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    ヤリマン1・黒い手帳
―1―

 萬次郎は、歌舞伎町にあるブランドショップのショーケースの中を覗き込んでは、何度も何度もその値札に付いてる「0」を数え直した。
 新宿の空は薄暗くなりかけ、次第にネオンが目立ち始めると、歌舞伎町には会社帰りのサラリーマン達が唸るように溢れかえっていた。そんなサラリーマン達を誘い込もうと、居酒屋の店員達が必死になって宣伝文句を叫んでいる。
 そんな騒がしい街の真ん中で、ショーケースを覗き込む萬次郎は、(どー考えてもこんな高価なハンドバッグ、僕には買えない・・・)と、ガックリと肩を落としたのだった。

「九州黒豚の串焼きセットが1980円でぇーす!どうぞー、いらっしゃいませぇー」

 萬次郎は、そんな居酒屋の呼び込みのセリフを聞きながら、ゆっくりと携帯を開いて時計を見た。
 美咲との約束の時間は5分を過ぎていた。
(どっちみち・・・終わりだ・・・)
 萬次郎は肩を落としたまま歩き出した。
 指名ナンバーワンの美咲は時間に厳しい。同伴の待ち合わせ場所に1分遅れただけでも許してはくれない。
 同伴と、約束のプレゼントをすっぽかした以上、もうあの店にはいけないな・・・と萬次郎はそう思いながら、これまでに、安い給料の中からセッセと美咲に貢いだ金を、心から惜しいとそう思った。
 項垂れた萬次郎は、同伴の待ち合わせ場所とは反対方向へと向かって歩いた。
 区役所の横の路地を通り抜け、大通りをしばらく行って案内所の角を左に曲がると、植木がズラリと並んだひっそりとした暗い路地に出た。
 そこは、攻撃的なネオンきらめく歌舞伎町の中で、唯一萬次郎が安らげる場所だった。

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 愛染萬次郎。23才素人童貞。
 この、歌舞伎役者か時代遅れのホストのような、実に気味の悪い名を持つ青年は、18歳の時、東北の糞のような田舎町から家出同然で上京して来た。
 上京の理由は、ただ単にセックスがしたかったからである。
 田舎町で、萬次郎を相手にしてくれる女はいなかった。というか、その町には若い女自体がいなかった。
 しかし、例えその町に若い女がいたとしても、醜い萬次郎が相手にされる事は間違ってもなかったはずだ。
 身長152センチの体重80キロ。アゴに溜った脂肪が首を埋め尽くし、丸い体の上にボテッと置かれた丸い顔は、まるでドラ○もんのようだった。目は爪楊枝のように細く、鼻は豚のように天に向かい、そして丸坊主に刈った頭のテッペンはクリスマスのとんがり帽子をかぶっているかのように歪に尖っており、そのくせ頭の裏側は恐ろしい絶壁だった。
 そしてなによりも萬次郎は臭い。
 萬次郎は、デブ特有の脂っぽいニオイを全体的にムワっと漂わせながら、ワキガ、水虫、口臭と、あらゆる臭みを身体中に装備していた。
 恐ろしく貧しい農村家庭の8人兄弟の末っ子。
 貧乏で頭は悪く不細工でそして臭い。
 しかし、そんな萬次郎にもたったひとつだけ人に自慢できるモノがあった。
 そう、それは巨根である。
 勃起時最大20センチ。竿はどっぷりと太く、カリ首のエラはエリマキトカゲのように開いては威嚇していた。
 そんな萬次郎を、まともに相手にしてくれる唯一の女といえば、萬次郎の田舎町から電車で2時間ほど行った小さな都市にある風俗店の女達だけだった。風俗嬢達は、萬次郎のその見事なイチモツに乱れ狂い、そしていつも最後に「そのチンコと体が別だったらねぇ・・・」と残念そうに呟いた。
 しかし、萬次郎はそこでセックスの悦びを知った。
 8才で自慰を覚え、小・中と妙にませたガキだったが、しかし中学を卒業後、近所の缶詰工場で大人達と交じって働くようになってから大人達から色々な事を教えられた萬次郎は、そのスケベぶりが加熱し、それが益々悪化して、遂には「変態」という究極のステージにまで達してしまった。
 缶詰工場でパートをしているオバさん達のロッカーを荒らしては、50を過ぎたオバさんのスカートや泥で汚れたスニーカーに精液を飛ばした。そして夜な夜な下半身を露出しながら田舎町を彷徨い歩き、そこで出会えば、相手が老婆であろうと野良犬だろうと目の前で自慰を見せつけ、そして薄汚い精液をピュッピュッと飛ばしては逃げ去った。

