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夢見る少女1

2012/01/19 Thu 03:59






 私は、AKBのようなアイドルに憧れる高校一年生。
 スタイルと顔にはそれなりに自信がある。歌もダンスもそこそこイケる。実際にニコニコ動画で歌やダンスを披露すると、凄い人気だ。
 後は有名なプロダクションにスカウトされるのを待つだけなんだけど、でも、毎週土日にスカウトされたくて表参道なんかをブラブラしてても、一向にスカウトされる気配はない。
 のんびりしてたら年を取ってしまう。アイドルとして一番華やかな十六才を過ぎてしまう。
 そう焦る私だけど、でも、結局は夜な夜なニコ生でお尻を振って、スケベな男の子達にチヤホヤされるのが関の山の私なのであった。

 そんなある日、かなり有力な情報が届いた。
 あるアイドル系女子のサイトに、『どーしてもアイドルになりたいの』っというスレッドを立ててたら、あるプロダクション関係者からメールが届いた。
 それまでにもプロダクションを名乗る人から、胡散臭いメールが何百通と届いていたけど、今回のはちょっと違った。
 今までのメールなら、『アイドルにしてあげるから今から会おう』とか、『今からオーディションするから出て来ない?』といった、要するに「会おう」というのが目的のメールばかりだった。
 でも、今回は違った。『親の承諾は受けてますか』、や、『学校の承諾は受けてますか』、といった質問が続き、そして、オーディションを受けるにあたっての注意事項などが、ダラダラと長文で送られてきた。そんなメールの中には、今までの胡散臭い人達のような「会おう」という言葉は一度も出て来なかったのだった。

 私はさっそくそのプロダクションをネットで検索してみた。
 そのプダクションはなかなかの大手らしかった。ホームページには、聞いた事のある子役の名やテレビでよく見るお笑いタレントの名前などがズラリと書き綴られていた。
 ホームページの会社概要にある『役員一覧』を開くと、そこの一番上に、『代表取締役社長』として、メールを送って来た男の名前がちゃんと書いてあった。
 私はおもわず「やったぁ!」と叫んでしまった。遂に念願のアイドルの切符を手に入れたのだ、これはもう叫ばずにはいられなかった。

 興奮した私はさっそく男にメールを返信した。

『今すぐにでも会って欲しいのですが』

 そう入れると、それから2日後に『わかりました。お会いする日時は、私のスケジュールの調節ができ次第、お返事します』とメールが返ってきた。
 メールが2日後に返信されてきた事や、それでもまだ直ぐには会わないという所が、さすが大手のプロダクションだこれは間違いなく本物だ!と、私は確信した。

 どうしようどうしようと、私は男のメールを見つめたまま部屋中をウロウロと歩き回り狼狽えた。嬉しくて嬉しくて何度も何度もその短いメールを読み返すが、しかし私にはそれを一緒に喜んでくれる友達はいない。だから結局、またいつものニコ動で、その喜びを表現するしか方法はなかったのだった。

         ※

 その男と会う事になったのは、それから一週間後の日曜日だった。
 新宿にあるビジネスホテルのロビーで待ち合わせをした。
 私はおもいっきりお洒落をして、約束の時間より一時間も早く来てしまった。

 そのホテルのロビーは、アイドルの面接にはまるで相応しくない怪しげなロビーだった。派手なスーツを着た中年男や、下品な柄のシャネルのバッグを持った水商売風の女の人が、組んだ足からストッキングの伝線をチラつかせながらスパスパと煙草を吸っていた。

 男は20分遅れてやって来た。
 ロビーをウロつく怪しげな人々の中で、一人ポツンと立ちすくんでいる私を見て、男は「遅れて申し訳ありません」と笑みを浮かべながら近付いて来た。

 男は40代後半だろうか、見た目はお父さんと同じくらいの年齢らしき人だった。お腹がボテッと突き出したメタボ。弛んだ頬と二重アゴがくっつき、歩いているだけで額と鼻の頭にダラダラと汗を垂らしていた。
 こんな豚みたいな人が芸能プロダクションの社長さん?
 そう一瞬戸惑ったけど、でも、すぐにその男が差し出して来た名刺を見て、私の迷いは一瞬にして消え去ったのだった。

「オーディション用に会社契約している部屋があるから」

 嶋田と名乗る男は、そう言いながらエレベーターのボタンを押した。
 正直言って部屋に入るのは怖かった。でも、アイドルになる為には我慢しなければならないんだ、と自分に言い聞かせ、その狭いエレベーターに素直に乗った。
 エレベーターのドアが閉まると、その狭い空間に嶋田の汗臭い体臭が充満した。それはまるで会社から帰って来た時のお父さんの靴下のニオイと同じだった。
 そんな悪臭漂う大男は、太い腕をヌッと伸ばし、ちくわのような太い指でエレベーターのボタンをカチッと押した。

