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路地裏の妻5

2013/05/30 Thu 18:08

路地裏の妻5



 SEIYUで子供のリュックサックを買いました。
 長く使えるようにと、色、形、デザインはシンプルなものにしましたが、しかし弁当箱とレジャーシートと水筒は、今、子供達の間で大流行の妖怪キャラクターのもので揃えてやりました。
 夫にはワイシャツ、お婆ちゃんには浴衣を買い、ついでにバスタオルを一枚、カートの中に入れました。
 こんなに買い物をしたのは久しぶりでした。
 嬉しくなった私は、商品が溢れるカートを自慢げに押しながら、意味もなく店内をグルグル回っていました。
 今までここは苦痛でしかない場所でした。ここに来る度に、子供にアレを買ってやりたい、夫にコレを買ってやりたいと焦っていました。そして、買ってやれない不憫さにいつも胸を痛めていました。
 だから私は、いつも入口の手前にある食品売り場にしか行きませんでした。
 それ以上奥に踏み込めば惨めになるだけなのです。
 だけど今日の私は違いました。四万円という大金を持っている私は、いつもとは違う高揚感に包まれながら奥へと進む事ができたのです。
 ラックに陳列された華やかな商品を眺めながら歩きました。まるで初めてディズニーランドに来た子供のように、目を爛々と輝かせながら通路を進んで行きました。
 寝具コーナーで高級羽毛布団に触れ、キッチン家電コーナーで意味もなく食洗機のボタンを押しました。化粧品コーナーで足を止めると、色取り取りの口紅に胸を躍らせました。そして家庭が転落する前にいつも使っていたファンデーションを見つけると、あの幸せだった頃を思い出しながら何度も何度もコンパクトケースの蓋を開けたり閉めたりしました。
 いっその事、このファンデーションもあの口紅も買ってしまおうかと思いましたが、しかし、もう二度とこんなボーナスを手に入れる事はないだろうと思うと、少しでも貯金しておかなければという貧しい主婦の心が芽生え、そんな些細な夢も瞬く間に消え失せてしまったのでした。
 そのまま化粧品コーナーを抜け、薬品コーナーに入ると、不意にラックの下段に置いてあったバスクリンが目に飛び込んできました。それを目にした瞬間、私は居ても立ってもいられなくなりました。
 その場にしゃがみ、『ゆずの香り』を手に取りました。オレンジ色の蓋をパカッと開けると、まだ父が借金をする前の裕福だった頃のお風呂の思い出が堰を切ったように溢れ出しました。
 お風呂場のタイルの色は覚えていません。浴槽の形も色も忘れてしまいました。あの頃の記憶は、その後の地獄のような生活の記憶と共に、強制的に消し去ってしまったのです。
 しかし、『ゆずの香り』は、心がはっきりと覚えていました。
 この香りと共に、いつも一緒にお風呂に入っていた母の乳房が蘇りました。あの大きくて真っ白で柔らかい乳肉に抱かれていた時の心地良さを思い出しながら幸せな気分に浸っていると、不意に、いつもお風呂上がりに飲んでいた『はと麦茶』の味と、お風呂から上がるといつも居間のテレビで流れていた『踊る大捜査線』のエンディングテーマまでもが蘇ってきました。
 おもわず「うふふっ」と笑ってしまった私は、迷う事なくバスクリンをカートの中に入れました。四百円の入浴剤は今の我が家には少々贅沢でしたが、しかし息子にも、私と同じ思い出を作ってやりたかったのです。

 大きな袋を両手にぶら下げながら家に帰ると、居間でテレビを見ていた夫と息子が、呆然とした表情で私を見ていました。

「それ、どうしたんだ……」

 ゆっくりと立ち上がった夫の足下で、野良猫のように痩せた息子が脅えていました。物心ついてからというものプレゼントなど貰った事のない息子には、私が両手に抱えるそれが何なのか全くわからないのです。

「今日ね、お弁当屋さんで特別ボーナスが支給されたの」

「特別ボーナス?」

「うん。大手の工場からね、毎日三百食のお弁当の契約が取れたらしいの。それでね、今から忙しくなるからって事で、パートのみんなにまでボーナスが配られたの」

「いくら?」

 夫は、何かを疑うような目付きで私の顔を覗き込みながらそう聞きました。
 一瞬戸惑いましたが、すぐに一万円と嘘をつきました。時給六百円のパートが四万円ものボーナスを貰えるわけがないからです。
 それでも夫は、「一万円!」と裏声になって驚きました。
 慌てて私は、「今、辞められたら困るからよ。だから社長はパートにまで奮発したのよ」と誤魔化すと、やっと夫は納得したように「なるほどね」と頷いたのでした。

