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八月の懺悔1

2012/03/30 Fri 13:01

   八月1




—1—

「おい、奥田」
 不意に背後から声を掛けられた奥田は、第二取調室のドアノブを握ったまま振り返った。
 先輩の吉村がニヤニヤと笑いながらやって来た。吉村は奥田の肩にソッと腕を伸ばすと、タバコ臭い息で奥田の耳元に囁いた。
「あの変態野郎、今日もダンマリ通すんだったらよ、コレ使っちゃえ」
 吉村はそう言いながら奥田の手に小さな包みを握らせた。その包みの中には白い粉末が透けて見えた。
「これは?……」
 新米刑事の奥田は、その白い粉がいったい何を意味するのかさっぱりわからない。吉村は、再び怪しい笑みを浮かべながら声を潜めた。
「自白剤だよ」
「…………」
「あの変態野郎の勾留期限、迫ってんだろ。コレ使ってサッサと自白させちゃえよ」
 吉村はそう言いながら悪魔のような目をしてニヤリと笑ったのだった。

 さっそく奥田は給湯室へ走ると、インスタントコーヒーの中に自白剤を混入させた。そのコーヒーを取調室に持って行き、「俺からの差し入れだ」と微笑みながら容疑者の前にソッと置いた。
 ノゾキの常習犯である柴ノ川は、久しぶりのコーヒーの香りに満面の笑みを浮かべると、何の疑いもなくそれをズルズルと啜った。
 柴ノ川がコーヒーを飲み終えて30分後。段々と自白剤の効果が現れて来た。
 椅子に座る柴ノ川の体が左右にユラユラと揺れ始め、その目は泥酔者のようにだらしなく垂れ下がっては貪よりと赤く充血していた。
「……なんか……急に眠くなって来ました……」
 柴ノ川はそう言いながらぐったりと机に顔をうつ伏せる。
 そんな柴ノ川を見ながら、奥田は吉村の言葉を思い出していた。

(ヤツが眠そうにぐったりしたら、一気に攻めろ)

 奥田は柴ノ川がうつ伏せている机をおもいきり殴った。
「ドン!」という激しい音に、柴ノ川は慌てて「ひっ!」と顔を上げる。
「二十八日の午前二時頃、おまえは新富町のコンビニにいたよな?」
「……い、いや……それは……」
「どっちなんだ! いたのかいないのか!」
「あ、はい……いました……」
 この15日間、死んでも供述するもんかと口をへの字に曲げていたあの柴ノ川が、まるで別人のようにいとも簡単に自白した。
「その後、午前二時半頃、どこに行った」
「……そ、それは……色々と……」
「色々とじゃわからん! おまえはその後、コンビニにいた客を尾行し、その客の自宅マンションに行ったはずだ!」
「あ、はい……そうです……」
「その客は誰だ!」
「じょ、女子大生の……女の子……」
 奥田は立会いの刑事に目配せすると、柴ノ川の自白を調書に書かせた。
 大声の出し過ぎで喉が痛くなった奥田は、「……で、女子大生を尾行した理由はなんだ?」と、怒鳴るのをやめ、穏便にそう聞いた。するとたちまち柴ノ川の態度が急変し、それ以降は「わかりません」の一点張りとなった。
 そんな柴ノ川を見て、奥田は再び吉村の言葉を思い出した。

(気を抜くなよ。自白を始めたら徹底的にイビリまくるんだ)

 すかさず奥田は柴ノ川の胸ぐらを掴んだ。そして薄い髪の毛を鷲掴みにしながら「理由は何だと聞いてんだよ!」と怒声で捲し立てた。
「あわ、あわ」と狼狽える柴ノ川は、緩んだ唇からタラーっとヨダレを垂らしながら、「ノゾキです……」と虚ろな目をユラユラさせながら答えた。
 掴んでいた胸ぐらを乱暴に放した奥田は、今度は柴ノ川の襟首を掴んだ。そして柴ノ川の首をグイグイと締め付けながら、
「被害者の部屋は二階だったろ! おまえはどうやって被害者の部屋のベランダに上ったんだ!」
 と、柴ノ川の耳元で怒鳴った。
「ロ、ロープを使って上りました……」
「そのロープはどこにある!」
「マンションの駐車場の花壇の中に捨てました……」
 遂に柴ノ川は、犯人しか知り得ない事実を話し始めたのだった。