 萬次郎は、ある時、ひょんな事から出会い系サイトというものを知った。
 それは、萬次郎にとって運命的な出会いだった。
 毎日毎日出会い系サイトとニラメッコしては、セックスの相手を貪り捜した。
 そこで知り合ったのが恵子という女だった。
 恵子は24才のOLだった。生理前になるとアソコがウズウズとしてもう誰でもイイからやりたくなっちゃうの、という淫乱女で、萬次郎は、そんな恵子のコメントと写真を眺めては猿のようにオナニーした。
 ある時、いよいよ恵子から「会ってもいいよ」というメールが届いた。
 萬次郎は気が狂いそうなくらいに興奮した。
 そして返事を返すと、「じゃあ明日の夜7時に新宿東口のアルタの前で待ってまーす」という、愛らしい顔文字入りのメールが返って来た。
 嬉しさのあまり畑のネギを無意味に引き千切っては絶叫した萬次郎だったが、しかしポケットの中には650円しかない。これでは、ラブホ代どころか東京までの電車賃すら足りないのだ。
 そこで萬次郎は、缶詰工場の社長宅へ出向き、給料の前借りをお願いした。
 しかし、もうその頃では、萬次郎が出会い系サイトといういかがわしいネットにハマっているという噂を町の皆は知っており、そんな噂を耳にしていた社長は萬次郎の前借りをキッパリと断り、そして萬次郎に淡々と説教を始めたのだった。
 しかし、そんな説教が萬次郎に利くはずはなかった。前借りを断られ、挙げ句に説教までされた萬次郎は、その日の夜、社長が寝静まったのを見計らい、社長宅に忍び込んだ。
 自宅兼工場の事務所に侵入した萬次郎は、そこから電子レンジほどの金庫をそのまま運び出し、それを夜の河原へ運んでは、バールでいとも簡単にこじ開けると、中から現金24万円を奪い取り、東京行きの始発電車に飛び乗ったのだった。
 そこまでして恵子に会いたかった萬次郎だったが、しかし、アルタの前で待てど暮らせど恵子は現れなかった。
 真冬の夜風に吹かれながら新宿で立ちすくむ萬次郎は、そこで初めて恵子が『サクラ』と呼ばれる影人物だった事に気付くが、しかし今さらノコノコと田舎町に帰れるわけがない。
 そんな悲惨な経験から、いつしか萬次郎は、この新宿と言う大都会で生きるようになっていたのだった。


―2―


 ♪ピリカラパルポン♪
 萬次郎のポケットの中でメールの着信音が響いた。
 四季の道でしゃがみ込んでは項垂れていた萬次郎は、目の前を次々に素通りして行くサラリーマン達の革靴を見つめながら、どんよりと落ち込んだ気分で携帯を開いた。時刻は、美咲との待ち合わせ時間から15分も過ぎていた。
 メールはやっぱり美咲だった。

《二度と私の前に現れるな臭男!》

 予想していた通りの内容文だったが、しかし、最後の『臭男』は少々骨身に沁みた。

 キャバクラ・アマールの美咲には、これまでに散々貢いで来たつもりだ。
 新大久保のチューインガム工場で働く萬次郎は、それほど高価なプレゼントは出来なかったが、しかし萬次郎なりにそれなりに貢いだつもりだった。
 しかし、美咲は今まで一度も手すら握らせてくれなかった。それが風俗だったら毎週2回は通えるような大金を貢いでいたにもかかわらず、手すら握らせてもらえないばかりか、挙げ句の果てには、この『臭男』だ。

