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吐泥(へろど)36

2013/06/13 Thu 00:01

 頭上でエレベーターのベルがチン!っと鳴った。古ぼけた扉がガガガガガッと開くと、廊下に貪よりと漂っていた湿気とボイラーの音が、狭いエレベーターの中に溢れ込んできた。
「行くよ……」と言いながらエレベーターを出ると、妻も一歩遅れてエレベーターから出てきた。
 妻は警戒していた。まるでお化け屋敷にでも迷い込んだかのように、恐る恐る辺りを見回している。
 薄暗い蛍光灯には、埃だらけの蜘蛛の巣がぶら下がっていた。ゴォォォォォォォっと鳴り続けるボイラーの音はコンクリートの床にまで響き、湿気を含んだ重たい熱気と、バスクリンのような湯気の香りがムンムンと漂っていた。
 そんな廊下の突き当たりに、サウナキングと書かれた黄色い看板がぼんやりと灯っていた。それに向かって、「あそこだ……」と言いながら歩き出すと、妻は黙ったまま私の後をついてきた。
 当初、目的地が男性用サウナだと知った妻は、必死に拒み続けるのではないかと危惧していた。しかし妻は、その看板を驚いた目で愕然と見つめながらも、拒否するほどの抵抗は見せなかった。
 それは、本来ならば成功だった。妻が絶対服従の性奴隷と化すのを私は求めていたからだ。
 が、しかし、そんな妻を見た瞬間、突如私は疑心暗鬼に陥ってしまった。
 妻は、今からここで、見ず知らずの男たちに輪姦される事をわかっているはずだった。そうわかっていながらも、それでも何一つ抵抗を見せない妻に、私は激しい背信と裏切りを感じ、強烈な絶望に襲われたのだ。

(やっぱりこいつは淫乱女だ……男なら誰でもいいんだ……この女は、興奮していたら誰のペニスでも構わず入れさせてしまう淫乱女なんだ……くそっ……)

 私はそう怒りながらも、しかし、いつしかそんな怒りを性的興奮へと変えていた。
 この、寝取られ願望という異常性癖は、複雑過ぎるほどに複雑だった。正常人には決して理解できない特殊な精神構造だった。
 それは、使用済み下着フェチやスカトロマニアといった異常性癖者も同じだ。オリモノやウ○コが臭くて汚いモノだとわかっていながらも、それでも彼らはそれらに対して性的興奮を感じるという、異常な精神構造の持ち主なのだ。
 そんな、正常人ではとても理解できないような複雑極まりない精神構造を、私はいくつも抱えていた。
 寝取られ、下着フェチ、スカトロはもちろんの事、残業OLの蒸れた足、女子便所の汚物入れ、熟年夫婦の使用済みコンドーム、NHKの歌のお姉さん、団地の生ゴミ、女子○生が鼻をかんだティッシュ、主婦の汗、田舎のキャバクラ嬢の太い足、タバコを吸う保母さん、元トルコ嬢のおばさん、中国人女性観光客の股間の食い込み、図書館で勉強している受験生のソックスの毛玉、キモデブ親父と平気で援交する少女、こっそり屁をこいているバスガイド、ママの鼻毛、等々、とても一般人では欲情に値しないようなものに対し、私は異常なる性的興奮を覚える変態であった。
 だから私は、これから見ず知らずの他人男たちに輪姦されようとしている妻に対しても、異常な性的興奮を覚えていた。そこには、嫉妬、恐怖、怒り、絶望は当然あったが、しかし私は、そんな感情さえも性的興奮に変えてしまうほどの異常な感性の持ち主であり、その感情が激しければ激しいほど興奮の度合いも昂まるのであった。

