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マニアックに行こう2

2012/05/19 Sat 00:32

    マニア2




 静香と二人でアキバに向かった。
 生まれて初めて電車に乗った。もちろんそれは女装して電車に乗るのが初めてという意味だ。
 全く違う人間に生まれ変わった僕にとって、電車に乗るのも街を歩くのも全てが新鮮であり、それはまさに『生まれて初めて』の気分だったのだ。
 擦れ違う人々が僕に振り返る。ギョッとする人もいればジッと見つめる人もいた。
 女装した自分が、擦れ違う人々からどう思われているのかとても気になる。気持ち悪いと思っているのか、危険だと思っているのか、それとも……
 そんな僕の様子に気付いたのか、隣りを歩く静香が僕にソッと耳打ちした。
「秀人君、すっごく可愛いよ。自信持って」
 そう微笑む静香の笑顔に救われた。
 確かに今の僕は、あの切符を買っている太ったおばさんよりも、あの自販機に凭れながら携帯でボソボソと話している顔の大きなOLよりも、綺麗だ。
 世の中の男達に、あの女を諦めた女達と、男を諦めた僕と、一晩過ごすのならどっちがいい? と聞けば、80%は僕を選ぶだろう。そうだ、そうにきまってる。僕は本物の女よりも綺麗で可愛いのだ。
 僕はそう自分に言い聞かせ、自分に自信を持たせた。
 すると自然に僕の歩き方が変わって来た。それまでいちいち他人の目を気にしながらコソコソ歩いていたのが、自信を持ったとたん、猫背な背筋がキュッと伸びた。
 顔をスっと上げ、ヌーブラで誤魔化した胸を突き出し、わざと左右の尻肉を上下に交互に振りながらモンローウォークする。
 すると、そんな僕を目を丸くさせながら見ていた静香が、突然「ぷっ!」と豪快に噴き出したのだった。

