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スリル1・破滅の起因

2013/06/13 Thu 00:02

 ほんのりとカビ臭いクローゼットの中から浴衣を取り出した。
 安いビジネスホテルの浴衣は洗濯のりでバリバリしており、とても着れるような代物ではなかった。
 一人でホテルに泊まる時は浴衣など絶対に着ない恵美だったが、しかし、浴衣姿に欲情するという彼とこのホテルに来た時だけは、いつもそれに着替えていた。
 そんな浴衣をベッドの上に投げ捨て、服を脱ぎ始めた。
 クローゼットの前にある等身大の鏡に、二十五才の見事な裸体が映し出された。
 透明感。そんな言葉が似合う真っ白な肌だった。プルンっと盛り上がった半球型の乳房の先には、色素の薄い乳頭がツンっと尖り、引き締まったウェストからポテッと張り出したそのヒップのラインは、美しくもあり、そして卑猥でもあった。
 そんな自分の裸体を隅々まで見つめながら、淡いベージュのショーツに指先を引っかけた。スルッとショーツを太ももまで下ろすと、クロッチの裏側に丸い形をしたシミが出来ているのが見えた。
 既にそこは濡れていた。栗毛色の陰毛がネチャっと萎れるほど、そこにはネトネトの汁が溢れ出していた。
 そこに指を潜らせると、まるでハチミツの瓶に指を突っ込んだようにヌルっと滑り、生温かい二枚の襞が指にネバネバと絡み付いて来た。
 恵美は、毎週土曜日になるとこのホテルに来ていた。
 それは、同じ会社の営業部の松川と一緒だった。
 妻と別れるからと強引に口説かれ、松川と関係を持ったのだが、しかし松川に離婚する気など全くなく、そのまま二年間、恵美は毎週土曜の夜にこの薄ら淋しいホテルの一室に呼び出されては、性処理女として扱われていたのだった。

 土曜の午後八時。
 その日も恵美は、いつものように、一人このホテルにやって来た。
 そこは、駅裏にある古いビジネスホテルだった。
 当初は、ビジネスマン向けに作られた低価格のホテルだったらしいが、しかし老朽化と共にその利用客も変わり、今ではラブホテル代わりに使う客がほとんどだった。
 そんなホテルのロビーには、常にそれらしき女達がいた。
 酔ったキャバ嬢、疲れたデリ嬢、やたらキョロキョロしている出会い系の女に、スマホをジッと見つめたまま身動きしない不倫女。
 そして、そんな女達を取り巻くように、それらしき男達も大勢いた。
 ソファーを占領する反社の男達、やたらと声の大きな田舎のオヤジ、こそこそと新聞で顔を隠している不倫男に、妙にイライラしているデリのドライバー。
 そんなカオスと化したロビーには、いつもそんな男と女が醜い欲望を剥き出しながら蠢いていたのだった。

 浴衣に着替えた恵美は、窓際のベッドに腰掛けながら、今か今かと背後のドアが開くのを待ちわびていた。
 松川に対して恋愛感情はほとんどなかった。自分が性処理女として扱われていると知った時点で、松川に対する気持ちは冷めてしまっていた。
 しかし、感情は薄れても、肉体は松川を求めていた。
 中年男の執拗なる変態行為は、苦痛の中に激しい快感を与えてくれた。週に一度は、その快感を得なければ気が狂いそうになってしまうほど、恵美は松川に調教されていたのだった。
 だから恵美は松川が来るのを今か今かと待ちわびていた。
 しかし二時間待っても、松川はやって来なかった。
 やめたほうがいいと思いながらも松川の携帯に電話してみた。
 十コール目でやっと松川が出た。
 しかし松川は、電話に出るなりいきなり怒鳴った。
「いい加減つきまとうのはやめてくれよ!」
 そのまま機関銃のように怒鳴られまくった。何が何だかわからないまま唖然としていると、その怒鳴り声の途中で、女が電話に代わった。
「これ以上夫につきまとうと告訴しますよ」
 低い声でそう言われ、そのまま電話を切られてしまったのだった。