 興奮の鼻息を必死に堪えながら、私は自動ドアの前に立った。
 グォォォォォンっと開いたドアの向こうで、ネズミ男がニヤニヤと笑っていた。

「いらっしゃい。お待ちしてましたよ」

 ネズミ男は、カウンターの中からそう言いながらゆっくりと立ち上がった。
 しかし、そんなネズミ男の余裕の笑みは、私の後ろからソッと現れた妻を見た瞬間、消えた。
「妻です……」
 そう言いながら妻を私の横に並ばせると、ネズミ男は、ノーブラの浴衣からチラリと見える妻の巨乳を見て、喉仏をゴクリと動かした。
 玄関に上がり、スリッパをカウンターの上に置いた。妻にもそう教えると、恐る恐る玄関に上がった妻は、静かに腰を下ろしながら並んだスリッパを摘んだ。
 前屈みになった妻の浴衣の胸元から、白い乳肉がムチッと溢れた。それをカウンターから覗き込んでいたネズミ男は、「驚いたな……こりゃ上玉だわ……」と独り言のように呟き、カウンターの下からロッカーキーを二つ取り出したのだった。

ウツボ173

 ネズミ男は「旦那さんだけ、ちょっといいかな……」と言いながら、カウンターの奥にあるカーテンの中へと消えた。
「ここで待ってなさい……」と妻に言うと、妻は黙ったままコクンっと小さく頷いた。
 妻をその場に残したまま、私はネズミ男の後に続いた。カーテンを潜ると、そこは、先週ネズミ男に尺八された薄汚い小部屋だった。

「まさか、あんなに綺麗な奥さんだとは思いませんでしたわ」

 ネズミ男はそう笑いながら、事務机の上に置いてあったショートホープの箱からタバコを一本摘み出した。そしてそれを唇の端にソッと咥えると、「あれだけの美人だとさ、変態男どもがウヨウヨと群がってくると思うぜ……」と言いながら事務机の引き出しをガガッと開け、そこから『スナック多恋人』とプリントされた百円ライターを取り出した。
 引き出しの中には、ガム、爪楊枝、トランプ、ミニスタンガン、ハサミ等が無造作に放り込まれ、まるでゴミ箱のようにごちゃごちゃしていた。そんな引き出しの奥に、何やら薄気味悪いポラロイド写真が一枚あった。
 ネズミ男は、タバコに火をつけながらそのポラロイド写真を摘み出した。そしてそれを私に渡しながら、「こんな写真とかも、勝手に撮られちゃうかも知れないけど、本当に大丈夫かね?」と、私の顔を覗き込み、卑猥な薄ら笑いを浮かべた。

ウツボ174

 この程度の画像なら、いつもネットで見ていた。だから別段驚くほどのものではなかったのだが、しかし、写真を摘んでいた私の指はブルブルと震えていた。
 タイミングが悪かった。このタイミングで見せられたせいか、その写真は、今までネットで眺めていた画像のような対岸の火事とは思えなかった。今まさに、自分の妻がこんな目に遭わされようとしている私にとってその写真は、あまりにも生々しく、そしてあまりにも残酷なのだ。
 それをジッと見つめていると、いつしか真っ黒なヘドロが頭の中でドロドロと渦を巻き始めた。

(こんな事をさせたら、妻はもう二度と普通の主婦として生きられなくなってしまうかも知れない……)

 一瞬、私はそう怖じ気付いた。やっぱりやめたほうがいい、と、もう一人の正常な自分が必死に囁き掛けてきた。
 しかし、そんな恐怖心が湧き上がると共に、突然ヘドロは凄まじい勢いで回転し始め、私の脳を激しく掻き回した。そして、かろうじて残っていた正常な思考までもドロドロに溶かしてしまい、あっという間にその恐怖は消え去ってしまったのだった。