 カラオケボックスに行くと、すでに女装子達は集合していた。
「新しいお友達を紹介するね。今日、女装デビューしたばかりの秀人君でーす」
 部屋に入るなり静香がそう僕を紹介すると、女装子たちが一斉に僕を見た。
「松沢秀人です。十七才です。よろしく……」
 僕が恐る恐る挨拶すると、僕を見つめている女装子たちは、一瞬、なにやら複雑な表情をした。
 それまで楽しそうに雑談していた女装子たちは言葉を失った。部屋はシーンと静まり返り、隣りの部屋から聞こえて来る下手糞な『妖怪人間ベム』の唄が籠ったように響いていた。
「あれれ? どうしちゃったのみんな?」
 静香が戯けながらそう笑い、テーブルの上のフライドポテトをヒョイっと摘んだ。
 するとソファーの真ん中に座っていたヴィジュアル系の女装子がパチパチパチっと気のない拍手をした。それに釣られてそこにいた六人の女装子達も仕方なく拍手を始めたが、しかしその拍手は実に気怠く、あたかも歓迎していない事を示しているようなそんな拍手だった。
 僕の出現により空気が澱んだ。
 そんな空気に気付いているのか、唯一本物の女である静香はやたらと僕に話し掛け、「なんか唄ってよ」と分厚いカラオケ歌本などを開いては僕に寄り添った。
 次第に僕と静香は孤立していった。
 六人の女装子達は、ここに来る前に寄って来たらしい『男の娘カフェ』の話しで盛り上がり、僕達二人がその話題に入ってこられないようにガードしているようだった。
 それはまるで僕達二人を除け者にするかのような態度だった。
 そんな気まずい空気の中、静香の携帯がバッグの中でブルブルと震えた。ヒラヒラのミニスカートから伸びるニーソ足をゆっくりと組み替えながら、静香はバッグから携帯を取り出し「ミナだ……」と呟いた。
「ちょっとごめんね」と誰に言うでも無くスッと立ち上がった静香は、携帯を耳にあてたまま部屋から出て行った。
 そんな静香が部屋を出て行った事により、部屋の空気がより一層重たくなった。
 みんなの視線がチラチラと僕に向けられる。僕はどこに視線を向けていいのかわからず、身動きしないままテーブルの上にあるウーローン茶の氷をジッと見つめていた。
 しばらくそんな沈黙が続いた後、突然僕の隣でライターの音がシュッと響いた。とたんにオヤジ臭い煙草の香りがモワッと部屋に広がる。
「ねぇ」
 煙草を吸い始めた隣りの少年が僕を呼んだ。
「はい……」と顔をあげると、まるで特殊メイクのような派手な化粧をした少年が、煙を鼻からふんわりと出しながら僕を見つめていた。
「静っちとどんな関係?」
 少年は、爬虫類のような長いツケまつげの奥から小さな目をキョロキョロと動かしながら聞いた。
「……同じ高校の先輩と後輩の仲ですけど……」
 恐る恐るそう答えると、カラオケ機の前に座っていた美輪明宏のモノマネのような少年が「そのメイク、どうせ静っちにやってもらったんでしょ?」と、どこか刺のある言い方で聞いて来た。
「えぇ……初めてで何も知らなくて……」
 するとドアの前に座っていた、東急ハンズの仮装コスチュームのコーナーでディスプレイされてそうなメイクをした少年が、「俺も初めての時は何も知らなかったけどさぁ、でも、誰にも頼らずネットとか見て自分で研究したよ」と、独り言のように呟いた。
 僕はおもわず(そのパーティーグッズ顔が研究の結果かよ!)とツッコミを入れそうになったが、しかしそんなツッコミを入れたらたちまち殴り合いになりそうだと思い、その張りつめた空気を読んでは押し黙った。
「で、ヤッた?」
 隣りの爬虫類ツケまつげの少年が、煙草を煙たそうに銜えながら聞いた。
「ヤッたって……何を?」
「何をってセックスに決まってるじゃん」
「誰と?」
「静っち」
 僕は爬虫類のようなツケまつげの奥を覗き込みながら「はぁ?」と首を傾げた。
 すると爬虫類ツケまつげの少年は、「えっ? って事はキミはモノホン?」と驚きながら、視線をスっと僕の太ももに落とした。
「モノホンって、どう言う意味ですか?」
 そう僕が聞くなり、爬虫類ツケまつげの少年の手がソッと僕の太ももの上へと伸び、器用に指を動かしながらスルスルっとスカートをたくし上げた。
「モノホンってのはね、女に興味がなくて男とセックスしちゃう本物って事。ここにいる僕達はみんなニセモン。あくまでも女装はファッションだと考えてるニセモン……」
 爬虫類ツケまつげの少年はそう笑いながら、たくし上げられたスカートの中のTバックからはみ出た僕のペニスを、突然ムニュッと握った。
「わあっ!」
 おもわず叫ぶ僕。
 すると爬虫類ツケまつげの少年は、僕の萎んだペニスをシコシコと上下させながら、「モノホンなら、一発ヤらせてよ」といやらしく笑った。
 すかさず、髪をピンクに染めたヴィジュアル系が「僕も」と手を上げた。するとパーティーグッズ少年が「俺はしゃぶってもらうだけでいいよ、ウンコ臭いのはヤだし」と言い、カラオケ機の前に座っていた美輪明宏モドキが「みんなでルーパー行く?」と、嬉しそうにラブホの名前を出した。
「ちょっ、ちょっと待って下さいよ!」
 僕はそう叫びながら、ペニスを握る爬虫類ツケまつげの少年の手を振り解いた。
「モノホンとかニセモンとかわかりません! 僕はただ、今日女装子の皆さんがここに集まるというから静香に連れて来られただけです」
 必死でそう叫ぶ僕だったが、しかし爬虫類ツケまつげの少年の手は再び僕のスカートの中に弄り、いつしか僕の背後に忍び寄って来ていたヴィジュアル系の少年が、僕の胸を乱暴に触った。
「やめて下さいよ!」
 叫んだ瞬間、ヴィジュアル系の少年が背後から僕に抱きつき、いきなりキスをして来た。あっ! と思っている間に、ヴィジュアル系の少年の生温かい舌が僕の口内に侵入して来た。
 誰かが僕の両足首をギュッと掴んでは動けないようにしていた。
 ペニスをシゴく爬虫類ツケまつげの少年の手は次第に早くなり、それから逃れようと僕が腰を浮き上がらせると、その隙をついて、誰かの手が浮いた僕の尻の間に挟まった。その指はTバックのヒモを掻き分け、僕の肛門を指先でガサガサと引っ掻いた。
 これは本当にマズいと思った。彼らは、かなり本気で僕をどうにかしようとしているようだ。
 ウグウグとモガキながら、ヴィジュアル系の少年の唇から顔を背けると、僕は半泣きになりながら「本当にヤメて!」と叫んだ。
 すると部屋のドアがいきなりガチャッと開いた。
「あんたたち何やってんのよ!」
 そこには携帯を握ったままの静香が真っ赤な顔をして立っていた。
 そんな静香の剣幕に一瞬彼らがひるんだ。その隙に僕は彼らの腕から素早くすり抜け、静香の背後にすがりついた。
 そんな静香の背中からは、甘い香水の香りが切なく漂っていたのだった。


