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ストレス2

2013/05/30 Thu 18:10

ストレス2




 男はしゃがんだまま移動し、四つん這いになる広美の顔の前で止まった。広美の顔の下に両手を入れ、タプンっと垂れ下がる乳を真正面から揉みながら、M字に開いた自分の股間を広美の顔面に向けて来た。
 白髪混じりの陰毛の中から、十センチほどの肉棒がピーンっと突き立っていた。ベロリと皮が捲れた包茎ペニスからはスルメのような匂いがムンムンと立ち上り、その饐えた匂いがマゾヒストな広美の脳をクラクラさせた。
 不意に「しゃぶりたいか?」という男の声が頭上から聞こえてきた。恍惚とした目でゆっくりと見上げると、真っ赤な目玉をギロリとひん剥いた男が凄まじい形相で広美を睨んでいた。
 広美は無言でイヤイヤと首を横に振った。本心はしゃぶりたかったが、しかし広美のマゾ的な性癖が、意に反して首を横に振らせたのだ。
 すると男は靴裏に小石をジリジリと鳴らしながら、しゃがんだ腰を突き出した。四つん這いになっている広美の頭部を乱暴に両手で押さえ付け、その醜い突起物を広美の唇にグイグイと押し付けながら、「知っとるぞ! 納屋橋の税理士のもしゃぶったんやろ!」と怒鳴り出し、亀頭の先で唇を押し開いた。
 小さな突起物が、前歯の隙間からツルンっと滑り込んで来た。それまでスルメの匂いだった亀頭は、口内に入り込むなり生ゴミのような異臭に変化した。
 顔を顰めてイヤイヤと首を振りながらも、口内ではその突起物を舌で転がした。まるでチュッパチャップスをしゃぶるように丸い亀頭を舐め回しながら、窄めた唇で短い肉棒をジュプジュプとピストンさせていた。
 そんな広美を見下ろしながら、男は「高橋部長が泣いとるわ!」と叫ぶと、再びそこに垂れ下がる乳に両手を伸ばし、手の平でその重さを量るかのようにしてタプタプと弄びながら、しゃがんだ腰を振り始めたのだった。
 そんな、見ず知らずの狂人男の性器を必死にしゃぶっていると、ふと、駐輪場の奥で山積みになっている放置自転車の隙間から、こちらをジッと見ている二つの目に気付いた。
 それはさっきの少年だった。電車の中で、男に痴漢される広美を見ていたあの学生服の少年だった。
 少年は、まるで投身自殺の瞬間を目撃した時のような目で、この無惨な光景を覗き見していた。そんな少年の視線に、更に広美の被虐願望はくすぐられた。あの少年の透き通った目に、この醜い自分の姿が映っているのかと思うと、羞恥と屈辱で耐えられないくらいに感じてしまったのだった。
 その勢いで男の肉棒を高速でしゃぶりまくると、男は呆気なく広美の口の中で果てた。あまりにも大量の精液に広美が咽せそうになると、男は広美の口の中に激しく腰を振りながら、「飲めよ! 飲んでみろよ!」と発狂し、広美の右頬を容赦なくバシバシと叩きまくった。
 広美は必死でそれを飲み込んだ。それを見届けた男は、萎んだペニスを広美の唇からテュルンっと抜き取り、ハァハァと肩で息をしながら立ち上がった。
 男は、全裸で四つん這いになっている広美を見下ろしながら、消費者金融のポケットティッシュで素早くペニスを拭いた。そして、革靴の先で、そこにタプタプと垂れ下がっている乳をツンツンと蹴りながら、「お前みたいな乳お化けは、どんな病気をもっとるかわからんで怖くてオマンコできせんわ。今度、ゴム持っとる時にオマンコしたるわ」と吐き捨てると、丸めたティッシュを広美の後頭部に投げつけ、ひとこと「死ねよ」と捨て台詞を残したまま、逃げるように走り去って行ったのだった。