「キミは確か歌手志願だったよね」

 背後から、まるでディズニー映画に出てくる悪い熊のような野太い声が響き、そして同時にオヤジ特有の重たい口臭が漂って来た。
 私はそんな悪臭にグッと俯いたまま「はい」と小さく返事をすると、嶋田は「ABKみたいな?」と、含み笑いしながら言った。
 すかさず私が「はい!」と答えると、男は狭いエレベーターの中で苦しそうにモゾモゾと蠢きながら「ABKの中にはね、ウチの事務所から移籍した子が4人もいるんだよ」とハフハフと苦しそうに笑い、私の自慢のストレートヘアーにその臭い息を容赦なく吹きかけたのだった。

 エレベーターを降り、妙に薄暗い廊下を進みながら、私は嶋田に「ABKの誰ですか?」と聞いた。すると嶋田は頬をタプタプと揺らしながら笑い出した。
「それは言えないよ。その子達はあくまでもド素人からデビューしたって事になってんだから。あの子達が元々ウチの事務所に所属してた玄人だったなんてのが噂になっちゃったら、ふふふふふ、僕が秋木さんに怒られちゃうよ」
 思わず私は「えっ!」と嶋田に振り返り、「秋木さんと会った事あるんですか!」と叫んでしまった。
「当たり前じゃない、あの人は僕の先輩だよ」
 嶋田が再び頬をタプタプと揺らしながら笑い出すと、不意に廊下の一番奥にある部屋のドアがガチャッと開いた。
 中からキツネのような目をした痩せた男と、子豚のようにムチムチと太った女の子が一緒に出て来た。
「おっ、嶋ちゃんじゃない」
 キツネのような男が、頬をタプタプと揺らしながら笑っている嶋田を見てそう叫んだ。
「あらま、岸田ちゃん、おはようさん」
 嶋田はそう笑いながら足を止めた。
「これからオーディションですか?」
 キツネ目の男は痩せ細った首に何本も筋を浮かべながら私を見つめ、悪寒が走りそうな気味の悪い笑顔でニヤニヤと笑った。
 そして私の前にピタリと立ち止まると、「嶋ちゃん、こりゃまた上玉じゃない、どこで発掘して来たのよ」と、キツネのような細い目をタヌキのように丸くさせた。

「ふふふふふ、それは内緒だよ岸田ちゃん、オタクの事務所には2人もネコババされてんだもん、そう簡単に穴場は教えられませんよ」

 嶋田はそうニヤニヤと笑いながら、キツネ目の男の後でちょこんっと立っている子豚のような女の子を覗き込んだ。
「そっちもオーディションかい?」
 嶋田がそう言うと、キツネ目の男は「オーディションは後日やり直しって事になりました」と苦笑いしながら、子豚の女の子に見られないようにソッと顔を顰めると、残念そうに首を左右に振りながら合図した。

「へぇ~見送りかぁ…… なかなかイイ子なんだけどねぇ……」

 嶋田はそう言いながら彼女の顔を覗き込み、「良かったらウチの事務所のオーディション受けてみる?」と聞いた。
 ジッと俯いたままの女の子は、嶋田の顔すら見る事無く「結構です」と呟き、そのまま下唇をギュッと噛んだ。
 そんな彼女のボブヘアーは、なぜか風呂上がりのようにベタベタに濡れ、そして右頬がまるで虫歯のように赤く腫れていた。

「そりゃあ残念だなぁ……」

 嶋田が少女をジロジロと見回しながらそう言うと、今度は少女の隣りで私をジッと見つめていたキツネ目の男が私に話し掛けた。
「キミもさぁ、嶋ちゃんとこのオーディション終わったら、次はウチのオーディション受けてみない。ウチは電通に強いからおいしいCMバンバン取れるよ」
 キツネ目の男はそう笑いながら嶋田をチラッと見て、「ね、ね、いいでしょ嶋ちゃん」と肘で嶋田の大きな腹を突いた。

「それは彼女の自由だからね、僕には何にも言えないけど……」

 嶋田がそう苦笑すると、キツネ目の男は私の返事を聞かずして、「それじゃあ彼女送って来るから一時間後に部屋に行きます」と言い残し、その子豚のような女の子を連れてそそくさと去って行ったのだった。

        ※

 部屋に入ると、壁に染み付いた煙草のニオイがムンムンと私を包み込んだ。
 狭い部屋の真ん中にはダブルベッドがドカンと置いてあり、遠くに新宿の高層ビルが見える妙に薄汚れた窓ガラスの前には、安っぽい応接セットが並んでいた。