「本当に本当に本当にごめんね」
 そう何度も謝る静香に、僕は「もういいから、気にしないでよ」と必死に笑顔を作った。
 高いビルにキラめく派手なネオンサインの隙間から、どっぷりと黒いアキバの夜空がこっそり顔を出していた。
 僕の口には生温かい舌の感触がまだ残っていた。ペニスをシゴかれた感触と、弄られた肛門の感触も未だ痛々しく残っている。
 悔しかった。凄くムカついた。あいつらみんなぶっ殺してやりたいと本気で思った。
 しかし、そんな感情を顔に出せば静香が悲しむだけであり、だから僕は引き攣った笑顔のまま、騒々しいアキバの歩道を歩いていたのだった。
「お詫びに今夜は静香に御馳走させて」
 静香はそう言いながら僕の手を握ると、「行こっ」っと微笑みながら人混みの中へと突入していったのだった。

 静香オススメのお店のドアには、『臨時休業』というプレートが淋しくぶら下がっていた。
「もう!」と頬をプクッと膨らませた静香は、「ここのハンバーガーすっごくおいしいのに」とプンプンしながら、申し訳なさそうに僕の顔を覗き込んでは「ごめんね」と呟いた。
 結局二人は、駅の近くにあるチェーン店の居酒屋へ行った。そこで静香は浴びるようにチューハイを飲みまくり、あの女装子たちの悪口を言いまくった。
「あの子たちは、内心では女装を馬鹿にしてるのよ。女装してればアキバの住人にチヤホヤされるから、それが楽しくて女装してるだけなの」
 静香はそう毒づきながら七杯目のチューハイを一気に飲み干した。
 体をウネウネと揺らし始めた静香は、「ねぇ、秀人君も飲もうよぉ」とロレツの曲らない口調でそう言うと、ホールの隅でぼんやりしていた店員に、僕の四杯目のアセロラチューハイと、自分の八杯目のグレープフルーツチューハイを注文したのだった。

 店を出ると駅前は閑散としていた。歩道の隅で酔っぱらったサラリーマンが堂々と立ち小便をしていた。
 終電はとっくに逃していた。泥酔状態の静香を抱えながら僕は途方に暮れた。
 どうしよう……と水銀灯を見上げていると、酔っぱらったサラリーマンが「姉ちゃん! おい!」と叫びながらフラフラと近付いて来て怖くて逃げた。
 静香を抱えながら細い路地に逃げ込んだ僕は、そのままキョロキョロと辺りを見回しながら漫画喫茶を探した。漫画喫茶で始発を待とうと考えたのだが、しかし僕の肩にぐったりと寄りかかる静香はネターッとヨダレを垂らし、トボトボと歩きながらも「グガァ」っというイビキをかく始末だった。
 そんな静香を連れて漫画喫茶を探すのは、途方もなく大変なのだ。
 おまけに僕にも酔いが回って来た。静香を抱えながらおもいきり走ったせいか、やたらと脳味噌がグルグルする目眩が襲って来たのだ。
 これ以上、無理だ……と、道端に倒れそうになった瞬間、大きな電気ビルの一階フロアの白いタイルが、蛍光灯でぼんやりと照らされているのが見えた。
 あそこなら休憩できるかも……
 そう思いながら、僕は最後の力を振り絞ったのだった。

 シーンと静まり返ったフロアには、自販機の音だけがグワングワンっと微かに響いていた。
 エレベーターの前にベンチがあった。白いPタイルの上を静香を抱えながらヨタヨタとベンチに辿り着いた僕は、抱き抱える静香共々ベンチに崩れ落ちたのだった。
 静香をそのままベンチに寝かせ僕だけムクリと座り直した。フロアの天井の蛍光灯は、節約のせいか三分の一しか点いていなかった。そんな薄暗い天井を見上げながら一息付いた僕は、急に安心したせいか更に酔いが回って来た。
 ぼんやりしていると、一瞬、カクンっと首が折れた。
 あれ?……今、寝てたのかなぁ?……
 ふとそう思っていると、なにやら目の前がグルグルと回って来た。
 相当酔っちゃってるな……
 そう考えていると、ふいにスースーという自分の寝息が聞こえて来た。
 ダメだよこんなトコで寝ちゃ……と、眠りの世界を彷徨いながら自分に言い聞かすが、しかし、意識はあるものの僕の体は眠りの世界へ落ちて行ってしまったのだった。