「大丈夫です……」

 そう深く頷くと、ネズミ男は複雑な表情を浮かべながら、私の指からポラロイド写真をサッと奪い取った。

「そう簡単に言うけどさ、あれだけの美人だと、きっと相当な修羅場と化すぜ……本当に我慢できるの? トラブルは御免だよ」

「はい。大丈夫です。私は医者からもお墨付きを頂いているほどの異常性欲者ですから、妻がどんな目に遭わされようとも辛抱できます」

「違うよ。あんたの事言ってんじゃないよ。奥さんの事を言ってんだよ」

 ネズミ男は呆れたようにそう笑うと、タバコの煙を鼻から吐きながら、「あいにく今夜は、外道が揃ってるしね……」と呟いた。

「ゲドウ?」

「うん。ゲドウ。道を外れると書いて外道」

「……なんですか、その外道ってのは」

「要するに、男でも女でも、何でもヤっちゃう両刀使いの事さ」

 そう言いながらネズミ男は、数回吸っただけのタバコを灰皿に揉み消した。カサカサと鳴る灰皿から細長い紫煙が一本の伸び、まるで一匹の竜のように天井へと昇って行った。

「ここに来る外道ってのはね、決して男が好きっていうわけじゃないんだよ。娑婆では女に相手にされないから、仕方なくここでホモ男を捕まえては、手っ取り早く性処理してるって奴ばかりなんだよ」

「…………」

「あいつらはタチが悪いぜ。射精目的だけにここに来てるような奴らだからさ、マナーは悪いし、ルールも守らない。そこらの公衆便所に潜んでは、夜な夜な汚ねぇ性犯罪を犯してるような、そんな変質者みたいな奴らなんだよ」

 私は、まさに自分のことを言われているような気がした。

「だから聞くんだけどさ、あんたの奥さん、外道相手に本当に耐えられるのかい?」

「…………」

「途中でやめるなんてのは無理だよ。あれだけの上玉だから、外道共は目の色変えて襲いかかってくるだろうからね、一度奴らに捕まったら最後、朝までヤリまくられると覚悟しておいたほうがいいよ……」

 朝までヤリまくられる。その残酷な言葉にクラクラとした目眩を感じた。
 変態男たちに、延々と陵辱され続ける妻の姿が浮かび、同時に、脳で渦巻いていたヘドロが鼻水のようにして鼻腔に垂れてきた。それは口内に溢れ、喉を滑り、内臓に達した。そして悪性の膿のようにジクジクと広がりながら尿道を通過し、トランクスをネトネトに濡らした。

ウツボ175

 ネズミ男は小さな溜息をつきながら事務机に半ケツを乗せると、ジッと黙ったまま項垂れている私を見て言った。

「……正直言ってさ、ウチとしては、途中で逃げ出されるくらいだったら最初から入場して欲しくないんだよね……」

「いえ」と、私は素早く顔を上げ、ネズミ男の顔を見返した。

「大丈夫です。あいつはもう肉便器として調教してますから、途中で逃げ出す事など有り得ません」

「でも、相手は外道だよ?」

「望むところです」

「普通に中出しされるよ」

「平気です」

「アナルとマンコに二本刺しされちゃうんだよ?」

「興奮します」

「…………」

 ネズミ男は、その本心を確かめるかのように私の顔を覗き込みながら、「後でレ○プされたとか訴えない?」と恐る恐る聞いた。
「そんな事しませんよ」と、思わず私が噴き出すと、突然フロントから、「きゃっ!」という妻の小さな悲鳴が聞こえた。
 慌ててカーテンの隙間から覗くと、愕然と立ちすくむ妻の前に、濃紺のジャージを着た太った男が立っているのが見えた。男は、かなりの興奮状態らしく、今にも妻に襲いかからんばかりの形相でハァハァと荒い息を吐いていた。
 なんだこいつは……と一歩踏み出そうとすると、男が右手に握りしめていたものがギラリと光り、私の背筋をゾッとさせた。
 しかし、それはナイフでも包丁でもなかった。男が握りしめていたものは、なんと、我慢汁がテラテラと輝くペニスだった。

ウツボ176

 その薄気味悪い男は、半開きの目で妻をジッと見つめながら、ペニスをゴシゴシとシゴいていた。そうしながらも、「見てください……僕のおちんぽ見てください……」などと小声でブツブツ呟き、その上下に動く青白い肉棒を妻に突きつけたりしていた。
 妻は愕然と立ち竦んだまま、恐怖で顔を引き攣らせていた。黙ったまま震える下唇を噛み締め、オオカミに追い詰められた小鹿のように怯えていた。
 が、しかし、私は見逃さなかった。妻のその怯えた目が、上下に蠢く肉棒をしっかりと捕らえていたことを。