 袋の中からリュックを出すと、それまで脅えていた息子が「わあっ!」と叫びました。
「ママありがとう!」と飛び跳ねながら、息子は私の手からそれを奪い取りました。それは、今までに見た事のない嬉しそうな顔でした。息子のその顔が見たくて、私はあの地獄に耐えていたのです。
 おもわず嬉しくなった私は、更に袋の中に手を入れました。そして「うふふふ……」と息子を見ながら笑うと、息子はぴたりと立ち止まり、目をギラギラと輝かせながら「なに?」と声を震わせました。
 私は「ジャーン!」と大袈裟に言うと、まるでドラえもんがポケットから道具を出すかのように、袋からお弁当箱を取り出しました。そして「これもよ、これもよ」と言いながら、妖怪のキャラの付いたレジャーシートと水筒を一気に取り出すと、もはや息子は半狂乱となり、それを両手に抱えたまま家中を走り回ったのでした。

 そんな息子を嬉しそうに見つめていた夫に、「これは貴方のよ」とワイシャツを渡しました。そして「これはお義母さん」と言いながら浴衣をテーブルの上に置くと、夫は目を丸めながら「一万円でよくこんなに買えたな」と驚きました。
 本当は一万八千円使っていました。私は一瞬焦りながらも、「だってSEIYUは安いんだもん」と、まるでCMのように笑って誤魔化し、「これも買っちゃったの」と真っ白なバスタオルを広げて見せました。

「おまえは何を買ったんだ?」

 夫は、興味深げに袋の中を覗き込みながら言いました。
 私は袋の中からバスクリンを取り出し、「これよ」と笑いながらテーブルの上にそれを置きました。
 夫は怪訝そうにそれを見つめながら、「……これだけか?」呟きました。
「うん」と私が頷くと、夫は急に淋しそうな目になり、バスクリンをジッと見つめたまま「すまん……」と小さく呟いたのでした。

 その夜は、いつもは暗い家の中も、いつになく笑い声が絶えませんでした。
 八時になると、夫と息子がお風呂に入りました。私は蓋に山盛りにしたバスクリンを湯に溶かしてやりました。息子は「わあぁ……いい匂い……」と驚きながらも表情を蕩けさせ、その初体験のゆずの湯に身も心も浸かっていました。
 お風呂から上がった息子をそのまま寝かしつけました。息子は「明日もバスクリンに入りたい」と私に何度も言いながら、幸せそうに眠りに落ちました。
 息子を寝かして寝室から居間に出ると、お風呂上がりの夫が、何かを考え込んでいるかのような深刻な表情でジッとテレビを見ていました。
 夫は、どれだけ暑い真夏であろうと、いつもパジャマをきっちり着る人です。例えお風呂上がりであろうともそのスタイルは崩した事がありません。そんな几帳面な夫が、その時はパジャマの上着だけを着て、下はトランクスというだらしない格好をしていました。
 隣りの寝室から出て来た私の気配を背中に感じたのか、夫はテレビを見つめたまま、「和之、喜んでたね」と呟きました。
「そうね」と微笑みながら私がそこを横切ろうとすると、いきなり夫は私の腕を掴かみました。そして眼鏡の中の目玉をクワっと剥き出しながら、「こっちにおいでよ」と、掴んだ腕を強引に引っ張ったのでした。

 初めてでした。いきなり求められる事など、今までに一度もありませんでした。ましてそこは居間でした。テレビも電気も付けられたままの明るい居間でした。それに私は、まだお風呂に入っていないのです。
 夫は私を畳の上に乱暴に寝かせました。まるで獣のように私のストッキングを引きずり下ろし、ハァハァと荒い息を吐きながらギラギラした目で私を見下ろしました。

「ちょっと待って」

 そう足をバタバタさせると、夫は私の体を押さえ付けるようにしながら、うなじに顔を埋めました。
 夫のペニスは既に硬くなっていました。それを私の太ももに押し付けながら乱暴にキスをしてきました。
 夫は狂ったように興奮していました。そんな夫を見るのは初めてでした。よりにもよって、こんな日に夫は豹変したのです。
 私は昼間、見ず知らずの男に、お金を貰って陰部を見せたのです。そしてそこに精液を掛けられるという背信行為をしていたのです。
 そんな私の体は汚れています。まだお風呂に入っていないそこには、不浄な汚れがカピカピになって乾いています。

「お願い、お風呂に入らせて」

 そう夫の耳元に必死に囁きますが、しかし夫は容赦なく私の上着を捲り上げました。そしてブラジャーの中から乳房を引きずり出し、まるでパン粉を捏ねるようにそれを両手で揉み始めたのでした。

 夫は無表情で乳房を揉んでいました。
 天井にぶら下がる丸い蛍光灯の光が、タプタプと揺れる乳肉を卑猥に照らしていました。
 こんな明るい場所で愛撫されたのは初めてでした。もちろん、夫も蛍光灯の下でまともに私の乳房を見るのは初めてだったはずです。
 それに興奮したのか、夫はハァハァと荒い息を吐きながら、その指を私の太ももへと滑らせてきました。

