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113巨大地下駐車場サファリパーク

(解説)
変質者が潜む古いビルの巨大地下駐車場。
そんな危険な地下駐車場に忍び込んでは車内オナニーに耽る美人キャリアウーマンは完全に壊れていた。
「誰でもいいから私の恥ずかしい姿を見て!」
他人に見られるスリルに酔いしれる美人キャリアウーマンだったが、しかし彼女は残酷な現実を身を持って知らされる事になるのだった。



 今夜もまた、ココに来てしまった。
 コンクリートに囲まれた薄暗い駐車場には、蜘蛛の巣だらけの蛍光灯が剥き出しになって輝いていた。
 夜ともなると人の出入りはほとんどなく、残業の社員の車が隅っこに数台止まっているだけだった。
 そんな、とある商業ビルの地下巨大駐車場。
 優子は静まり返ったその駐車場に、今夜もまた来てしまったのだった。

 優子がその駐車場に初めて来たのは一週間前の事だった。

 大手ハウスメーカーに勤める優子は26才の独身。
 連日連夜の残業に追われながらも確実に仕事をこなし、今の本部マネージャーという地位を掴み取った、どこか篠原涼子を彷彿させる、そんなキラキラと輝く美人キャリアウーマンだった。

 そんな優子がいつものように残業を終えて帰ろうとすると、取引先から一本の電話が入った。
「今すぐに例の書類が必要なんです」
 取引先の若い部長は涙声でそう訴えた。
 優子は、相手に悟られぬよう小さく溜息をつくと、きっとこの人はあと数年でこの会社から消えるだろうな、と思いながら、その書類を届ける事にしたのだった。

 その会社は大きな商業ビルの十五階だった。
 ブラックサファイアのBMWを地下駐車場に滑り込ませる。
 タイヤをキュルキュルと軋ませながら深夜の地下駐車場をクネクネと下って行くと、たちまち貪よりとした不気味な空気が優子を車ごと包み込んだ。
 車を最もエレベーターに近い場所に止めた。
 ドアを開けて外に出ると、籠った排気ガスの匂いと、生温かい澱んだ空気が優子の鼻孔に不快感を与えた。
 車はものの見事に1台も止まっていなかった。
 シーンと静まり返った巨大駐車場に優子のBMWだけが黒く輝いていた。
 古いビルって気味が悪いわ。
 そう思いながら足早にエレベーターへと進む。
 静まり返った地下巨大駐車場に、優子のヒールの音だけが、まるで古いサスペンス映画のようにカツコツと響き渡っていた。
 エレベーターを降り、一階ホールに着くとロビーの隅に涙目の部長が直立不動で待っていた。
 優子から書類を受け取るなり、澱んだ瞳にジワッと涙を浮かべながら、本当に助かりました、と胃潰瘍系の臭い息を吐いた。
 そんな若い部長の病的な口臭を感じた優子は、きっとこの人はあと数ヶ月ね、と先程の予想を大幅に縮めたのだった。

 再びエレベーターに乗り、地下の駐車場へと向かう。
 すると、先程から我慢し続けていた尿意が突然激しくなった。
 やっぱり会社を出る前にしておくべきだったわ、と短い溜め息をつきながらエレベーターを降りると、通路の奥にトイレの看板がぶら下がっているのが見えた。
 どうしよう、と優子は足を止めた。
 できれば、こんな薄気味悪い場所で用を足したくはなかった。
 しかし、ここから自宅マンションまではどれだけ車を飛ばしても30分はかかる。
 途中、コンビニは何軒かあるが、しかし、トイレを借りる目的だけでコンビニに立ち寄るというのは、優子のプライドが許さなかった。

 結局、優子は、コンビニで借りるくらいならと、そのトイレを使用する事にした。
 そのトイレにも、やはり薄気味悪さは貪よりと漂っていた。
 早く済ませて一刻も早くここから立ち去ろうと、優子は急いで個室のドアを開けると、案の定、トイレは和式だった。

 だから古いビルはイヤなのよ、とブツブツ言いながらも素早くスカートの中に手を入れ、ストッキングとショーツを一気に下ろした。
 和式便器にしゃがんだ瞬間、猛烈な勢いで尿が噴き出した。
 和式便器に馴れていない優子は、蛍光灯に爛々と照らされる自分の陰毛とグロテスクな陰部、そして、まるで蛇口を全開にしたホースから噴き出たような下品な排尿をまともに目にし、おもわず泣き出しそうになるほどの嫌悪感を感じた。