「あの男、業界ではなかなかヤリ手の男でね、ここだけの話しだけど、下戸彩はあいつにスカウトされたんだぜ」
 
私はダブルベッドの横に立ちすくんだまま、おもわず「本当ですか!」と叫んでしまった。

「絶対に内緒だよ、一応、彼女は美少女コンテストでデビューした事になってんだから」

 嶋田はそう笑いながら安っぽい応接セットにドカッと腰を下ろした。そして、下戸彩という名前を聞いただけで既に瞳をキラキラと輝かせている私をソッと見上げながら、「ま、私の言う通りにしてればね、下戸であろうが黒本であろうがどんな大スターにだってなれますよ」とニヤニヤと笑った。

「じゃあ私は何をすればいいんですか! 教えて下さい! 私、アイドルになれるんだったら何でも言う事を聞きます!」

 おもわず私がそう叫ぶと、嶋田は更にニヤニヤと笑いながら、「そうですねぇ……じゃあ、まずは簡単なボイスチェックをしてみるから、今ここでキミの得意な歌をアカペラで歌ってくれるかなぁ」と、テーブルの上に取り出した煙草を一本抜き取りながらそう言ったのだった。

 私は立て続けに3曲歌った。そして今、いつもニコ動のオープニングで披露している自信曲、ABKの『会いたかったのよね』を振り付けありで歌っていた。
 そんな私をニヤニヤと見つめながら、嶋田はふいにポケットから携帯電話を取り出した。
 嶋田が携帯を掛け始めたため、丁度サビの部分で私が歌を止めると、嶋田は「いやいや、そのまま続けて」と、私に言いながら、そのまま電話に向かって「もしもーし」と話し始めたのだった。

 私は部屋中を走り回りながら『会いたかったのよね』を歌い続けた。そんな私の耳に嶋田の電話の会話がヒソヒソと聞こえて来た。嶋田が私の事を誰かに話しているんだと思った私は、少し歌声を弱めながら嶋田の声に耳を澄ました。
私が『Yes!』と叫んで右手を振り上げた瞬間、「さっきの小太りの女の子、なかなか良かったじゃない」という嶋田の声が聞こえた。どうやら嶋田はさっきのキツネ目の男と話しているようであり、しかもその話しの内容は私の事ではなく、さっきの子豚のような女の子の話題だった。

「あの小太りの女の子、是非ともウチのオーディションを受けてもらいたいねぇ」

 私は嶋田のそんな言葉を聞きながら、やたらとあの子豚のような女の子に対抗意識を燃やしてしまった。あんな子豚に負けてなるものか、と思いながら、再び『Yes!』と叫ぶ瞬間にダブルベッドの上にピョン! と飛び乗り、そのまま勢いをつけて床に着地しようと飛び上がると、おもいきり天井に脳天をぶつけてしまった。
 ドスン! という音と共に私は床にひっくり返った。でも、こんな失敗をしてしまった時こそプロ根性を見せなければと思った私は、床にひっくり返ったまま『君にぃ~♪』と決めポーズを取ってやったのだった。
 しかし嶋田は、そんな私をチラッと横目で見ただけで、そのまま電話を続けた。

「いくら彼女が嫌がっててもさぁ、そこをなんとか岸田ちゃんの力で引っ張って来てよ……うん……うん……そうそう、だからね、後はウチの事務所が責任取るからさぁ、ね、なんとか頼むよ岸田ちゃぁ~ん」

 私は、そんな嶋田に、「おまえはルパン三世かよ!」とツッコミを入れてやりたい衝動に駆られながら、ゆっくりと床から立ち上がった。
 そんな私を嶋田は見向きもしなかった。私は途端にアホらしくなり、とりあえず嶋田の電話が終わるまで待っていようと、喉をカラカラにさせながらもダブルベッドにソッと腰掛けたのだった。

 嶋田の電話の会話からすると、どうやらあの小太りな女の子も、オーディションを受けにこの部屋にやって来るようだった。
 私は焦った。いや、あんな小デブに、顔もスタイルもルックスも絶対に負ける気はしなかったが、ただ、妙に嶋田があの子を気に入っているのが私を焦らせた。
 そんな私は、あの子がこの部屋にやって来る前に、嶋田にもっともっと気に入って貰わなければと思い、電話を終えた嶋田に向かって「次は何をすればいいでしょうか!」と必死になってそう聞いた。
 すると嶋田は「うん」とひとつ頷くと、フィルターまで短くなった煙草をジリジリと吸いながら窓の外を見つめ、そしてゆっくりと煙を吐きながら「じゃあ次はボディチェックをしてみますから、とりあえず上着を脱いでもらいましょうかね」と、濁った目でポツリとそう呟いたのだった。

 (2へ続く)

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