「おまえに貢いだおかげで闇金からも追われてるって言うのに、僕にエルメスのバーキンなんて高価な物が買えるわけがないじゃないか・・・」

 そう呟きながら、パタン!と携帯を閉じた萬次郎は、ゆっくりと顔を上げ、四季の道を忙しなく歩いて行く人の群れを淋しそうに眺めていた。

 四季の道。この新宿遊歩道公園と呼ばれている薄暗い路地は、ネオンきらめく新宿区役所通りとバラックが立ち並ぶ新宿ゴールデン街との間に、ひっそりと佇んでいた。
 昔はここを路面電車が走っていたらしいが、今ではその跡形はなく、両側に植栽が施され綺麗な石畳が敷かれていた。
 普段は人通りの多い遊歩道だったが、しかし一般人の姿が消える深夜ともなると、さすが世界一の歓楽街・歌舞伎町の遊歩道らしく、卑猥な姿を剥き出しにした。
 特に、ゴールデン街に近い歩道には、ホームレス、酔っぱらい、変態性欲者に外国人売春婦といった、魑魅魍魎とした者達が植木の中でジッと息を潜めていた。
 そんな四季の道を、歌舞伎町の住人達は、「死期の道」とも呼んでいた。
 そんな一角で、やはり彼らと同じように草葉の陰でジッと息を潜めては、美咲にフラれたショックから立ち直れない萬次郎は、かれこれ数十回となく深い溜息を付いていた。

(これからどうやって生きて行こう・・・)

 美咲というキャバ嬢と一発ヤル事だけが人生の最大の目標としていた萬次郎は、まるで、見知らぬ土地で突然ナビが壊れたかのように路頭に迷った。

「バスぅ・・・」

 すぐ隣で寝ていたホームレスが、力の抜けたようなひ弱な屁をやらかした。
 風に乗って漂って来るその屁の匂いは、内臓が腐っているのか、病的なニオイを漂わせていた。
 そのあまりの臭さに、萬次郎が場所を移動しようとスッと立ち上がると、いきなりそこで寝ていた屁垂れホームレスが「よぉ・・・」と、弱々しく声を掛けた。
 萬次郎が振り向くと、ホームレスはピースサインを作りながら弱々しく笑っていた。
 それが、タバコを恵んでくれという合図だと言うのを、かれこれ10年近く新宿で暮らしている萬次郎はわかっている。
 萬次郎はポケットの中から少し潰れかけたショーホープを取り出し、その中から1本、ホームレスに恵んでやった。
「えへへへへへ・・・悪りぃなぁ・・・」
 2本しか残っていない前歯を剥き出してはニヤニヤと笑うホームレスは、嬉しそうに1本のタバコを手にした。
 そしてそのまま萬次郎が歩き始めると、再びそのホームレスは萬次郎を呼び止めた。

「あんた・・・手帳、忘れてるよ・・・」

 ホームレスは、どこかの国の難民のような弱々しい細い指で、萬次郎が座っていた場所をブルブルと震えながら指差した。
 萬次郎が引き返して見ると、そこに黒い手帳がポツンと置いてあった。
「・・・知らねぇよ。僕のじゃないよ・・・」
 そう言ってそそくさと立ち去ろうとすると、再び「いや、絶対にあんたの手帳だ」と、ホームレスが呼び止めた。
「なんだよ・・・僕の手帳じゃないって・・・」
 萬次郎が呆れるようにそう言いながら振り返ると、不思議な事に今までそこにいたホームレスの姿が忽然と消えていた。
「?・・・・アレ?」
 萬次郎は辺りを見回した。遠くまで見渡せる1本の遊歩道におっさんの姿はなかった。あんな高齢のおっさんが、この一瞬でこの通りを走り抜けれるはずがない。

 不思議な顔をした萬次郎が、「おっさん・・・」と声を掛けながら、つい今まで屁垂れホームレスが寝ていた薮の中を覗いてみた。
 薮の中には真っ黒な野良猫が一匹潜んでおり、覗き込む萬次郎の目をジッと見つめているだけだった。
 夢でも見ていたかのような錯覚に捕われた萬次郎は、その先の薮の中まで探してみたが、しかし、おっさんの姿は見当たらなかった。
「・・・どうなってんだ・・・」
 萬次郎は気味が悪くなって来た。ここは、別名「死期の道」と呼ばれるだけあり、毎年、凍死したホームレスが発見される場所なのだ。
 薄気味悪くなった萬次郎が慌てて立ち去ろうとすると、ふいに猫が「にゃ~おっ」と鳴いた。
「ひっ!」と振り向くと、そこには先程の黒猫が萬次郎を黄色い目でジッと見つめていた。
 黒猫は、歩道の隅に落ちていた黒い手帳をサッと銜えると、スルスルと泳ぐようにして萬次郎の足下にやって来た。そして、その黒い手帳をポトンと萬次郎の足下に落とすと、そのままヒョイっと歩道の脇の塀に飛び上がり、萬次郎の顔をジッと見下ろしながら「パスぅ~」っと弱々しい屁を垂れた。
 漂って来た黒猫のその屁のニオイは、まさしく先程のホームレスと同じ、病的なニオイがしたのだった。