 もうイヤ、とそこから目を背けると、ふと優子の目にとんでもない光景が飛び込んで来た。
 それは、明らかに人間の肌だった。
 前の個室の壁のわずか十センチほどの隙間から、なんと、アゴと鼻、そして床にべたりと張り付く左手が見えたのだ。

「ひっ!」と驚いた優子の排尿が一瞬にして停止した。
 いきなり排尿を止めた膣筋がヒクヒクと痙攣し、尿道口からタラタラと溢れる尿がワレメへと垂れ、それが肛門へと伝わりポタポタと音を立てながら便器へ落ちた。

 前の個室から覗いているのは明らかに男だった。
 その太い指と大きな鼻、そしてアゴにポツポツと広がる髭の剃り残しは男以外の何者でもなかった。
 優子は(ノゾキだ!)と焦りながらも、パニクる脳を必死に冷静にさせた。
 若くして大手企業の本部マネージャーになるほどの優子には、どんな危機に陥った時にでも冷静に対処できる『危機管理能力』があるのだ。

 そんな優子は、今ここでむやみに騒ぐのは危険だと感じた。こんな深夜の地下駐車場でどれだけ叫んでも、誰も気付いてはくれないからだ。
 確かに、大声で叫べばノゾキ魔は慌てて退散するだろうが、しかし、今、ここでノゾキ魔を逃がしてしまってはいけない。
 なぜなら、この男は盗撮している可能性が高いのだ。

 優子はそんな事を冷静に考えながら、なんとしても男が所持しているであろう盗撮カメラを押収しなければと、男に気付かれぬようにソッと胸ポケットに指を滑らせた。
 そしてそこから携帯電話を取り出すと、素早くプッシュ音を消去し、1、1、0、と押したのだった。

 しかし、優子の『危機管理能力』もそこまでだった。
 なんと、ビルがあまりにも古いせいか、このビルの地下駐車場には携帯の電波が届いていないのである。
 そんな優子の優れた危機管理能力は、あくまでも現代社会においての『危機管理』でしかなく、この老朽化した古いビルにおいては何の役にも立たなかったのだ。

 どうしよう……と、予想外の顛末に頭を混乱させていると、ふいに「シュッ!」と卑猥な音を立てながら尿が噴き出した。
(イヤ! 出ないで!)
 そう必死に堪えるが、しかし破裂しそうな膀胱は優子の意志に反して大量の尿を放出した。
 便器にビシャビシャと飛び散る尿を見つめながら、これを隣りのノゾキ魔も見ているのかと思うと、優子は恥ずかしさのあまり激しく下唇を噛み締めた。
 羞恥に耐えられなくなった優子は、盗撮された事は諦めるとしても、取りあえずこの男を今すぐココから追い出すべきだと考え、大きな声で叫ぼうとした。
 が、しかし、またしても神経質な危機管理能力が横ヤリを入れて来た。
(下手に騒ぐと襲われる危険性がある)
 そんな言葉がふいに頭に浮かんだ優子は、それをリアルに想像しブルっと身震いしたのだった。

 結局、声は出せなかった。
 優子は成す術もなく、無抵抗なうちに排尿を覗かれるしかなかった。
 やっと排尿が止まると、優子は素早く手に持っていたトイレットペーパーを陰部に押しあてた。
 ここは、あくまでも覗かれている事を知らないフリしておくべきだった。このまま何もなかったかのように素早く立ち去るのが一番安全なのだ。
 そう思った優子は、相手に怪しまれぬよういつも通りに残尿を拭き取る。
 股間の奥でカサカサカサっと乾いた音を立てていると、隙間から見える男の様子に変化が現れた。
 それまでジッと潜んでいた男の身体がユサユサと揺れだし、その十センチに満たない隙間からハァハァという荒い息が洩れ始めたのだ。
(この人……いやらしい事してる……)
 そう感づいた優子は、恐怖を感じると共に、奇妙な感覚が胸の奥底で重くジンワリと広がっていったのだった。