 自白剤を使用した取調べは大成功だった。勾留期限を目前にしながら黙秘を続ける柴ノ川に対し、かなり焦りを感じていた課長は、見事に柴ノ川を自白に追い込んだ奥田を褒めて褒めて褒めちぎった。
 これに味をしめた奥田は、否認事件には必ず自白剤を使用する事にした。それによって今まで低迷していた奥田の成績は、驚く程にグングンと上がっていったのだった。

 自白剤のおかげで仕事は順調だったが、しかし奥田はプライベートで大きな悩みを抱えていた。
 それは妻の恵子に対する不信感だった。

 妻恵子は、奥田よりも二つ年下の28才だった。見合い結婚が当たり前になっている警察社会において、奥田と恵子は珍しくも恋愛結婚だった。
 3年前、2人は偶然にもカラオケボックスで知り合った。当時、保母さんをしていた恵子は、見た目も性格も大人しく、まさに『清純』を絵に描いたようなお淑やかな女性だった。
 そんな真面目な恵子を見て、警察官の妻にはぴったりだと思った奥田は、「もうこの人しかいない」と心に決め、連日激しいプロポーズを繰り広げた。
 そしてその2ヶ月後、恵子は奥田のプロポーズを受け入れ、スピード結婚となったのだった。

 恵子と結婚して3年。結婚した直後に出来た子供は今年で3歳になった。刑事の安月給では家族3人が暮らして行くのに精一杯だったが、しかし2人はそれなりに幸せな夫婦生活を送っていた。
 しかしある時、奥田はある詐欺事件を捜査中、古い資料の中から恵子の名前を発見した。その事件とは、今から4年前に起きた小さな恐喝未遂事件だった……。

 4年前、武田英治は、市ヶ谷の交差点でタクシーと小さな接触事故を起こした。その事故は、信号無視をした武田が明らかに悪いのだが、しかし相手のタクシー運転手は会社に接触事故を知られるのを嫌がり、武田を訴える事もなくそのまま事故を揉み消してしまった。
 しかし武田は、そんなタクシー運転手の弱みに付け込んだ。事故のあった2日後、駅前の喫茶店にタクシー運転手を呼び出した武田は、
「車の修理費50万と同乗者の治療費30万を払え。おまえが払わないと言うなら会社に乗込むぞ」
 と凄み、暗に自分の背後には暴力団がいるような素振りを見せつけながら80万円を要求したのだった。
 しかしタクシー運転手は、すぐさま警察に訴え、その2日後、武田は恐喝未遂の容疑で逮捕された。
 その時、接触事故を起こした武田の車の助手席に乗っていた『同乗者』というのが、なんと奥田の妻、恵子だった。
 当然、この事件では恵子も共犯者という疑いを持たれた。幸い逮捕までには至らなかったものの、恵子は警察から呼出しをされ連日厳しい取調べを受けている。
 そんな恵子の当時の調書を、暗い資料倉庫の隅で体を震わせながら読んでいた奥田は、「なぜだ……」という言葉を何度も何度も繰り返した。
 結局、その事件で恵子は武田の共犯者とはされなかったが、しかし、その古い調書には、恵子の事が『武田の情婦』として記されており、それまで自分が恵子の初めての男だと思っていた奥田は、絶望の淵に叩き落とされたのであった。