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―3―


 寮に帰ろうと思っていた萬次郎だったが、しかし、そう簡単に美咲の事を諦め切れなかった。
 歌舞伎町の雑踏の中を歩きながらも、店が終わる時間に店の前で美咲を待ち伏せし、店から出て来た美咲にちゃんとしっかり謝罪しよう、と考え直した萬次郎は、美咲の店が終わるまでの間、店に近いバッティングセンターの駐車場で待つことにした。
 美咲の店が終わるまで、まだ3時間ほど時間があった。
 その間、何もする事がない萬次郎は、携帯で2ちゃんねるでも見ていようとポケットに手をやると、ズボンの後ポケットにさっきの手帳が刺さっている事に気付いた。

「・・・いったい誰の手帳だよ・・・」

 そう言いながら、なにげなくパラパラと手帳を捲ってみた。
 手帳には、大勢の人の名前と、年齢、住所、電話番号、職場、といった個人情報と共に、なにやら『暗号』と書かれた意味不明な文字が書き込まれていた。それ以外には何も書かれておらず、ただ延々とそれらが書き連ねられているだけだった。

(暗号ってのはいったい何だろう・・・)

 萬次郎は興味を覚えた。というのは、そこに書き連ねられている人の名前は、全て女性の名前だったからである。
 数えてみると、そこには20人の女性の個人情報が記されていた。年齢を見ると、10才から45才までと幅広いが、しかし、大半が20代前後の若い女ばかりだった。

(もしかしたら、アダルトグッズの顧客名簿だったりして・・・)

 萬次郎はデヘデヘデへっといやらしく笑った。元々萬次郎という男は、他人のロッカーやコンビニのトイレの汚物入れ等を荒らす事で性的興奮を得るという異常な性癖を持った男である。この手帳に書き記されているような、若い女の個人情報だけでも、十分に射精できるだけの妄想力は持っていた。
 萬次郎は、そんなリストの中に、どこかで見覚えのある『店名』を発見した。

「カラオケ大統領・・・どっかで見たコトあるよな・・・どこだっけ・・・」

 そう考えながら、顔をゆっくりと夜空にあげていくと、すぐ目の前に『カラオケ大統領』と書かれた看板が目に飛び込んで来た。
「なんだ、すぐ目の前かよ!」
 そう自分にツッコミを入れる萬次郎は、そこで働くという女のリストを読み返した。



『名前・畑中あずみ
 年齢・20才
 住所・東京都中野区・・・
 携帯・090-5265-8・・・
 勤務先・カラオケ大統領
 暗号・アランドロンと三船敏郎』



「あずみちゃん・・・ハタチかぁ・・・へへへへ・・・」
 萬次郎はいやらしい笑顔をニヤニヤと浮かべては、同時にその支離滅裂な暗号に「なんじゃこりゃ」と首を傾げながらも、自然とその足はカラオケ大統領へと向かっていたのだった。

『カラオケ大統領』とネオンが輝く5階建てのビルの前に立った萬次郎は、『IN』と表示されている自動ドアを恐る恐る覗いてみた。
 フロントらしきカウンターで、数人の従業員が雑談している。その中にあずみちゃんがいるのだろうかと、萬次郎はワクワクしながらジロジロと中の様子を伺った。
 すると、いきなり若い男性店員と目が合った。

「いらっしゃいませぇ!」

 若い男は、自分で自動ドアを開けながらそう叫ぶと、「待ち合わせですか?」と、爽やかな笑顔で聞いた。
「あぁ、まぁ・・・うん・・・」
 そのジャニーズ系の若い店員に圧倒された萬次郎が曖昧にそう答えると、萬次郎は、まるでじゃがいもがベルトコンベアーで流されるかのように、そのまま個室へと案内されてしまったのだった。
 萬次郎がカラオケボックスという所に入ったのは、これで2度目だった。そのいずれも工場の忘年会で、その時萬次郎はブラジル人や中国人の出稼ぎ工員に囲まれながら、チャゲアスの「YAH・YAH・YAH」を50才のオバさんと無理矢理デュエットさせられたという恥ずかしい過去があった。
 どこからともなく若い女の子が唄う元気な歌声やおっさんが唄う演歌などが聞こえて来た。カラオケボックスの個室で、1人ボンヤリと座っているだけの萬次郎は、まるでファッションヘルスの待合室にいるおっさんのようだった。