 最近の優子は酷く疲れていた。
 大きなプロジェクトを3つも同時に抱えていた優子は、平均睡眠時間がわすが3時間しかなかった。
 当然、大好きなエステに行く時間もなく、同僚達と酒を酌み交わす時間もなく、疲れとストレスは日に日に溜っていく一方だった。
 そんなハードな毎日を送っていた優子には彼氏はいなかった。
 入社当時に付き合っていた彼氏は、出世と引き換えにスッパリと縁を切った。それから4年間、優子には性欲というものが全く消え失せてしまっていた。
 そんな優子の中に、今、あの時の『奇妙な感覚』が再び甦って来た。
 その『奇妙な感覚』とは、今から4年前、当時付き合っていた彼と新宿の映画館に行った時に初めて感じた。
 客席がガラガラの映画館。その一番奥の席で、彼は突然優子のスカートの中に手を忍び込ませて来たのだ。
 こんなところでヤダ、と抵抗する優子に、彼は、誰も見てないよ、と囁きながら優子の陰部を執拗に弄った。
 今までとは全く違う空間で愛撫され、優子は自分でも驚くほどに感じた。
 気が付くと自らの意思で彼の陰茎に舌を伸ばしていた。
 口内でヒクヒクと痙攣する陰茎に目眩を感じる程に興奮しながらも、いつ誰に見られるかも知れないというスリルが、若い優子の精神を異様に刺激したのだった。

 その時に感じた、そんな『奇妙な感覚』が、今、和式便器にしゃがむ優子の精神に甦って来た。
 それは、溜まりに溜ったストレスが引き起こした、異様な高揚状態だった。
 陰部に擦り付けていたトイレットペーパーが、優子の敏感な部分を刺激した。
 おもわず熱い息を吐きそうになり、慌てて喉元でグッと止めた。

 男はカクカクカクっとリズミカルな音を立てながら身体を小刻みに揺らしていた。
 優子の脳裏に、男性器からピュッと飛び出す射精シーンがリアルに浮かぶ。
 背筋をゾクッとさせた優子は、おもわずトイレットペーパーをグッと陰部に押し付けた。
 そんなトイレットペーパーをゆっくりと陰部から離すと、クシャクシャになった表面にニュッと透明の糸が引いていた。
 そんな優子は、もはや壊れていた。
 排尿シーンを覗かれるという破廉恥行為を受けながらも、しかしそれを貪欲に受け入れようとしている自分は壊れてしまっている、と優子は自分でもそう自覚していた。

 優子は、このノゾキ男に見られながら、陰部に指を入れてみたい欲望に襲われた。
 それは非常に危険だ、と、危機管理能力が激しく警告を鳴らすが、しかし壊れてしまった自分を止める事はできなかった。

 いやらしい汁が糸を引くトイレットペーパーを、便器の中へパサッと落とした。
 そして、その十センチに満たない隙間に向かって性器を剥き出しながら、ゆっくりと陰毛の中に指を滑り込ませた。
 と、その時、事態は急変した。
 いきなり隣りの個室が慌ただしくなり、ガサゴソという音と共にジャバーっと便器の水を流す音が聞こえたのだ。
 男はギィっと静かに個室のドアを開けると、そのまま靴音を忍ばせながらトイレを出て行った。
 それらの音を、便器にしゃがんだまま聞いていた優子はハッと我に返った。
 何をやってるのよ、と、キャリアウーマンの優子が壊れた優子を叱責した。
 優子は慌てて便器を立ち上がると、急いでショーツとストッキングを上げた。
 陰部に食い込むショーツがネチャっと濡れたのがわかった。
 そのショーツの冷たさに、優子は強烈な屈辱感を感じたのだった。

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 相変わらず仕事は忙しく、ゆっくりと食事もできないほどに、いつも携帯電話に口を塞がれていた。
 しかし、どれだけ仕事が忙しくとも、あの時のゾクっとした奇妙な感覚を忘れる事ができず、常に優子の頭の中にはスッキリとしないモヤモヤが渦巻いていた。