 遠ざかって行く男の足音を聞きながら、広美は四つん這いのままでいた。
 足音が完全に消えるなり、ブチュっと唾を吐き出した。しかし、既に男の精液は胃袋にあり、出てくるのは泡だらけの唾ばかりだった。
 乾いたコンクリートの床に、泡だらけの唾が点々と広がっていた。遠くの方から救急車のサイレンが聞こえ、それと同時にソッと顔を上げてみたが、しかし、既にそこに少年の姿はなかった。
 広美は深い溜息をつきながらゆっくりと立ち上がった。膝はコンクリートで擦り剥け、ベロリと捲れた赤い傷口に小石が無数にくっついていた。
 全裸のまま少年を探した。どうしても少年のあの澄んだ目に見られながらオナニーをしたいと思っていた広美は、迷子の子猫を探すようにそこらじゅうをウロウロした。
 しかし、少年の姿は見当たらなかった。無人の駐輪場には放置自転車のハンドルにぶら下げられた無数の赤い警告書だけが、夜風にひらひらと靡いているだけだった。
 少年が身を潜めていた場所に行ってみた。廃車と化した赤錆だらけの自転車のサドルには、白く輝く精液が迸っていた。
 少年が、あの醜い光景を見ながらオナニーしていたのだと思うと、激しい興奮が涌き上がり、それと共に残念さが込み上げて来た。何もこんな所でコソコソとオナニーしなくても、あの少年だったらたっぷりと中出しさせてあげたのにと思うと、少年を逃がしてしまった事が残念でならなかった。
 広美は、サドルの上に迸っているドロドロとした液体を指で掬った。まだ生温かいそれを膣に塗り込み、サドルの残液をペロペロと舐めながらオナニーをした。
 唇と陰部を少年の精液でネトネトにさせながら、その自転車に全裸で跨がった。ロディオのように腰を振りながら精液にまみれたサドルに陰部を擦り付け、そのまま前屈みになっては右ハンドルを口に含んでしゃぶりまくった。
 赤錆だらけの放置自転車がカシャカシャと揺れた。ダラリと垂れ下がった乳がタプタプと踊り、広美の高揚感は益々高まって来た。
 ハァハァと荒い息を吐きながらゆっくりと体を起こすと、両手でハンドルを握りながらペダルに足をかけた。いわゆる『立ち漕ぎ』の体勢になると、そのままモゾモゾと尻を微調整し、サドルの先っぽに陰部を押し付けた。
 このまま全裸で町中を走り回りたい。そう思いながらゆっくりと腰を下ろすと、サドルの先っぽがドロドロに濡れた膣にヌルっと突き刺さった。
「あぁぁぁ!」と背骨を撓らせながら空を見上げると、夜空には無数の星がキラキラと輝いていた。まるで全裸の自分を華やかに彩ってくれているような気分になり、おもわずロボットのように「イチ、キュウ、ロク、ロク、ピー」と呟いた。
 そんな夜空を見上げながらゆっくりとペダルを漕いだ。ガクン、ガクン、と体が上下し、その度にサドルの先が膣にヌポヌポと突き刺さった。
 立ち漕ぎしながら更に前屈みになると、膣から抜けたサドルの先がクリトリスをグリグリと刺激した。誰でもいいから入れて、誰でもいいから後から入れて、と呟きながら更にペダル漕ぐ足を速めると、強烈な絶頂感が脳を貫き、そのまま失禁してしまった。
 快楽の渦に巻かれながら広美は泣いた。気持ち良さと情けなさが交互に襲い、これから私はどうしたらいいんだと言う不安に押し潰されながら泣いた。
 全裸のまま自転車の上でぐったりしていると、駐輪場の入口の方から、「じゃあね、バイバーイ」という中学生くらいの少女の声が聞こえてきた。今からあの少女は、家に帰って家族で夕食を食べるのだろうと思うと、妙に黄色い色をしたオリエンタル中村のカレーが頭に浮かび、急に何もかもが嫌になった。
 