 呆然とベッドに腰掛けていた。
 窓の外に映る『つぼ八』の青いネオン看板をぼんやりと見つめていると、この二年間、あの醜い中年男の性玩具にされてきた事が走馬灯のように思い出された。
 松川は、十歳年下の恵美を可愛い可愛いと愛でながらも、その言葉とは逆の行為を恵美に加えた。
 ガムテープで縛られた事もあった。真っ赤な蝋をお尻に垂らされながら背後から攻められた事もあった。卑猥なバイブを使わされ、そのシーンを携帯で撮影された事もあった。ある時など、通常では入れない穴に入れられ、あまりの痛さに泣き叫んだ事もあったほどだった。
 そんな二年間の結末は実に呆気なかった。散々弄ばれた挙げ句、たった一分足らずの電話で強制終了させられてしまったのだ。
 松川には全く未練はなかった。恨みも怒りも湧いて来なかった。が、しかし、心は覚めていても、体はまだ疼いていた。
 この二年間、あの中年男に変態行為を教え込まれたこの体は、土曜の夜になると妙に疼くのだ。
 そんな疼きを抑えようと、恵美は冷蔵庫から缶ビールを取り出した。
 恵美は下戸だったが、このやるせなさを消し去りたい一心で、缶ビールを一気に飲み干した。
 空になった缶をテーブルに置くと、全身の力がドッと抜け、すぐさま額に脂汗が滲んできた。
 目を綴じると、とたんに脳が回り始めた。慌てて目を開けると、ふとベッドサイドテーブルに置いてあった、『マッサージ・四十分四千円』というプレートが目に飛び込んで来た。
 無性に誰かと話したかった。相手は誰でも良かった。とにかくこの胸のモヤモヤを誰かに聞いてもらいたかった。
 朦朧としながら受話器を取り、震える指でフロント9番を押した。そして、天井の隅の雨漏りの染みをぼんやり見つめながら、「マッサージをお願いします……」と呟くと、その返事も聞かないまま寝てしまったのだった。

 ピンポーンっとドアチャイムが鳴った気がして目を覚ました。
 ぼんやりと目を開き、朦朧としたまま天井を見つめていると、静まり返った部屋に再びドアチャイムが鳴り響いた。
 ふらふらしながらドアへと向かい、ソッとドアスコープを覗くと、そこには白衣を着た中年男が立っていた。
 そこで初めて恵美はマッサージを頼んだ事を思い出した。
 今更、話し相手など必要なかった。馬鹿みたいに一気飲みしたビールが頭をガンガンと締め付け、このまま眠ってしまいたかった。
 料金だけ払って帰ってもらおうとドアを開けた。
 しかし、「こんばんは〜」と笑っている男を目の当たりにすると、気の小さな恵美はとたんに何も言えなくなってしまったのだった。
 結局、ベッドに寝かされ、肩をグイグイと揉まれた。
 右肩の窪みに男の指が食い込むと、まるで水が漏れていくように、首に溜まっていた疲れが一気に抜けていった。
 久々のマッサージは驚くほどに気持ち良かった。ここ最近、連日のデスクワークに没頭していた恵美は、異常な肩こりに悩まされていたのだ。
 あまりの気持ち良さに恵美の脳は蕩け、心地良い睡魔に再び眠りの中へと引きずり込まれた。
 それからどれだけ時間が過ぎただろうか、ふと目を覚ました恵美は、ベッドの足下で男がモゾモゾしている気配を感じた。
 まだマッサージは続いていたのか……
 そう思いながらソッと顔をあげると、M字に開かれた自分の太ももが目に飛び込んで来た。
 浴衣の裾は捲れ上がりショーツが露になっていた。
 そんな恵美の足下には男が踞り、恵美の脹ら脛をせっせと揉みながら、M字に開かれた股間をジッと見ていた。
 しかも男は、もう片方の手で熱り立った黒い肉棒を握りしめていた。それを上下に動かしながら恵美の股間を覗き込み、ハァハァと卑猥な荒い息を小刻みに漏らしていたのだった。

(つづく)

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