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吐泥(へろど)1

2013/06/13 Thu 00:01


 灰色の海が広がっていた。空には分厚い雲がだんだんに重なり、今にも大粒の雨を降らそうとしていた。
 電車を降りるなり、生ぬるい潮風が頬と首をねちゃねちゃにした。どんよりとした重たい空気は異様なほどの湿気を含んでおり、その小さな駅には水族館のような湿った匂いが充満していた。

 そこは新潟県にある人口四万人足らずの小さな港町だった。フードリサーチ会社で働く私は、日本海沿岸で水揚げされる『幻魚』を調査するためにこの町にやってきた。それは、幻魚を新商品として売り出そうとしている大手居酒屋チェーンからの依頼だった。

げんげ

 幻魚は、正式名称をノロゲンゲと言うが、地元の者は、『げんぎょ』や『げんげ』と呼んでいた。水深二百メートルから千五百メートルほどの所に棲息する深海魚で、干した物を軽く炙って食べるとかなりの美味らしいのだが、しかし見た目があまりにもグロテスクなため、地元でも敬遠する人は多いらしい。

 とまぁ、そんな情報をネットで入手した私は、既に電車の中でそれをレポートにまとめていた。そもそも、そんな珍魚の調査などまともにする気は無かった。ネットで収集した情報と、漁業組合で調べた仕入れ価格表をレポートにまとめ、それと一緒に現地で手に入れた現物を提出すればいいだけの話なのである。

雨雲

 薄ら寂しい駅前でタクシーを拾った。本当はこのまま漁業組合へ行き、幻魚の値段交渉にあたる予定だったが、しかしこの異様なまでの湿気で頭がどんよりと重く、全くその気にならなかった。明日にしよう。と、そう気怠く思った私は、ニワトリのような顔をした老運転手にビジネスホテルの名を告げたのだった。

 そのビジネスホテルは、日本海に面した国道沿いに建てられていた。外壁の白タイルは水垢で黒ずみ、汚れた窓の逆三角形の赤いシールだけがやたらと目立っていた。地上八階、地下一階。屋上に設置された『素泊まり1泊3800円』の看板に止まる数羽のカラスと、目の前の道路をひっきりなしに走り去る大型トラックの轟音が、その退廃的な雰囲気をより醸し出していた。

 狭い部屋はシングルベッドとテレビ台に占領され、監獄のような圧迫感が感じられた。シーツも浴衣も必要以上の洗濯糊でバリバリし、窓の暗幕カーテンには苦い煙草のヤニ臭が漂っていた。
 清掃は明らかにいい加減だった。恐る恐るテレビの裏を覗いてみると、埃まみれの配線の中に四方がギザギザになった四角い袋が紛れ込んでおり、それを指で摘み上げてみると、案の定それは、封が切られたコンドームの袋だった。
 嫌な予感がした私は、一応ベッドの下も覗いてみた。すると壁際に何やら白いモノがぶら下がっているのが見えた。慌ててベッドに上がってベッドと壁の隙間からそれを摘み上げた。
 なんとそれは使用済みのナプキンだった。背筋がゾッとした。それは、ヘルパーのおばさんに濡れタオルで体を拭いてもらいながら勃起していた痴呆症の父を、襖の隙間から目撃してしまった時に感じたおぞましさによく似ていた。

 真っ白な綿の中にドス黒い血がじっとりとしみ込んでいた。それを愕然としながら見つめていると、ふと、男に悟られぬようこっそりそれをベッドと壁の隙間に押し込んでいる女の痛々しい秘事が目に浮かんだ。
 例えどんな理由があろうとも、こんな物をこんな所に押し込むのは許される事ではなかった。かの世界的に常識知らずな支那人とて、ベッドの隙間に汚物を入れるのはさすがに躊躇するはずである。
 そんな非常識が平気でできる人間は明らかにまともな人間ではない。恐らくこれは、名も知らない男の性器を平気でしゃぶるデリヘル嬢や、援交女○高生や売春人妻といった、そんなクソもミソも区別のできない破綻者の仕業に間違いないのだ。
 私はそのドス黒いシミを見つめながら、小さなため息と共に静かにベッドに胡座をかいた。行為中、どのタイミングでこれをそこに押し込んだのかと、あらゆるパターンを想像しながらそれを見つめていると、再び私は、痴呆症の父の勃起した一物を不意に見せつけられたようなおぞましさに包まれた。
 そのおぞましさは脳髄を激しく掻き乱し、まるで五十女の陰毛のような黒々とした淫らな渦に巻き込まれた。胸を押し潰される私は、強烈な息苦しさに身悶えながらも、ふと気がつくと、そのドス黒いシミに恐る恐る鼻を近づけていた。そう、私こそが正真正銘の破綻者なのだ。

 魚の干物のような嫌悪臭が鼻腔を行ったり来たりしていた。今自分は、見ず知らずの他人の陰部から滲み出た不浄な血を嗅いでいるのだと思うと、異常な興奮が胸にムラムラと湧き上がり、短い目眩に断続的に襲われた。
 それをベッドの上に広げた。クンニするように四つん這いになりながら匂いを嗅ぎ、そのままズボンとパンツを同時に下ろすと、既にはち切れんばかりに勃起した肉棒を狂ったようにシゴキまくった。
 ものの数秒で絶頂がこみ上げてきた。一瞬、そこに肉棒を擦り付け、それに包まれたままそこに射精したいという衝動に駆られたが、しかし、それはさすがに危険すぎると思い、慌てて思い止まった。
 一触即発の肉棒をヒクヒクさせながらクローゼットへと走り、スーツの内ポケットから携帯を取り出した。妻に電話をかけ、再びベッドに戻って他人の使用済みナプキンを犬のように嗅ぎまくった。
 何度目かのコールの後、汗ばんだ受話口から、「はい」という妻の短い声が聞こえてきた。