—2—


「ただいま……」
 古い捜査資料から、愛する妻の思わぬ過去を知ってしまった奥田の足取りは重かった。あの埃臭い資料室で受けた絶望感をそのまま自宅にまで引きずって来た奥田は、「おかえりなさい」と笑顔で出迎えた恵子に、素直に笑顔を返す事ができなかった。
「どうしたの?……」
 落ち込んだ奥田の顔を恵子の大きな瞳が覗き込んだ。そんな恵子の髪から甘いリンスの香りが漂ってきた。
「仕事で何かあったの?」
 そう心配する恵子の、まるで桜貝のように幼気な唇が奥田の目に飛び込んで来た。

(この唇で……武田のモノをしゃぶったのだろうか……)

 そう思いながら、黙ったまま恵子のその唇を見つめていると、不意に恵子の表情から笑顔がサッと消え、その表情に陰を作った。
 今までにも奥田は、恵子の表情を曇らせるその『陰』を何度か目にした事があった。
 恵子の表情にその陰が現れるのは、主にセックスの最中であり、奥田がベッドの上で卑猥な行為を要求すると、いつも恵子の表情にはその陰が重く浮かんでいた。
 そんな恵子の陰のある表情というのは、まるでお通夜の席で若い後家が見せるような異様に暗い表情だった。
 だから奥田はそんな恵子の陰を見る度に、「その暗い顔、取調室の容疑者みたいだからやめろよ」と笑っていたのだが、しかし今は笑えなかった。
 それは、恵子の過去を知ってしまった今、同時にその陰の原因がわかったからだ。そう、その陰こそが、恵子の知られたくない過去であり、未だ恵子の記憶から消え失せぬ武田の呪縛なのだ。
 そんな恵子は、刑事である夫に、武田との過去をいつ知られるかと脅えていたのである。
 奥田はいつものようにリビングのソファーに腰を下ろすと不機嫌な溜息をついた。そんな奥田の雰囲気を察したのか、恵子は未だその表情に陰を残したまま、奥田が床に脱ぎ捨てたスーツの上着や靴下をそそくさと拾い集めていた。
 恵子はスーツの上着をハンガーに掛けながら、チラチラと奥田の様子を伺っていた。そして脅える声で「さっきダウンタウンやってたから、録画しておいたよ」と、仏頂面で新聞を読んでいる奥田にソッと話し掛けた。
 奥田はそんな恵子が急にいじらしく思えた。
 確かに、武田と言うチンピラとの過去は許し難いが、しかしそれは消そうとしても消えない過去である。それを今更掘り返してみても仕方がない事なのだ。
 しかし、頭ではそうわかっていても、常に奥田の心の奥底では怒りと嫉妬と悲しみが魑魅魍魎と渦巻き、それが巨大な塊となって絶望感を作り上げていた。
 奥田は恵子を心の底から愛している。愛しているからこそ、その絶望感も計り知れない大きなものとなって奥田を苦しめるのである。

(……相手が普通のサラリーマンだったら良かったんだ……)

 メラメラと怒りを覚える奥田は、全く頭に入らない新聞の活字をジッと見つめながら、前科者リストに載っていた武田の写真を思い出した。
 額が異様に狭く、頬骨がゴツゴツと張り、そしてその眼光はカミソリのように鋭い。それはいつも奥田が取調室で見ている、典型的な犯罪者の面だった。
 前科四犯。覚醒剤、恐喝、傷害、婦女暴行。背中に中途半端な筋彫りを入れてはいるが、しかし極道ではない。あいつは、カタギにもなれずヤクザにもなれない、ただの街のゴロツキなのだ。
 そんなゴロツキと俺の妻が……
 そう考えると再び激しい絶望感に襲われた。