(僕はいったい、ここに何しに来たんだろう・・・)

 そう思った矢先、個室のドアがコンコンっとノックされた。
「失礼します!」
 さっきのジャニーズ系の若い男店員が、まるで軍隊のように元気に入って来た。
「何かお飲物、お持ちしましょうか?」
 若い店員は、大きな八重歯をくっきりと曝け出しながらニカッと笑った。
「あぁ・・・じゃあ、コーラを・・・」
 萬次郎がそう呟くと、ジャニーズ系の若い男店員は「了解しました!コーラワン!」と1人で叫び、その場でクルリと回転しながらドアを出ようとした。
「あ、あのぅ・・・」
 萬次郎は呼び止めた。
「はい、なんでしょう!」
 若い店員は、狂ったようなテンションで再び振り返った。
「あのぅ・・・こちらに・・・」
 萬次郎はそう言いながらも悩んでいた。ここにあずみちゃんを呼び出した所でどうなるわけでもない。
「・・・どうしました?」
 若い店員は再び真っ白な八重歯を剥き出して笑った。
 萬次郎は思い切って尋ねてみる事にした。あずみちゃんが来たら来たで、この落とし物の手帳の事を聞いてみればいいのだ。

「畑中あずみさんって方は、おみえになるでしょうか・・・」

 萬次郎のその言葉に、若い店員は、すぐに「はい、おりますが」と答えた。
 その後の言葉が続かず、俯いてしまった萬次郎の顔を、若い店員は優しく覗き込み、「御呼びしましょうか?」と首を傾げた。
「あ、はい。お願いします」
 萬次郎がそう答えながら顔をあげると、若い店員は「了解しました!あずみちゃんワン!」と異常なテンションでそう叫び、颯爽と個室を後にしたのだった。

 数分もすると、ドアが弱々しくコンコンとノックされた。あずみちゃんが、あのジャニーズ系の若い店員と同じノリだったらどうしようと怖れていた萬次郎は、その弱々しいノックの音に少し安心した。
 ドアが静かに開いた。ドアの向こうには、まるで小動物を思わせるような小さな女の子が立っていた。
「畑中ですが・・・」
 女の子は、萬次郎の顔を恐る恐る伺いながら個室に入って来た。
 栗毛色に輝く髪はサラリと清潔そうで、真っ白に輝く小さな顔には、大きな瞳がキラリと光っていた。
 その店のユニホームらしき真っ赤なタイトスカートから細い足が二本伸びている。ワイシャツの胸元はあまり期待できそうにない微かな膨らみだったが、しかし、そこがまた逆に清潔そうで良かった。
 萬次郎は、そんなあずみを放心状態で見つめながら、(めちゃくちゃ美少女・・・)と、心の中で呟いたのだった。
「どちら様でしょうか?」
 あずみは、そんな萬次郎にさっそく不審感を抱いたらしく、個室に入ろうとしていた足を静かに元に戻すと、廊下からそう聞いて来た。
 どちら様と尋ねられても困る。萬次郎は、ただ単に拾った手帳に書いてある名前の女の子に会いに来ただけなのだ。
「いや・・・あのぅ・・・」
 萬次郎がそう戸惑っていると、同時にあずみも戸惑い始めた。
 それはそうであろう、突然、正体不明の豚のような醜い男に名指しで尋ねてこられたら、大概の女の子なら怯えてしまうのが普通だ。
「・・・用がないなら・・・もういいですか・・・」
 あずみは、恐る恐るドアを閉めようとした。萬次郎は焦った。出来る事なら、もう少しだけでもこの美少女と同じ空間の空気を吸っていたい。
 そんな焦りから、萬次郎はふいに例の暗号を思い出した。