 再び気が付いたときは、随分と時間が経っていたようだった。路地の先にある大通りからは車の音が全く聞こえて来ない。
 静香は大丈夫だろうか……と、頭の中をボワンボワンさせながら隣りを見た。
 そこには紺のスーツをだらしなく着た中年男がポツンと座っていた。
 えっ! と目を見開く。
 朦朧とする僕の目に、ベンチに横たわりながら大きく股を開かされている静香がぼんやりと映った。
「あ、あ、」
 焦った僕は言葉にならない言葉を発した。
 すると中年男がジロリと僕を見た。男は僕をジッと見つめながら、静香の股間を弄っていた指をクンクン嗅いだ。
 やめてください! と、叫ぼうとしたが、しかし僕の口からは日本語になっていない言葉が飛び出した。
 男はそんな僕を見てニヤリと笑うと、「姉ちゃん、大っきな目して可愛いなぁ」と、唇をネチャネチャとさせながら言った。
 男は、ゆっくりとベンチを立ち上がると、そのまま僕の目の前にやって来た。そしてその場にゆっくりとしゃがむと、スリスリと僕の太ももを撫で始めた。
 僕は無我夢中で手を伸ばし、静香のM字に開かされた股を閉じさせた。静香の足がガクンと倒れると、静香は「ゴワッ」とイビキをかいた。
「この寝てる姉ちゃんなぁ、オマンコ弄ってもクリトリス舐めてもなーんにも反応しねぇから全然おもしろくねぇよ」
 男はそう笑いながら、僕のワンピースの胸元をカサカサと擦った。
 強烈な恐怖が僕を襲った。しかし、僕の体は思うように動かず、声を出す事すらできなかった。
「だから、おめぇが相手しろ。な、おっちゃんが気持ち良くしてあげっからよ……」
 男はそう笑いながら、僕の手首を掴んだまま立ち上がった。
 そしてすぐ後のエレベーターのボタンをパチンっと押すと、ベンチに座る僕の手を強引に引きながら「ほら、立てよ」と僕の体を揺すぶった。
「チン!」とエレベーターのベルが鳴った。それと同時にガコガコガコとエレベーターの扉が不器用に開いた。
 強引に立たされた僕は、そのままエレベーターに連れ込まれそうになった。必死に抵抗する僕は、なんとか男の手を振り解き、そのまま逃げ出そうとした。が、しかし、静香をこのままここに置いて行くわけにはいかない。
「チッ、面倒かけるなよ……殴られたり蹴られてヤられるよりは、大人しくヤらせちゃったほうがいいと思うんだけどな……」
 そう言いながら僕に攻め寄って来た男は、おもいきり僕の頬を引っ叩いた。パチン! と乾いた音と頬の痛みが、更に僕を恐怖のどん底に叩き落とした。
「大人しくしてたら乱暴しねぇから、な、諦めておっちゃんについておいで……」
 男は僕の手を思いきり引っ張った。僕は必死に静香の腕を掴んだ。引きずられた静香が、ベンチの上からドテッと床に落ちた。
「チッ」と再び舌打ちした男は、「面倒かけやがってよ……」と呟きながら、床に転がる静香を両腕に抱き抱えた。
「もういいよ。おめぇ、そこで待ってろ。しょうがねぇから、このイビキ女で我慢するよ」
 男はそう言いながら、スタスタとエレベーターに乗込んだ。慌てた僕はフラフラとエレベーターに進むと、閉まりかけのドアに飛び込んだ。
 ドテン! とエレベーターの床にひっくり返った。そして男を見上げながら、静香を返せ! と、叫んだつもりだったが、しかしそれは言葉になっていなかった。
 そんな僕を見下ろす男は、「わぁった、わぁった、おめぇも連れてってやるよ」と呆れたようにそう言うと、静香をしっかりと抱き抱えたまま3階のボタンをパチンっと押したのだった。

(3話へ続く)

《←目次へ》《3へ続く→》

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