 そんな妻と男を、固唾を飲みながらカーテンの隙間から覗いていると、背後でネズミ男が、「あれが外道だよ……」と呟いた。

「あの人は、週に二回のペースで来てくれてる常連だよ。露出狂らしいんだけどね、小学校の教師だからそこらでホイホイと露出するわけにいかないだろ、それでいつもここに通っては、仕方なく男客相手にセンズリを見せつけてんだよ……」

「小学校の……教師ですか……」

 そう驚きながら呟くと、ネズミ男は爪先立ちでカーテンの隙間を覗きながら、「あいつ、完全にトチ狂っちゃってるね」と小さく笑った。

「まさか、あんな綺麗な女の人がいるとは思ってもいなかったんだろうね、ついさっきサウナで抜いたばかりだっつうのに、もうあんなにコーフンしちゃってるよ、ありゃあ、まるでエテ公だ」

 ネズミ男がそうケラケラ笑い出すと、不意に男の腰がクネクネし始めた。まるで小便を我慢しているかのように両足をスリスリと擦り合わせながら、「出ます……出ますからちゃんと見ててください」と妻に囁き、その上下させている手の動きを速めた。
「イクぞ……」と、ネズミ男が私の耳元で囁くと、男は「んふっ!」と唸った。そして立ったまま両足をピーンっと引き攣らせると、「あぁぁぁぁ」という気の抜けたような声と共に、真っ白な液体を噴射したのだった。

ウツボ177

 ガシガシと激しく上下していた手が一瞬止まった。男はペニスを握る拳を根元まで下ろし、真っ赤な亀頭を拳の中からニョキッと突き出しながら、その長い一射の快感に浸っていた。
 初発が途切れるなり、男の手は再び上下に動き始めた。「あああああああ」っと小さく唸りながら、少量の精液を、びゅっ、びゅっ、びゅっ、と断続的に三回吐き出すと、男は精液が滴るペニスを素早くジャージのズボンの中に戻した。そして、何もなかったかのような素振りでスタスタと玄関に向かって歩き出し、一度も後ろを振り向かないままサウナを出て行ってしまったのだった。
 それら一連の動作は、一瞬の出来事だった。その素早い事後処理に、思わず(常習者だ……)と感心していると、背後でネズミ男が、「浴場には、あんな外道がウヨウヨしてるんだぜ」と呟いた。

「いや、あんなのは、まだまだカワイイもんだよ。そもそもあいつは、見て欲しいだけの露出狂だから、乱暴な事はしないからね。でも、今、中にいる奴らはあんなもんじゃないよ。病的なサディストもいれば、先月懲役から出てきたばかりのゴーカン常習犯もいるし、そりゃもう、外道の名にふさわしい強烈な変態共がウヨウヨしてるよ」

「…………」

「それでも、奥さんを連れて行くかい?」

 私は、そんなネズミ男を無視してカーテンを出た。
 立ち竦んだままの妻にソッと寄り添うと、無言で浴衣の裾をかき分け、そのノーパンの茂みの中に指を押し込んだ。
 ついさっきシャワーで洗い流したばかりなのに、そこは既にヌルヌルになっていた。熱を帯びた割れ目からは大量の汁が溢れ出し、それが太ももの内側にまでタラタラと垂れていた。

(この女は……あの変質者のセンズリを見て興奮していた……)

 そう思うなり頭にカッと血が上り、目眩を感じるほどの嫉妬に駆られた。
 ハァハァと熱い息を吐きながら妻の肩を抱き、その真っ白なうなじに「それじゃあ……サウナに行こうか……」と囁いた。
 妻は下唇を噛んだまま、ソッと視線を落とした。
 そんな妻の視線の先には、あの男の精液でベトベトに汚された妻の足が、怪しくテラテラと輝いていたのだった。

ウツボ178

(つづく)

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