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毒林檎13

2013/05/30 Thu 17:59

毒林檎13



 暫くすると、原田凉子が部屋にやって来た。
 原田凉子は、部屋に入るなり「では」と言いながら眠ったふりをする俺のベッドの足下で足音を止め、「あとは私が処理しておきますので」と、まるで俺が死体であるかのように言った。
 女はそんな原田凉子に「宜しくお願いします」と小声で呟くと、スタスタと絨毯を鳴らしながらドアに向かって歩き出した。そして歩きながら原田凉子に振り向くと、「次回もあの人をお願いします」と告げ、そのまま廊下へと消えていったのだった。

 ドアがガチャっと閉まると同時に、俺はパチッと目を開けた。
 ドアに振り返っていた原田凉子の顔がサッと俺に向いた。

「御苦労様でした」

 いかにも業務的な口調でそう言いながら、原田凉子鞄のファスナーをギギギッと開けた。そして中から茶封筒を一枚取り出すと、まだベッドに寝転がったままの俺を冷たく見つめながら「約束の半金です」と、それを突き出した。

 俺はペニスを剥き出したままだった。しかもそれはコンドームを被せられたまま萎んでいるという、なんとも情けない状態だった。
 それでも俺は、それを隠そうともせずムクリと起き上がった。そして目の前で茶封筒を突き出している原田凉子をギッと睨みながら、「これはいったいどう言う事だ」と静かに聞いた。

「何がですか?」

 原田凉子は小さく首を傾げた。

「冗談じゃねぇよ……あの女、社長の奥さんじゃねぇか……」

 俺は必死に怒りを抑えながら低く唸った。すると原田凉子は、表情一つ変えないまま、「ああ、知ってしまったんですか……」と冷静に答えた。
 そのあまりにも動じない彼女の態度にカッときた俺は、すぐ横に転がっていた羽毛枕をボン!とおもいきり叩き、その惚けた顔した原田凉子に向かって大きな声を上げた。

「知ってしまったじゃねぇだろ! あんたいったい何考えてんだよ! こんな事が社長にばれたらどうするんだよ!」

 静まり返った部屋に俺の怒鳴り声が響いた。
 しかし、それでも彼女は顔色一つ変えず、ジッと俺を見つめたままだった。
 そんな彼女の態度に更に激高した俺は、羽毛枕を右手で鷲掴みにすると、「もし俺がクビになったら、あんた責任取ってくれるのかよ!」と怒鳴りながら、それを彼女の足下に投げつけた。
 彼女は素早く右足を上げてそれを躱した。そして「大丈夫です。あなたは絶対にクビにはなりませんから」と冷静に呟きながら、床に転がる羽毛枕を踏みつけた。

 原田凉子は、妙に自信に満ち溢れた顔で俺を見ていた。
 そんな彼女の顔を不審に思いながら「どうしてそう言いきれるんだ」と聞くと、「知ってしまったのならお話ししましょう」と静かに腕を組み、まるで敵対する検事を見るような鋭い目つきで俺をジッと見据えながら、「この件は社長も御存知だからですよ」と、とんでもない事を言い出したのだった。

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 黒いヒールの踵が羽毛枕に食い込んでいた。白い羽毛枕は指で押しつぶされたマシュマロのように中心が凹み、静まり返った部屋にグググっと軋んだ音を鳴らしていた。

 俺の頭は真っ白になっていた。
(どうして社長が……どうして社長が……)と、頭の中で何度も繰り返し呟くが、しかしそれ以上の言葉は何も浮かんでは来なかった。

 そう愕然としている俺の前を、彼女は、「ようするに……」と呟きながら、窓際に向かってゆっくりと歩き出した。

「この計画を立てたのは箕輪社長だという事です。あなたを選んだのは私ですが、全ては箕輪社長が御自身で計画した事なのです」

 原田凉子は、まるで法廷で最終弁論しているかのように腕を組みながら言った。そして窓に突き当たるなり素早くクルッと回転すると、再び鋭い目つきで俺を見ながら「だからあなたに責任が及ぶ事は絶対にありません」と静かに頷いた。

「意味が分からん!」

「あなたは意味など知らなくていいのです。難しい事は何も考えずに黙ってそのお金を受け取ればいいのです」

「いや、これは受け取らない。それでは納得できない」

「では、どうすればいいのです?」

「全てを話してくれ。どうして社長が奥さんにこんな事をさせたのか教えてくれ」

「それはできません。私たちには守秘義務がございます」

「ふん、なにが守秘義務だよ、こんな酷い事をしておきながら今更弁護士ぶりやがって」

「弁護士ぶってません。私は正真正銘の弁護士です」

「なんだとこの野郎、あんた開き直るのか?」

 俺は怒りに任せてベッドを飛び降りた。そして、腕を組んだまま突っ立っている原田凉子に攻め寄り、まるで町のチンピラのように彼女の顔を睨みつけた。

「……上等じゃねぇか、あんたがそう出るなら、俺だって出るとこ出てやるよ……この事を全部ばらしてやる。会社のみんなにも、週刊誌にも、そして日弁連にも訴えてやるからな……」