「あなた……先にお風呂に——」

「——うるさい!」

 夫は小さくそう怒鳴ると、何を血迷ったのか、いきなり私のストッキングをピリリリリっと破りました。
 いったい何が始まるのかと私は呆然としていました。
 夫は、そんな私の腕を後ろに回しました。そしてその引き千切ったストッキングで私の両手首を後手に縛り始めたのです。
 いつもの夫は、絶対にそんな事をする人ではありませんでした。彼のセックスは草食系過ぎるほどに大人しく、セックス時にキスすらできない消極的な性格なのです。なのに夫は、この日、危険な肉食系の獣に変わっていたのです。
「どうして」と、私は狼狽えながら夫の目を覗き込みました。夫は私の手を縛り終えると、乱暴に私を仰向けに寝転がせ、一言「黙ってろ」と低く呟きました。
 夫は凄い力で私の股を大きく開かせました。そして、太ももでビリビリに破れているストッキングを思いきり伸ばし、それを私の首の後ろに回して引っ掛けました。
 私は、ひっくり返った蛙のように両脚を開かされたまま固定されてしまいました。
 それは随分と慣れた手つきでした。私は、あの大人しい夫がこんな事をするなんてと、ただただ驚くばかりでした。
 身動きできない私の股間に、夫の細い指がスリスリと動き始めました。左手で乳房を鷲掴みにし、右手で股間を弄りながら、私の目をジッと睨んでいます。

「あなた……止めて……」

 涙目でそう訴えると、スリスリと動き回っていた夫の指がクリトリスで止まり、そこを重点的に攻めて来ました。
 決して気持ち良くはありませんでした。しかし、そんな所を弄られれば勝手に体が反応してしまいます。
 私は、込み上げてくるものを必死に堪えながら「やめて……」と何度も呟きました。
 すると夫は、そこを弄る指のスピードを更に速め、「感じてるのか?」と聞いて来たのでした。

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「あなたどうしたの……どうしてこんな事をするの……もう止めて……」

 私は眉を顰めながら必死に訴えました。
 すると夫は、クリトリスを弄るのを止めました。しかしその指はすぐに動き出しました。ゆっくりと斜め下に移動し、クロッチのゴムから中に侵入して来たのです。
 夫の指先が割れ目を撫でた瞬間、思わず私は、「本当にヤダ! もうやめて!」と叫んでいました。
 そして腰を捻ろうとすると、夫は凄い力で私の太ももを押さえつけ、まるで引き千切るように下着を剥ぎ取りました。
「いや!」と顔を顰めると、夫は、剥き出しにされた私の性器をジッと覗き込みながら、「キミだって濡れてるじゃないか……」と小さく呟き、そのまま指を奥深くまで入れてきたのでした。

 夫の指は、何の抵抗もなくスムーズに滑り込んできました。
 どうしてそこが濡れているのか、自分でもわかりませんでした。
 しかし、そのヌルヌルとした液体は、明らかに私自身が放出した性的分泌物であり、汗やオリモノやその他の体液ではない事は確かでした。

 膣の中を行ったり来たりしているその指の動きを脳で感じていると、たちまち性嫌悪障害の黒い渦に巻かれました。ヌルヌルと蠢く指の感触と、夫の卑猥なハァハァという息づかいが、脳の奥に潜んでいた強烈な吐き気と頭痛を呼び起こしました。
 いつもの私なら狂ったように拒否しましたが、しかしこの時の私は黙ってそれに耐えていました。なぜなら、昼の出来事があったからです。あの見ず知らずの男にはあれだけの事を我慢しておいて、愛する夫には拒否するというのには、後ろめたさを感じたのです。

 夫は、散々私の穴の中を指でほじくると、もはや抵抗しなくなった私の体を、いとも簡単にうつ伏せに寝かせました。
 畳に顔を押し付ける私は、まるで人形のようにぐったりと横たわっていました。
 夫は私の下半身は持ち上げると、両脚を曲げさせました。畳に両膝を付かされ、無惨にお尻を突き出されました。
 開いたお尻の谷間に、夫の荒い鼻息を感じました。さっきあの男に見られていた汚れた部分が、今、夫にも見られているのです。

 夫はそこにソッと顔を近づけました。
 あの男に、散々臭いと言われていたその部分を間近で見られる私は、恥ずかしさのあまり「んんん……」と唸っていました。
 すると、そこをジッと覗き込んでいた夫が、不意に呟きました。

「あんな弁当屋で……特別ボーナスなんて出るわけないじゃないか……」

 微かに聞こえたその言葉に、畳に押し付けられていた私の胸がドキンと飛び跳ねました。

 その瞬間、夫は私の髪を鷲掴みにしました。

 そして、「いったい誰にヤらせたんだ」と低く呟きながら、もう片方の手で私の上半身を起き上がらせると、目の前にあった卓袱台の上に私の顔を押し付けたのでした。

(つづく)

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