 再び地下鉄で栄に戻り、夜の繁華街をふらふらと歩き回った。バッグの中では携帯が鳴りっぱなしだった。満男から三十秒置きに電話が掛かってきていた。帰りがこんなに遅くなったのは初めてであり、今頃満男は狂ったように悶え苦しんでいるだろうと思うと、おもわず口の中で「ざまぁみろ」と呟いていた。
 誰でもいいから犯して欲しいと思いながらノーパンで繁華街を徘徊した。雑居ビルの隙間に積まれているビールケースからビール瓶を盗み、それを自販機の裏に隠れながら膣奥までぬぷぬぷと入れた。
 酔っぱらいでもいい、ホームレスでもいい、誰でもいいから声を掛けて欲しいとそこで待ちわびていると、バッグの中で珍しくもメールの着信音が響いた。携帯を開くとメールは満男からだった。そこには『今から千種警察署に捜索願いを出します』と書かれていた。
 既にGPSで栄にいる事はバレているはずだった。広美は慌てて携帯の電源を切るとタクシーを拾った。
 自宅近くの大通りでタクシーを降りると、トラックが猛スピードで走り抜ける大通りの中央分離帯に潜り込み再び全裸になった。そして走り去る車のライトに脅えながら脱糞し、急いで自宅へと向かった。
 自宅に戻ると満男がキッチンで切腹をしていた。広美と連絡が取れない事に耐えられなくなり腹を切ったらしいが、しかし、切腹といってもそれは腹の皮を数センチ切っただけであり血すら出ていなかった。
 不意に戻って来た広美を見るなり、満男は子供のように泣きじゃくりながら広美に抱きついて来た。鼻水をダラダラと垂らしながら、僕を捨てないでくれお願いだから僕から逃げないでくれ、と泣き叫びまくり、そこに現れた千種警察署の警察官に呆れられた。
 満男は警察に、広美が千種駅前の路上でワンボックスカーに乗った五人組の男に拉致されたと嘘の通報をしていた。自宅に駆けつけた警察官は十人もおり、自宅の前で赤いライトをクルクル回す三台のパトカーに驚いたパジャマ姿の住人がぞろぞろと集まって来ていた。
 散々刑事から説教され、もう二度と悪戯電話は掛けませんという幼稚な文面の誓約書にサインさせられた。
 それまで項垂れていた満男だったが、しかし警察官たちが玄関から出て行くなり豹変した。
「浮気、したよな?」と、ギラリと目を光らせた満男は、まだパトカーのエンジン音が外から聞こえて来るのにも関わらず、いきなり広美の服を引き破った。
 ノーパンの広美を見て満男は、「あぁぁぁぁぁぁぁぁ」と絶叫した。ぶっ殺してやる! と唸り声を上げると、お粗末な切腹劇で使用した出刃包丁を握りしめ、ヌルヌルと光り輝く広美の陰部にその先を突き付けた。
 その瞬間、凄まじい興奮が広美を襲った。出刃包丁で膣をズタズタに突き刺されながら血まみれで悶え苦しむ自分の姿を想像し、下腹部にメラメラと疼きを感じた。
 が、しかし、すぐにまた満男は子供のように泣き出した。出刃包丁を投げ捨て床に這いつくばると、ドロドロに濡れた広美の膣に顔を埋めながら、「やっぱりおまえを殺せないよ、もう二度と浮気しないと誓ってくれよ、そう誓ってくれよ」と泣き喚き、少年の精液で汚れた膣を子犬のようにペロペロと舐め始めた。
 せっかく広美の中で燃え滾った興奮は瞬く間に鎮火してしまった。泣きながら膣や肛門を舐めまくるマゾな夫に、マゾな広美は異常な吐き気を覚えた。
 マゾとマゾは相性が悪かった。サドとサドは互いの性癖を認め合い、時には共同作業までするが、しかしマゾは、虐待されるのは常に自分一人でなければならないため、マゾがマゾを受け入れる事はなかった。
 広美はフニャフニャのペニスを必死に入れようとしている満男を覚めた目で見ていた。満男のペニスは、『強迫性障害』の抗うつ剤を飲むようになってから勃起しなくなっていた。
 萎れたペニスをスポスポと入れながら、「捨てないでくれ,捨てないでくれ」と必死に腰を振る満男が憎らしかった。ペニスさえろくに立たせる事も出来ないくせに嫉妬ばかりしているこの自分勝手な男に殺意を覚えた。そのフローリングに転がっている出刃包丁で刺し殺してやりたかった。そしてその腐った腸を引きずり出し、ミキサーでドロドロにしてやりたいと本気で思っていたのだった。