 原田凉子は、そう唸る俺の顔を見ながら「ふっ」と小さく笑った。

「なにが可笑しいんだ! 舐めてんじゃねぇぞこの変態女! 俺は全部知ってんだぞ、あんたがこの部屋を盗み聞きしながらオナニーしてた事をよ!」

 俺はそう怒鳴りながら、原田凉子が脇に挟んでいたバッグを奪い取った。そして素早くバッグの口を開け、中を覗いた。
 案の定、黒いバッグの隅にピンク色のローターが転がっていた。俺は鬼の首でも取った勢いでそれを摘まみ上げると、「これだこれだ、これが証拠だ変態女め!」と威勢良く笑いながら、それを原田凉子の目の前でぶらぶらと振った。
 しかし、それでも原田凉子は動じなかった。そんな恥ずかしい物を暴かれても顔色一つ変えず、それどころか唇の端を歪めながら笑ってさえいた。
 そんな彼女の態度に、俺は目眩を感じるほどの怒りを感じた。カーッと頭に血が上ると、突然、もう会社なんてどうなってもいいと自棄になった。
 俺は、摘んでいたピンクローターを後ろに投げ捨てると、「もういいよ」と鼻で笑った。

「もう理由なんてどうでもいいからさ、取りあえず二千万くれよ」

 そういきなり開き直った俺を、彼女は小馬鹿にするような目で見つめながら、「それは何のお金ですか?」と、首を傾げた。

「口止め料に決まってるだろ。こんな事を週刊誌にばらされたら社長は終わりだぜ。もちろんあんただってこんな事が弁護士会にばれたら確実に懲戒処分だろ。そう考えたらよ、二千万なんて安いもんじゃねぇか」

 すると原田凉子は「くすっ」と小さく笑った。そしてその小憎たらしい笑顔のまま「無理です」と即答した。

「無理です?……まぁいいや、あんたの立場だったらそう答えるしかないもんな……とにかくさ、一度社長と相談してみろよ。あの人に取ったら二千万なんて端た金だからさ、会社と人生をぶっ潰されると思えばきっと喜んで払うよ。そんでその金、俺は退職金として受け取ってやるからさ、それさえ払ってくれれば、もう二度と俺はあんた達の前に現れねぇ。どこかにサッと消える。約束するよ。でもね、どうしても払わないって言う事になると、週刊誌にばらさなくちゃなんなくなるし、弁護士会にも訴える事になっちゃうわけよ……賢いあんたならどっちが得かわかるでしょ?」

「それは困ります」

「だろ? こんな事が世間にばれたら、社長もあんたも困るだろ? だから二千万円で和解しようって言ってやってんだよ」

「いえ、違います」

「何が違うんだよ」

「あなたに消えられては困るという意味です」

「………はぁ?」

 そう首を傾げる俺の手から、原田凉子は自分のバッグを奪い返した。そしてその中をガサゴソと漁りながら、「ほら、さっき奥さんが帰り間際に言ってたでしょ……次回もあなたをお願いしますって……だから、あなたに今消えられるのは困るんですよ……」と呟いた。

 俺はそんな原田凉子を睨みながら拳を握った。「てめぇ……俺が本当に暴露しないとでも思って舐めてんのか……」と呟きながら、俺はその拳をブルブルと震わせた。

 すると突然、「あった」と言いながら、原田凉子がバッグの中から何かを取り出した。

「この写真に写ってるのは、あなたですよね?」

 そう言いながら原田凉子は俺に一枚の写真を渡した。

 見ると、そこには紛れもなく俺が写っていた。
 なんとその写真には、四つん這いになる小笠原由貴の股に顔を突っ込み、噴き出す小便をガブガブと飲んでいる俺の姿が写っているではないか。

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 たちまち俺は凍り付いた。

「ど、どうしてこれを……」

 そう絶句する俺を見つめながら、原田凉子は小さく溜め息をついた。そしてその溜め息を怪しい笑みへと移し替えながら、更にもう一枚の写真を俺に手渡した。

 全裸の俺が、赤いソファーの上にしゃがんだ小笠原由貴の股の中に顔を埋めていた。そして、小笠原由貴の尻からモリモリと捻り出される糞を口一杯に頬張りながらセンズリをしていた。

 そう、これは俺の人生最大の汚点を隠し撮りした写真だった。
 それをこの女は、最後の切り札として出して来たのだった。

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(つづく)

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