 そんなモヤモヤは次第にイライラに変わって来た。
 これではマズいと思った優子は、そのイライラを自己解消しようと、少ない睡眠時間を割いてマスターベーションを試みた。
 ベッドの中に踞りショーツの上から陰部を弄った。固くなったクリトリスを指で転がし、荒い息をウンウンと吐く。
 優子は4年前に見たっきりの元彼の陰茎を想像した。
 元彼の逞しい陰茎が、優子の股の中で激しく上下に動く。
 そんな卑猥な動作を想像しながら、淡々とクリトリスを転がしていると不意にカッと気が上昇して来た。
 ベッドの下から電動マッサージを素早く手に取り、それをグジョグジョに濡れた膣に押し当てる。
「イク……」
 熱気に包まれた羽毛布団の中で、わざといやらしく声を出してみた。
 その声に連動するかのように、とたんに強烈な快感が全身を走りぬけた。
 無意識に身体が仰け反り、両足がピーンッと引き攣る。
 股間の電動マッサージが、まるで沼地を駆け抜けるようなびちゃびちゃという音を響かせた。
 そんな卑猥な音を聞きながら、おもわず「あぁぁ!」と叫び、慌てて枕の角に噛みついた。
 気がつくと、ショーツから滲み出た汁は、ベッドのシーツにまで丸いシミを作っていたのだった。

 そんなマスターベーションをした後には、必ず強烈な嫌悪感に包まれた。
 しかも、悪戯に体を火照らせたせいか、興奮状態がなかなか覚めやらず、眠れなくなった。
 結果、マスターベーションをするようになってからというもの、そのイライラは以前よりも激しく募り、まして、極度の不眠症に陥ってしまったのだった。
 優子の肉体と精神は悲鳴をあげていた。
 マスターベーションが悪循環だと知った今、この異様な欲求不満を解消できるのは生身の男しかいないと気付いたが、しかし、あまりにも仕事が忙しい為に、男を作る暇などない。
 こんな時、男ならばソープやデリヘルといった簡易な捌け口があるが、しかし女にはないのだ。

 そんな不安定な状態のまま、今日もいつものように残業に追われていた。
 時計は午前2時を指していた。
 静まり返ったオフィスには優子一人しか残っておらず、優子のデスクのパソコンだけが淋しくぼんやり輝いていた。
 もうこんな時間……
 優子は作成途中の企画書を見つめながら大きな溜息を付いた。
 明日も早い。
 明日は朝一番に大手のクライアントとの打ち合わせがあるのだ。
 パソコンを落とし、作成途中の企画書をバッグに押し込むと、優子はゆっくりと立ち上がった。
 疲れと不眠とストレスで意識を朦朧とさせながらエレベーターホールにゆっくり進んだ。
 エレベーターを待つ間、窓に映る東京の夜景を見ていると、不意にこのまま窓から飛び降りてしまいたいという衝動に駆られた。

 駐車場に出ると、ブラックサファイアのBMWだけがポツンと淋しそうに水銀灯に照らされていた。
 運転席のドアを開け、皮のシートに身を沈めながらキーを回した。
 BMW独特のエンジン音が響き、優子は再び溜息をつきながらハンドルを握った。
 すると突然、そもそも私が壊れてしまった原因は、あの古びたビルの地下駐車場に行ったからだ、という激しい怒りがムラムラと湧いて出て来た。
 あの時、あの会社の役立たずな部長に同情したのがそもそもの間違いだったんだ!
 そう思いながらおもいきりアクセルを踏んだ。
 ゴキブリのように輝くBMWが急発進すると同時に、優子は「ちきしょう!」とヒステリックに叫んだ。
 BMWは大通りに飛び出すとマンションとは逆方向へ突進した。
 点滅信号をノーブレーキで右折し、高層ビルが立ち並ぶ細い裏道を猛スピードで走り抜けた。
 そんなブラックサファイアのBMWが向かう先は、もちろん、あの忌々しい古いビルの地下駐車場だった。

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 エンジンを止めると、いきなりシーンと静まり返った。
 地下駐車場は相変わらず不気味な雰囲気を漂わせ、ここで二十年前にバラバラ殺人事件があったんだよと誰かに言われても、素直に納得できるようなそんな霊気漂う気味の悪さだった。

 勢いだけでココに来てしまった優子は、静まり返った駐車場をソッと見回しながら、この駐車場のどこかにあの時のノゾキ魔が潜んでいるかも知れないと想像し、おもわず背筋をブルッと震わせた。

 そんな優子に車を降りる勇気はなかった。
 ここに来るまでの間は、もう一度あのトイレであの男に覗かれながらオナニーをしたい、という異常な興奮に駆られていたが、しかし実際に現場に到着してみると、足が竦んで動かなかった。

 優子は何度も何度もドアロックを確認した後、座席のシートを少しだけ倒した。
 目の前にある、革張りの天井のポツポツと無数に開いた穴が、妙に気分を落ち着かせてくれた。
 そんな天井のポツポツを見つめながら、優子はボンヤリとノゾキ男をプロファイリングしてみた。