 翌日は、朝からマゾ豚公衆便女のブログを見ていた。二回もオナニーをしてしまった。しかし、イケばイクほどにその欲求は高まるばかりだった。
 昨日の変態行為の余韻が未だ燻っていた。何をしていても、常に頭の隅には、亀頭の先から精液が飛び出る射精シーンが繰り返されていた。
 そんな悶々とした気分でソファーに寝転がりながら、『ヒルナンデス』を見ていた。妙に色気のある中年女がスタジオでヨガの実演をしていた。仰向けに寝転がり、股を大きく開き、尻を持ち上げて腰をコキコキさせながら「骨盤の矯正です」と、至って真剣に説明していた。
 そんな女のタイツの股間には恥骨がポッコリと浮かび上がっていた。その中心には明らかにソレとわかる一本の皺がスッと走り、女が股を開閉させる度に、その皺は閉じたり開いたりしていた。
 果たしてこの女は、その卑猥な皺の存在を知っているのだろうか? 全国の視聴者にその恥ずかしい皺を見られている事に気付いていないのだろうか? 
 そう思いながら広美はゴクリと唾を飲んだ。
 それがもし確信犯であるのなら興味はなかった。それが男性視聴者を引きつけようとしている女の狙いであるのなら、そんな事はどうでもよかった。しかし、もしそれをこの女が知らずにやっているのであれば……
 女は知らず知らずのうちに男性視聴者達の好奇の目に晒されているのだ。昼間っから家でゴロゴロしている社会不適合な男達のオナニーのネタにされ、彼らの妄想の中であの恥骨の皺の中にペニスを何度も何度も出し入れされているのだ。
 それを考えると、異様な興奮がムラムラと涌き上がり、自分もあの女のように変態男達のオナニーのネタにされたいと思った。居ても立ってもいられなくなってきた。
 悶々としながら家を出た。近所の公園に行き、アンモニア臭が漂う男子トイレに忍び込んだ。個室のドアを閉めるなり全裸になった。大便がこびりついた便器にしゃがむと、濡れた股間にひんやりとした冷気を感じた。
 便器にしゃがんだまま指で膣を掻き回した。静まり返ったコンクリートの箱にクチュクチュといやらしい音が響いた。入れて下さい、入れて下さい、と呟きながら、もう片方の手の指を肛門に入れた。二つの穴を掻き回しながら失禁した。小窓から聞こえて来るミネヤマ牧場の移動販売車のオルゴールメロディーを聞きながら絶頂に達したのだった。
 そんな自分が怖くなった。いよいよ症状は重症化して来たと、リビングで『お〜いお茶』をラッパ飲みしながら身震いした。
 広美は震える手で携帯を取り出すと、半年ほど前から通っている精神科の主治医に電話をかけた。主治医は四十五才のおばさんだった。バツイチで、シングルマザーで、豚のように醜く肥えた口の臭い女だった。
 主治医が電話に出るなり、「もう頭の中がグルグルしてて、なにがなんだかわからなくなりました」と低く唸ると、主治医は、妙に穏やかな口調で「おやおや、今日の広美さんは随分と御機嫌斜めですねぇ」と、まるで幼児に語りかけるように笑った。
 それが癇に障った。こいつらはいつでもそうだった。患者の目線に合わせようとそんな喋り方をしているのかも知れないが、その喋り方にはいつもイラッとさせられた。
 彼らは、例え、今からビルから飛び降りますと電話しても、今手首を切った所ですと電話しても、常に人を小馬鹿にしたような赤ちゃん言葉で対応した。それが彼らのマニュアルなのかも知れないが、しかし、生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされた患者にとっては、その口調は腸が煮えくり返るほどの怒りを感じさせ、本当に死んでやろうかと本気で思わせるほどだった。

「お薬は飲んだのかな? ちゃんと寝れてるのかな? それとも何か嫌な事でもあったのかな?」

 そんな主治医の言葉に、広美は右頬をヒクヒクさせながら、「昨日、見知らぬ男の精液を飲みました」と答えた。
 すると主治医は、それでも冷静に笑いながら、「あらあら、そんな事したら旦那さんが悲しむわよ」と優しく語りかけた。