「ねぇ……」
 不意に恵子がそう囁きながら、ソファーに座る奥田の足下にソッと腰を下ろした。
「今日ね、スーパーに行く途中、床屋の前にパトカーが止まってたの。そしたら美佐子がね、そのパトカーを指差して『パパ、パパ』って言ったのよ」
 恵子は大きな目をキラキラと輝かせながら奥田を見つめ、首を斜めに傾けては「うふふっ」と微笑んだ。
 その時の恵子の表情に、例の『陰』は消えていた。今年3歳になる娘の美佐子の話しになると、さすがにあの陰も身を潜めるらしい。
 そんな恵子を一瞥しながらも、「ふぅん……」と気のない返事をした。
 しかしそんな奥田も一人娘は目に入れても痛くないくらいに可愛く、本来ならば「そうか! パトカーを見てパパと言ったか!」と阿呆のように喜ぶ所なのだが、しかし今の奥田はそんな気分になれなかった。
 そんな奥田の憂鬱な気分を和らげようとしているのか、恵子は娘の話しをアレコレと続けた。
 お風呂で溺れそうになった話しや、スーパーでレモンを握りしめたまま離さなかった話し、そして電話のベルが鳴る度に「パパ?」と聞いて来る事など、恵子は今日あった娘の出来事を一人黙々と語り続けている。
 そんな恵子の話しを上の空で聞きながら、奥田はふとタイトスカートから伸びる恵子の細い脚に目をやった。

(この脚を武田は……)

 不意にゴロツキの武田が、恵子のその細い脚を撫でるシーンが頭に浮かんだ。恵子は武田に脚を撫でられながら「やだぁん」と甘く囁き、そして武田を挑発するかのように、武田の前でその両足をゆっくりと開いてはニヤニヤといやらしく微笑む。

(くそっ……)

 頭に浮かんだそんな妄想を、奥田はイライラしながら掻き消した。
 そんな奥田を見て、一瞬恵子の表情に陰が浮かんだ。しかし、恵子はそんな陰をすぐに払い除け、再び娘の話しを続ける。
「今日ね、私がキッチンにいたらね、リビングでテレビを見てた美佐子がトコトコとやって来てね、いきなり『抱っこして』って言うの。私が、『どうしたの?』って聞きながら抱っこしてあげたらね、そしたら美佐子、抱っこされたままスヤスヤと眠っちゃったのよ」
 恵子は胸の中に美佐子を抱っこするポーズを取ると、娘が可愛くて仕方がないといった表情を見せながら「くすっ」と微笑んだ。
 そんな仕草をする恵子のサマーセーターの胸の膨らみが、奥田の淀んだ目に飛び込んで来た。

(武田は……恵子のこの胸を……)