 半分閉まり掛かったドアに向かって、萬次郎は「アランドロン・・・」と弱々しく呟いた。
 ドアを閉めようとしていたあずみの顔が、一瞬ピクッと動揺した。ドアは半分閉まったままで止まり、その隙間から、あずみが「えっ?」と萬次郎の顔を見ている。
 そんなあずみの様子に、何かあるぞ・・・と、その暗号を怪しく思った萬次郎は、慌てて手帳を広げ、もう一度、「アランドロンと三船敏郎」と最後まで暗号をあずみに向かって言ってみた。
 その瞬間、あずみが「ふっ!」と意識を失うかのように首をカクンと落とした。それはまるで恐山のイタコに霊が取り憑いたかのような仕草だ。
 しばらく俯いた状態だったあずみは、ゆっくりと顔を上げ、個室の中の萬次郎を見た。そんなあずみは、まるでシンナーを吸っているかのように虚ろな目をしたまま、小さな体をフワフワと左右に揺らしながら、ヨロヨロとした足取りでいきなり個室に入って来た。

 そんなゾンビのようなあずみを見て、萬次郎はとたんにビビった。暗号を聞いただけで、とたんに別人に変わってしまったあずみが異常に不気味だったのだ。
 あずみは、ソファーに座っていた萬次郎の前にソッと膝を付いてしゃがんだ。
 そして萬次郎を見上げると、静かな口調で「どうすればいいの?」と聞いた。

 あずみの真っ白な顔の眉間には、なにやら苦悩的なシワが寄っていた。それはどこかが苦しそうでもあり、泣いているようにも見えた。
 萬次郎は、いきなりそんな事を言い出したあずみを見下ろしながら、なんだこいつは・・・と絶句してしまったのだった。

「どうすればいいのか・・・教えて?・・・」

 あずみは、まるでオシッコ我慢する少女のような表情で、もう一度そう聞いた。
 萬次郎は、『どうすればいい』という言葉はいったい何を意味するのだろうかと必死に考えた。
 混乱する頭の中で『どうすればいい』という言葉を呆然と呟いていると、いきなりあずみは下唇をギュッと噛みながら、恐る恐る萬次郎の膝の上に手を置いた。
 その時、あずみの小さく膨らんだ柔らかい胸が、意図的に萬次郎の膝にムニュっと押し当てられた。
 とたんに萬次郎はその感触に目眩をクラクラっと感じ理性を失いかける。

(えっ?・・・もしかして、ヤらしてくれるの?)

 普通ならば絶対に有り得ない事なのに、この、いきなりエッチな雰囲気に変身したあずみを見た瞬間、萬次郎は、(もしかしたら・・・)と思いながらも、しかし(まさかな・・・)と疑いながら、恐る恐る尋ねてみた。

「どうすればいいって・・・何でもしてくれるの?・・・」

 よからぬ妄想を抱き始め、とたんに肩でハァハァと臭い息を吐き始めた萬次郎は、更に膝を付き出しては彼女の胸にグイグイと膝を押し付けながら聞いた。
 あずみは黙ったまま顔をあげ、萬次郎の目をジッと見つめた。そんな彼女の目は、まるで催眠術をかけられているかのように、やたらとフワフワして虚ろだ。
 そんなあずみは、しばらく間を置いた後、ボンヤリした目で萬次郎の鼻の頭をフワフワ見つめながら小さくコクンと頷いたのだった。

(い、いったいこれはどーいう事なんだ?・・・どうしてあの暗号を言っただけでこーなるんだ?・・・もしかしてコレって新手の風俗詐欺?オッパイとか触ったと同時に怖いお兄さんが『毎度~』なんて出て来て、とんでもない金額請求されるとか?・・・・いや、それとも『どっきり』か?チンコ出した瞬間に、出っ歯のアツシなんかがロンハーのメンバーと共に『どーもー』なんて出て来るんじゃないのか?)

 萬次郎は、そんなバカな事をアレコレと考えながら、どこかに隠しカメラが仕掛けられているのではないかとテーブルの上に置いてあった花瓶の中などを探った。
 しかし、美少女の胸の膨らみを膝で感じながら、もう既に興奮してしまっている萬次郎は、例えコレがどっきりだろうと風俗詐欺だろうともうそんな事はどーでもいいと思いはじめた。

 そうなったらそうなった時だ、ならば、今ここでたっぷり触っておかないと損だよな、うん。などと、自分に言い聞かせる萬次郎は、そっと自分の膝を掻くフリをしながら、その手をジワジワとあずみの胸の膨らみに近づけて行ったのだった。

(つづく)

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