「うるさい糞ババア! 口が臭い!」

 おもわず広美はそう叫んでいた。そして携帯を天井に掲げると、送話口に向かって「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」と絶叫し、そのまま電話を切ってしまったのだった。
 こうして広美は、たった二つしかないライフラインのひとつを、自らの手で断ち切ってしまった。
 もはや広美にはマゾ豚公衆便女しかなかった。それが、自分が正常でいられる唯一のライフラインだった。この異様な精神を落ち着かせるには、この異様なブログを読み耽るしか方法はないのだ。
 リビングに置いてあるPCを立ち上げ、そこにマゾ豚公衆便女のブログを開いた。既に時刻は五時を過ぎており、もうすぐ旦那が帰って来る時間だった。それでも広美は夕飯の支度もする事なく、そのゲテモノじみたブログを病的に読み耽っていた。
 玄関から、「ただいまぁ」という間の抜けた旦那の声が聞こえて来た。今まで満男の前でこんなブログを見た事はなかった。それでも広美は身動きする事なく、そのブログを堂々と見ていた。
 リビングに入って来るなり満男は、広美が家にいた事に安心したのか、迷子の子猫を見つけた時のような安堵の表情を浮かべた。そして、不気味な猫撫で声で「何をそんなに真剣に見てるのかな?」と、弘美の肩に手を置き、ソッとPCを覗き込んだ。
 その卑猥な画像を見た満男は「えっ!」と絶句した。しかし、広美はそんな満男を無視して、そこに書かれている卑猥な文を声を出しながらブツブツと読み始めた。

『……こんなバイブじゃ物足りない。動くモノがいい。温かくて硬くてヌルヌルして臭いモノがいい。誰のモノでもいい。酔っぱらいの親父のモノでも汚いホームレスのモノでもいい。旦那以外のモノだったら犬のモノだってかまわない……』

 ブツブツと朗読を続ける広美は完全に壊れていた。それを読みながら堂々とスカートの中に左手を入れて陰部を弄る広美は、もはや狂っていた。
 満男はリビングの入口で真っ青な顔をして立ちすくんでいた。まるで幽霊でも見るかのように、壊れた広美を愕然と見続けていた。
 その晩、何を勘違いしたのか、旦那がビニール紐を持って寝室にやって来た。

「こうゆうのが好きなら好きって最初から言ってくれたら良かったのに」

 そう呟きながら旦那は、人形のようにぐったりとしている広美を全裸にすると、ビニール紐をパサパサと鳴らしながら広美の手首を縛った。両脚を広げ、足首にビニール紐を巻くと、その端をベッドの足に括り付けた。それはまるで、中学生のSMごっこのようなお粗末な緊縛だった。
 それでも旦那は、満足げに広美を見下ろしていた。そんな旦那の手には何故か人参が一本握られていた。そしてその人参をペロペロと舐めながらニヤリと笑うと、「今夜は滅茶苦茶にしてやるから覚悟しろよ」と、幼稚な悪役声で呟いたのだった。

 その翌日、広美は隣町にある大型スーパーに買い物に行った。その帰り道、横断歩道で足を止めた広美は、ふと自分が誰だかわからなくなった。今ここで何をしているのかもわからなくなり、強烈なパニック発作に襲われた。
 脂汗を垂らしながら歩道に踞っていると、昨夜のビニール紐のパサパサと言う音が頭の隅で鳴り出した。ニヤニヤしながら顔を覗き込んで来た旦那の顔が浮かんだ。必死に人参を穴の中にピストンしながら、どうだ、どうだ、と、いちいち聞いてくる旦那のその目、額からポタポタと垂れて来るその汗、そしてデブ特有の油臭い匂い。それら、昨夜の旦那が鮮明に浮かび上がり、広美は強烈な吐き気を覚えた。
 すると突然、子犬を連れた老人に「大丈夫ですか?」と声を掛けられた。黙ったまま踞っていると、子犬が広美のサンダルの先をクンクンと嗅ぎはじめた。「救急車呼びましょうか?」と、広美の顔を覗き込む老人の入歯臭い口臭が、広美の頬に断続的に吹き掛かってきた。
 ふと意識が戻った。老人の顔をそっと見上げながら、しゃがんでいた股をゆっくりと開いた。老人はギョッとしながらも、腰を屈めたまま広美のスカートの中をジッと見ていた。
 そんな白内障気味の老人の濁った目を見た瞬間、もうこれ以上満男との生活は無理だとはっきり確信した。
 広美は失踪する事を決めた。スッと立ち上がると、老人に「早く死になさい」と呟き、そのままスタスタと歩き出した。
 宛もないまま、普段着のまま、金山総合駅から電車に飛び乗った。もう二度と満男の顔は見たくないと思いながら電車の窓に顔を押し付けた。喉から絞り出すような声を出して泣きながら、走り去る窓の外をぼんやりと見ていたのだった。

(つづく)

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