 再び激しい嫉妬が奥田を襲った。
 恵子の釣り鐘型のおっぱいを武田が鷲掴みし、そして蛇のような舌でヌラヌラと舐めるシーンが奥田の脳裏に広がった。
 ムカッ! という怒りと、ムラッ! という興奮が、奥田の胸の中で同時に爆発した。
「それでね、美佐子ったら吉松さんの奥さんの事を『おばあちゃん』なんて呼ぶもんだから――」
 そう微笑みながら話し続ける恵子の細い腕をいきなり掴んだ。そして「来い」と言いながらソファーから立ち上がると、恵子が「どうしたの?」と不安そうに呟き、慌てて掴まれていた腕を振り解いた。
「……いいから来い……」
 再び奥田は恵子の腕を掴もうとした。恵子は瞬間的にそれを避けながら「どこに行くの?」と脅えながら奥田を見上げる。そんな恵子の表情には、いつもの陰が貪よりと浮かんでいた。
「来ないならいい……ここでヤってやる……」
 奥田はそう呟きながらズボンのベルトをカチカチと外し始めた。
「ねぇ、あなた、今夜は少し変よ……なにかあったの?……」
 恵子は顔を引き攣らせながら後退りした。
 恵子と言う女はセックスに対しては異様に消極的だった。今まで後背位すら拒み、もちろんフェラやクンニなどもっての他で、ある時、奥田が嫌がる恵子の陰部を無理矢理に舐めた事があったが、その時も恵子はグスングスンと泣いてばかりいた。
 そんな恵子を、今まで奥田は素直に『可愛い』と思っていた。今まで真面目な保母さんとして生きて来た恵子にとって、フェラもクンニも不潔な行為にしか過ぎず、それらは快楽行為ではなく拷問なのだろうと思っていた。
 が、しかし、今の奥田の見方は違った。
 恵子という女は、つい3年前までゴロツキの情婦だったのだ。しかもそのゴロツキは、覚醒剤や婦女暴行の前科を持つ凶悪犯で、そんな男の情婦だった女が何を今更、と、恵子への見方が変わってしまったのだ。
 そんな恵子を冷酷に見下ろす奥田は、ズボンの中から捻り出した陰茎を恵子の顔に突き出した。
「ほら……しゃぶれ……」
 そんな奥田を見上げながら、大きな瞳から涙をポロポロと流す恵子は「どうして……」と声を震わせた。
「どうしても糞もない。しゃぶって欲しいから、しゃぶれって言ってんだよ……」
 そう言いながら恵子の顔に陰茎を近づける奥田は、その心の中では、(武田のチンポもしゃぶりまくったんだろ)と、激しい嫉妬に駆られていた。
「いや!」
 恵子が顔を背けた。
「イヤじゃねぇ、しゃぶるんだ!」
 奥田は、(武田のはしゃぶれて俺のはしゃぶれねぇのか!)と心の中で叫びつつ、恵子の柔らかい髪を掴んでは顔を上に向かせた。
「いやよ……お願い、やめて……」
 そう泣きじゃくる恵子の唇に、勃起した陰茎を擦り付けた。そして恵子の柔らかな頬を鷲掴みにしては強引に口を開かせると、その真っ白な前歯に真っ赤な亀頭を押し付けた。
「ほら、口を開けろって……口の中いっぱいに俺のチンポを含むんだよ……」
 恵子の噛み締めた前歯を、人差し指で無理矢理こじ開けると、その隙間に亀頭をグイグイと押し込んだ。
 諦めた恵子が泣きながら口を開く。恵子の生温かい息と唾液が亀頭にまとわりつく。
 奥田は恵子の小さな頭部を両手で固定しながら腰を動かし、そして「舌を使え……優しくペロペロと舐めるんだ……」と呟いた。
 ポロポロと涙を垂らす恵子の口元から、ぺちゃ、ぴちゃ、という音が漏れ始めた。
 奥田はそんな恵子を見下ろしながら、(そうだ……そうやって武田の時のように舌を使うんだ……)と心で呟き、そして恵子の口の中に熱いドロドロの精液を大量に放出したのだった。



—3—


 それから2日後。逮捕監禁及び婦女暴行、脅迫及び恐喝未遂、覚醒剤取締法違反のいずれの罪により武田が逮捕された。
 何の因果か、武田の取調べは奥田が担当する事に決まった。
 取調室に連行されて来た武田は、思った以上に太々しい野郎だった。警察馴れしているらしく、取調官が若い刑事だと見ると、「ふん」と鼻で笑いながらパイプ椅子にふんぞり返り、いきなり奥田に向かって「なんだよ新米かよ」とせせら笑った。
 奥田はこの武田に対しては、事件とは関係なくプライベートな理由で激しい恨みがある。だから、この男だけはどんな卑劣な手を使ってでも目一杯の懲役を喰らわしてやる、という意気込みが合った。
 そんな奥田の激しい意志が武田に伝わったのか、武田は慌てて奥田から目を反らすと、「ふぁぁぁ」と大きなアクビをしながら背伸びをし、その焦りを必死に誤魔化したのだった。