「今、ホテルに着いたよ……」

「そう」

 妻のその短い声と同時にスッと匂いを嗅ぐと、不意にネチョっと白い糸を引く妻の陰部が頭に浮かんだ。

イトヒキ

「一応、ホテルの電話番号と部屋番号を伝えておくよ」

「うん。ちょっと待って、今メモするから……」

 メモ帳を捲るカサカサっという音が聞こえてきた。

「いいよ」

「部屋は305号室……ホテルの電話番号は、025……」

 私がそう伝えると、すぐに妻がそれを復唱した。
 そんないつもの出張時のマニュアルを終えると、早速私は声を潤ませた。

「あのさぁ……」

「うん」

「今、シゴいてるんだ……」

「…………」

「なんかエッチな事、言ってくれよ……」

「できないよ……」

「じゃあオッパイの映像を送ってくれ」

 私がそう言うと、妻は戸惑いながらもスマホをテレビ電話に切り替えた。そして、「早くして、四時に美容院に行くんだから……」と面倒臭そうに言いながら、その巨大な柔肉の塊を画面に映し出した。

ウツボ1_convert_20160422173418

 真っ白な柔肉がフルフルと小刻みに震えていた。毎晩その絶品な柔肉に溺れていた私だったが、しかし、こうして違う場所で画像として見てみると、改めてそのいやらしさが脳にズキズキと伝わり、私は狂ったように肉棒をシゴき始めた。

「もういい?」

 妻が言った。それは、たっぷりと時間をかけてしゃぶらせている時に、時折つぶやくあの言葉と同じだった。

「ダメだ……指で乳首を転がして硬くさせてくれ……」

 ハァハァと荒い息を吐きながらそう言うと、小さな溜息と共に画面に妻の指が現れ、真っ白な柔肉の先の色素をコロコロと転がし始めた。
 みるみる硬くなっていく乳首を見つめながら、私は、この女とヤリたい、と素直にそう思った。この女とは昨夜二回もしたはずなのに、その気持ちは異常なほどに昂ぶっているのだ。
 しばらくすると、妻は「もう無理」と言いながら、その指の動きを止めた。それは、三回目をしようと再び股に潜り込んだ時に妻がつぶやく、あの言葉と同じだった。
 私は、「わかったよ。じゃあ速攻でイクからオマンコを見せてくれよ」と急かせるように言った。すると妻は、半ば泣きそうな声で「本当にもう時間がないんだからね……」と呟き、素早くスカートを捲り上げるシーンを画面に映したのだった。

 薄ピンクのパンティーがムチムチの太ももをスルスルと降りていくのを見つめながら、私はナプキンに鼻を近づけた。真っ白な肌にとぐろを巻く陰毛が画面に現れると、ナプキンのドス黒い血をクンクンと嗅ぎながら「早く股を開いて」と唸り、肉棒を激しくシゴいた。
 太ももが弛むと、そこからグロテスクな肉色が飛び出した。くにゃっと歪んだ割れ目の左右には使い古した小陰唇がだらしなく垂れ、それがとぐろを巻く獰猛な陰毛とコラボしては、より一層卑猥感を醸し出していた。

「指で開いてくれ……ベロンっと開いてその中を見せてくれ……」

 そう言うか言わないかの間に、妻は自らの意思でそれを開いた。案の定、その中はテラテラと濡れ輝いていた。同時に飛び出したクリトリスも、まるでパチンコ玉のように膨張していた。

ウツボ2_convert_20160422173456

「濡れてるじゃないか……」と声を震わせながら、私は必死にナプキンの匂いを嗅いだ。そして、きっと妻の陰部もこんな匂いがしているんだろうと思いながら映像を見ていると、思わずそこに舌が伸び、その誰の物かわからないドス黒いシミを舐めてしまった。
 それは恐ろしく臭みのある味だった。まるで腐った秋刀魚を食べたような独特な臭みが口内に広がっていた。それでも私は、汚れたナプキンに舌をザラザラと這わせ続けた。このナプキンは妻の物だ、妻はこの薄ら寂しい町で行きずりの男とこのホテルにしけ込み、そしてこのベッドの上で狂ったように交わっていたに違いないと滅茶苦茶に想像しながら、口内に溜まった臭汁をゴクリと飲み干した。

「もういい?」

 そんな妻の声を無視しながら、唾液でぐっしょりと湿ったナプキンで肉棒を包み込んだ。これをどんな女が陰部に貼り付けていたかはわからない。豚のような醜い肥満女かも知れないし、はたまた性病持ちの商売女かも知れない。しかし、今の私にはそんなことは関係なかった。もはや興奮のマックスに達してしまった私にはそれが誰のものでも構わなかった。いや、むしろ精神科医から異常性欲者であると診断された私には、それが狂ったシャブ中女の物であったり、化け物のような中年女の物であったほうが、より興奮度を増してくれるのだ。

 仰向けに寝転がった私は、左手にスマホを持ち、右手で肉棒を包んだナプキンをガシガシとシゴいた。「まだ?」と聞いてくる妻に、「顔を見せてくれ」と言うとすぐに画面が乱れ、妻の顔がアップで映し出された。
 画面の妻に向かって「どうして濡れてるんだ?」と聞いた。妻の愛らしい目に羞恥がほんのりと浮かんだ。「……わかんない」と呟いたまま下唇を噛んで黙る妻のその表情は、あのラブホテルであの薄汚い単独男性に背後から攻められていた時と同じ表情だった。

 そのラブホテルというのは……

 それは、今から一年ほど前の、古いラブホテルの一室での出来事だった……。

(つづく)

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