 そもそも、なぜあの男は、あの時、あのトイレにいたのか?
 確かに、あのトイレは男女共同である為、それが全くの偶然という事も考えられるが、しかし、時間は深夜だ。
 深夜、こんな地下の駐車場のトイレを使用するのは、駐車場に車を止めている者としか考えられない。
 しかし、あの時駐車場に止まっていたのは優子のBMWだけだった。この巨大に広い駐車場に、ポツンとBMWだけが止まっていたのを優子はハッキリと覚えているのだ。
 では、いったい誰なのか?
 何の為にあの男はわざわざこんなトイレに来たのだろう。

 そう考えている優子の脳裏に、ふとホームレスという言葉が浮かび、優子は慌てて再度ドアロックを確認した。
 確かに、この巨大駐車場にホームレスが侵入し、トイレを寝ぐらにしていたとも考えられる。
 このビルのすぐ裏には大きな公園があり、そこには大勢のホームレス達がいつもウロウロしている事から、彼らが寒さを凌ぐ為にこの駐車場のトイレに侵入したとしても何ら不思議ではないのだ。

 しかし、優子は、すぐに「待てよ……」と首を傾げた。
 というのは、あの時、あの十センチたらずの隙間から見えていた『手』が不意に頭に浮かんだからだ。
 あの『手』は、ホームレスの『手』ではなかった。
 ホームレスの手と言えば、汚れが酷く、ガサガサとして、肉体労働者のようにゴツゴツとしたイメージがあるが、しかしあの時に見た『手』は、シワが少なく妙にこざっぱりとしており、その指も、まるで労働をした事がないような、そんな弱々しい細い指だった。
 そして何よりも決定的なのは指の爪だ。
 その弱々しい指先の爪は、異様なほどに綺麗に削られており、あれは間違いなく爪切りの裏のヤスリでじっくりと時間を掛けて丁寧に削った後なのだ。
 そんな几帳面なホームレスがいるわけがない。
 となると、あの男はいったい誰なんだ。
 あの時間帯、こんな場所にわざわざ徒歩でやってくる人物というのは、いったい誰なんだろう。

 そう考えながらBMWの天井をジッと見つめていると、不意に優子の視界で一瞬何かが動いた。
 いきなり優子の心臓がバクっ!と鼓動し、とたんに優子の身体は恐怖で固まった。
(な、なに?……)
 優子は身体を硬直させながらも、その一瞬動いた物を必死に探し出そうと、目玉をギョロギョロと動かした。

 すると再び何かが動いた。
 優子は「はっ!」とその動いた方へ顔を向けた。
 それはドアミラーだった。
 何者かがBMWの後に潜んでいるらしく、それをドアミラーが映し出していたのだ。

 叫び出したいほどの恐怖が襲った。
 直ぐにエンジンを掛け、ここから脱出しなければと焦るが、しかしあまりの恐怖の為に右手がキーまで動かない。
 半分倒したシートの上で、ただひたすらにガクガクと震える優子は、目玉を動かす事が精一杯だったのだ。

 再びドアミラーに映る何者かが動いた。
 そいつは、低く腰を屈めながらジワリジワリと確実に運転席に近付いて来ていた。
 そしていきなりヤモリのようにして後部ドアにビタリと張り付くと、車内をソッと覗き込みながら、少しずつ少しずつ進んで来た。
 優子は息を殺しながら、ドアミラーを見つめた。
 そいつは青い作業着のような物を着た男だった。
 中途半端に伸ばした髪はボサボサで、そのボテッと病的に垂れた二重アゴとボサボサの髪が異常者を連想させた。
 優子は恐怖のどん底に叩き落とされながらも、必死にドアミラーに映る男をプロファイリングした。
 年齢は三十才前後、運動不足、所持金2000円前後、職業は……職業は……
 と、その時、運転席のドアに男の手がスッと現れた。
 間近でその『手』を見た優子は、その綺麗に整った爪を見て、咄嗟に(あいつだ!)と叫んだ。
 ドアミラーに映る男の肩に、鷲のエンブレムが刺繍されたワッペンが張り付いていた。
 それは、この辺り一帯のビルを管理している、警備会社の制服だった。

>>後編へ続く>>

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