサファイアが仕入れできなかったという事で、莫大な違約金を請求してきたのだ。
 仕入れができなかった理由は、買い付けを依頼していたエルウェイ・ホールディングス社が、約束のスターサファイアを手に入れられなかったからだ。
 エルウェイ・ホールディングス社というのは香港にある貿易会社で、ウチの会社とは初めての取引だった。エルウェイ・ホールディングス社の社長の名前は、確かにアーノルドだった。ガキの頃、『アーノルド坊やは人気者』を毎週欠かさず見ていた俺だったから、その名前をはっきりと覚えていたのだ。

 俺は愕然としながら、女のバッグの中からシャネルの財布を取り出した。震える指で財布を開き、そこにズラリと並ぶカードの中から免許証を抜き取った。
 写真は間違いなくあの女だった。名前欄には『箕輪恵子』と表示され、その住所も、社長の本宅のある大田区田園調布が記されていた。生年月日は、昭和54年7月3日、今年三十五歳だ。確か、社長の三番目の奥さんも、俺と同じ三十五歳だった。

 そう。これであの女の正体は決定的だった。あの変態女は、なんとウチの会社の社長の奥さんだったのだ。宝石業界で『奇石の天皇』と呼ばれ、宝石貿易の腕前にかけては右に出る者はいないと言われている大物、箕輪裕一郎の後妻だったのである。

 俺は指を震わせながら免許証を財布に戻した。そして携帯電話もその財布も元通りにバッグの中に戻すと、ふと、そのバッグの中にギラリと光る大粒のダイヤモンドリングが無造作に転がっているのが見えた。
 それは3カラットのダイヤモンドだった。軽く見積もっても二千万円はするだろう。
 やはり女は、薬指にはめていた結婚指輪を隠していたのだ。これほど豪華な指輪を見られると俺に怪しまれると思い、バッグの中に隠していたのだ。

 俺は慌ててベッドに飛び乗った。
 焦っていた。焦りまくりだった。
 まさか、あの女が社長の奥さんだったなんて、想像するだけで全身から汗が噴き出し、必死に閉じている瞼がヒクヒクと痙攣した。
 これがばれたら間違いなくクビだ。いや、あの病的に嫉妬深い箕輪社長の事だ、この事実を知ったらクビだけでは済まさないだろう、もしかしたらフィリピンあたりの殺し屋を雇って俺を殺すかも知れないのだ。
 大袈裟だと思うかも知れないが、あの社長ならそれくらい本当にやりかねない。事実、今から二年ほど前、予てから社長の奥さんと不倫しているという黒い噂があった加藤常務が、出張先の大阪のホテルで変死体で発見されているのだ。

 ……加藤?……

 その名前を思い出した瞬間、眠ったフリをしている俺の心臓がドクンっと跳ねた。
 今まで気付かなかった。
 今、初めて気付いた。
 そう、あの女がさっき俺を犯している最中に口走っていた名前も加藤だった事を……

 今から二年前、加藤常務は、大阪淀屋橋のホテルで全裸のままベッドに仰向けになって死んでいたらしい。
 性器にはコンドームが装着されたままだった事から、警察は、加藤常務が売春婦を部屋に呼び出し、その最中に突然死したと見て、逃げた売春婦の行方を追った。
 しかし、その後の解剖の結果、加藤常務の体内から大量のベラコラボ・アテンサトミンが検出された事で事件は一転した。ベラコラボ・アテンサトミンというのは、主に強力な睡眠薬などに含まれている成分で、大量に服用すると心臓発作を誘発する恐れのある危険な成分だった。
 しかし、加藤常務が過去に睡眠薬を常用していたという事実はなかった。
 事件は急遽、殺人事件として切り替わった。財布等が物色された形跡がない事から、事件は物取りの犯行ではなく『痴情のもつれ』という線で捜査が始まった。
 捜査の目は、今まで追っていた売春婦から加藤常務の身辺へと向けられた。警察は加藤常務の行きつけだったスナックのママから、社内のOL達に至まで、加藤常務と不倫関係がなかったかを徹底的に調べ始めた。
 しかし、そんな捜査も、ものの三日で打ち切られた。なんと警察は、突然『被害者はただの心臓発作だった』と言い出したのだ。あれだけ鼻息が荒かった刑事達なのに、わずか三日足らずで捜査を打ち切ってしまったのだ。
 加藤常務の死は、出張先で淫売婦を買い、年甲斐もなく頑張り過ぎた結果の腹上死だったとして簡単に片付けられてしまった。
 もちろんそれは箕輪社長が裏工作した事だった。奇石の天皇とまで呼ばれる箕輪裕一郎には、それを揉み消すだけの金もコネも持っていたのだ。