 そんな武田が起こした事件は、目を背けたくなるほどに悲惨な事件だった。
 被害者の池田優子(30才)はどこにでもいる普通の主婦だった。武田は言葉巧みに被害者に近付き5万円で援交を持ち掛けた。
 というのは、武田はこの主婦がサラ金の返済に追われ困っていた事を知っていた。武田はサラ金会社の社員から、事前にこの被害者の個人情報を5千円で買っていたのだ。
 サラ金の激しい取り立てに連日追い込まれていた被害者は、武田の提示した5万円という金額に迷う事なく飛び付いた。
 武田は被害者を国道沿いのモーテルに連れ込んだ。武田は被害者をロープで縛り、卑猥なSM行為に及んだ。その際、縛られて抵抗できない被害者の腕に覚醒剤を注入した。
 被害者は初めて覚醒剤を打たれた事で意識が朦朧とし、たちまち昏睡状態に陥った。しかし武田はそんな被害者を介護する事なく、そのまま被害者に卑猥な行為を繰り返し、そしてその一部始終をビデオカメラで撮影した。
 そのまま被害者は、3日間、国道沿いのモーテルに監禁された。その間、幾度となく覚醒剤を打たれ、そして武田以外の2人の男達から陵辱された。武田はその2人の男から数万円の金を受け取っていた。
 3日後、武田は被害者を連れて被害者宅へ行った。そして対応に出た被害者の夫に対し、『このビデオをネットでバラ捲かれたくなかったら百万円用意しろ』と脅し、金員を要求したが、夫が警察に通報した為、そのまま逃亡したのだった。

 奥田は、そんな鬼畜な武田を静かに見据えながら、不意に「こいつは恵子にも覚醒剤を打っていたのだろうか」という不安に駆られた。
 覚醒剤を打たれ、朦朧とする意識の中で数人の男達に輪姦される被害者と恵子が、奥田の頭の中で卑猥に混合した。
 そんな激しい怒りに駆られながらも、奥田はふんぞり返る武田に煙草を差し向けながら、「吸うか?」と無理に微笑んだ。
 武田は、そんな奥田の穏便な態度に一瞬戸惑いながらも、「吸ってやってもいいが……そうそう簡単に罪は認めねぇぞ」と悪ぶり、恐る恐る奥田の差し出す煙草に指を伸ばしたのだった。
 それからというもの奥田は、武田が取調室に来る度に、饅頭やチョコレート、ガムやアメ玉などを与えた。
 これは奥田の作戦だった。警察に対し反抗的な態度を示す武田が、いきなり取調官が差し出すコーヒーを飲むわけがないと睨んだ奥田は、武田の警戒心を解く為に、こうして毎日少しずつ武田に餌を与えたのだ。
 そう、これはいわゆる『餌付け』であり、武田が何の疑いもなく自白剤入りのコーヒーを飲むように仕向けた作戦なのであった。
 そうやって餌付けされた武田は、次第に図々しくなっていき、遂には酒を飲ませろと言って来た。
「さすがに酒は無理だよ」
 そう苦笑する奥田に、武田は「じゃあ携帯を掛けさせてくれ」と言って来た。
「携帯か……まぁ、おまえの供述次第では使わせてやらない事はないが‥‥」
 奥田がそう取引を持ち掛けると、武田は机に身を乗り出しながら「わかった。何が知りたい」と濁った目を光らせた。
「被害者を撮影したテープはどこに隠してるんだ」
 奥田がそう聞いた瞬間、武田がケラケラと笑い出した。
「アホか。そのテープが発見されたら俺は終わりじゃねぇか。そんなワリの合わねぇ取引きできるわきゃねぇだろ」
 そうケラケラと笑う武田に、奥田は「そうか、そうだよな」と言いながら一緒に笑い、そして「それじゃあ、暇つぶしに、おまえのこれまでのオンナの話しなんかを聞かせて貰おうかな」と取引条件を素早く変えた。
「オンナ? へへへへへ、コレか?」
 武田は下品な笑いを浮かべながら、握り拳の中から親指を突き出した。
「いいよ。そんな事ならお易い御用だ。いくらでもド変態な話しを聞かせてやるよ……」
 武田は唾液でテラテラと光る唇をニヤリと弛めながら、自慢げに今までの変態武勇伝を語り始めたのだった。
「俺はね、基本的にアバズレ女がダメなんだよ。ほら、渋谷なんかにさ、ミニスカート履いて髪の毛真っ赤に染めた女子高生なんかいるだろ、あんなの大嫌いだね。金をくれるって言われても絶対にヤらないね。やっぱりさ、女ってのはこうお淑やかでさ、育ちの良さそうな上品なのがいいんだよな……」
 武田はまるで目の前に女がいるかのように、手振り素振りでタイプの女を表現した。
「例えばどんな女だい」
 奥田は何かを誘導するかのようにそう聞いた。
「そうだなぁ、女教師とか女医なんてのはいいよなぁ……あいつら日頃は知的ぶって上品ぶってるけどよ、一発シャブ喰わせればもうヒィーヒィーと豚のようにヨガリまくるんだよな……そのギャップが堪んねぇんだ……」
 奥田は背筋をゾッとさせながら「やっぱり、シャブは必ず打つのか?」と聞いた。
「当たりめぇだよ。真面目な女をよ、シャブで狂わせるからおもしれぇんじゃねぇか」
 武田はそうケラケラと笑いながら、机の下でなにやらゴソゴソと手を動かせた。そしていきなり「ほら、コレ見てみなよ刑事さん」と自分の股間を覗き込んだ。
 奥田はソッと首を伸ばし武田の股間に目をやる。青い腰縄が巻かれたズボンのチャックが開かれ、そこからグロテスクな色をしたペニスがドテッと横たわっていた。
「どうだい。太いだろ俺のチンポは。長さだって勃起したら18センチは行くぜ。それに見ろよこの『玉』。歯ブラシ削った『玉』がよ、20個も埋めてあんだぜ……」
 奥田はそのあまりの巨大さにギョッとした。自分のモノよりも、2倍、いや3倍のデカさは優にあろう。しかもそこにはコリコリとした玉が無数に埋め込まれ、それはまるでアダルトグッズでよく見る「パール入りバイブ」のようなのである。

(こ、こんな凶暴なチンポを恵子は……)

 その凶暴なペニスを激しく膣に出し入れされている妻の姿をリアルに思い浮かべた奥田は、途端に激しい目眩をクラクラと感じた。
 そんな奥田に、更に武田が追い打ちを掛ける。
「シャブで狂った女によ、このチンポ見せりゃあ、へへへへ、どんなお上品な女だってたちまちケモノよ。ヨダレを垂らしながら『チンポちょうだい、チンポちょうだい』って喚きまくるぜ……」
 そうニヤニヤと笑いながらペニスをズボンに仕舞う武田を見て、奥田は武田に気付かれぬよう胸に溜っていた熱い息を「ふぅぅぅ」とゆっくり吐いた。そんな深い溜息をついた瞬間、いつの間にか自分の股間が固くなっている事にふいに気付いた。
 武田は、ペニスを弄ったその指を奥田の煙草に伸ばすと、自慢げな表情のまま「一本貰うぜ」と一本抜き取った。
 そんな武田をジッと見つめながら、奥田は「女教師や女医以外にどんな女をヤったんだ」と恐る恐る聞いた。
 武田は「そうだなぁ……」と呟きながら煙草に火を付け、そしてゆっくりと煙を吐きながら「外資系のキャリアウーマンとか、東大生なんかもおもしろかったな」といやらしく微笑んだ。
「他には……」
 奥田はその職種が出ない事を必死で祈りつつ更に聞いた。
「他かぁ……」と武田は思い出すように天井を見上げ、妊婦、双子の老婆、小学生、そして身体障害者などと、その鬼畜さを次々に暴露し始めた。
 そんな中に、『保母さん』の名前は出て来なかった。奥田は恵子の前職である保母さんの名が出て来ない事に安心しながらも、しかし素直に納得できなかった。なぜなら、あの古い調書には、恵子の事を『武田の情婦』とはっきりと認定しているからであり、情婦とまで呼ばれる恵子がそこに登場して来ないのは不自然なのである。
 そこに奥田の刑事としての勘が鋭く働いたのだった。

(続く)

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