「これ以上、世間を騒がせれば会社の信用に関わる。それに痛くも無い腹を探られ、つまらん色恋沙汰でも出て来たら、それこそ加藤君の名誉を傷つける事になってしまうだろう」

 それが、箕輪裕一郎が捜査を打ち切らせたという理由だった。
 殺人事件という重罪を、そんな理由で有耶無耶にしてしまった箕輪裕一郎だったが、しかし、誰も社長のその言葉を信じてはいなかった。

「毒林檎を喰わされたんだ」

 誰かがそう言い始めた。

「奥さんと加藤常務が不倫している事に嫉妬して、社長が加藤常務に毒を盛ったんだ」

 たちまちそんな噂が社内に広がった。

「あの男ならやりかねない」

 会社の誰もがそう思った。社長とは口を聞いた事すらない平社員の俺でさえそう思った。そのくらい箕輪裕一郎という男は、怖い男として知られていたのだ。

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 ベッドに寝転がる俺は、ひたすら眠ったふりをしながら震える膝を必死に堪えていた。
 これが社長にばれたら、俺も加藤常務のように消されてしまうだろうと本気で脅え、一刻も早くこの時が過ぎる事を祈っていた。

 暫くすると、浴室のドアがカチャっと開いた。
 もはや薄目を開ける勇気のない俺は、瞼の裏の闇をジッと見つめたまま、女の足音に神経を集中させていた。
 女は窓際へと向かった。足音に混じり、絨毯にポタポタと水滴が落ちる音が聞こえたから恐らく全裸だろう。
 一瞬、女の柔らかい裸体が頭に浮かんだ。しかし今の俺は欲情を覚える事はなく、ただひたすら脅えていた。

 窓際からスルスルと衣類が擦れる音が聞こえて来た。
 着替えを終えた女が静かにベッドに腰掛けた。ベッドのクッションがググっ凹み、眠ったふりをする俺の体が微妙に傾いた。
 女はカチャっと携帯を開いた。ピッピッピ、と素早い操作音を鳴らすと、すぐに静まり返った部屋に、プププ、プププ、というソフトバンクの発信音が微かに響いた。

「もしもし……今、終わりました……」

 女はまるで、一仕事終えたホテトル嬢のようにそう告げると、そのままピっと電話を切ってしまった。

 恐らく電話の相手は原田凉子だろう。
 いや、彼女しか考えられない。
 よりにもよって社長の奥さんとこんなことをさせるなんて、あの悪徳弁護士だけは絶対に許さねぇからな、と憤懣しながら眠ったふりを続けていると、いきなりベッドを立ち上がった女が、俺を見下ろしたまま「ふっ」と鼻で笑った。

 俺は、女のその鼻笑いに奇妙な違和感を感じた。
 それはまるで、踏み潰した害虫の死骸を見て優越感を感じているような、そんな非道な鼻笑いだったのだ。

 今までマゾヒストだった女が、いきなりサディストに変身したような気がした。

 そう思った瞬間、ふと俺の頭にとんでもない推理が過った。

 もしかしたら、加藤常務を毒殺したのはこの女なのではないか……と。

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(つづく)

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