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132日暮里サドマゾ事件

(解説)
生理が近くなると異常欲情するサディストなOLと人生に疲れたマゾヒストな男達。そんな狂った変態達が都会の片隅で繰り広げる猟奇なエロス。




 京子が動くと鈴木の目も動いた。
 ここ一週間ほど前から、京子は鈴木のその視線に気付いていた。
 鈴木の視線は、京子が事務机から立ち上がると腰から尻まで素早くジロリと滑り、歩き出すと太ももから脹ら脛までを舐め回すように追った。そしてコピーを取っている時などは、背後から京子の尻をジロジロと眺め、まるでよからぬ妄想をしながら京子の尻を視姦しているような、そんな気配をむんむんと漂わせていた。
 ある時、京子が鈴木の机の上の書類を整頓しながら、ダイヤコーポの302号室の窓ガラスが割れている事や、京和マンションの駐車場に生ゴミが不法投棄されている事などをひとつひとつ説明していると、ふと、鈴木の視線が妙な動きをしている事に気付いた。
 なんと鈴木は、前屈みになっている京子のブラウスの胸元を、ビクビクしながら覗き込んでいたのだ。
 京子は慌ててブラウスの胸元を押えると、前屈みの姿勢からピンっと背筋を伸ばした。すると鈴木も慌てて視線を反らし、何もなかったかのように書類に視線を戻したのだった。

 東栄不動産日暮里支店。
 事務机が三台と応接セットがあるだけの小さな事務所だった。
 この小さな事務所に、部長の鈴木(50歳)と営業の中原(33歳)、そして事務員の松江京子(25歳)の3人が働いていた。
 そんな日暮里支店の責任者である鈴木は重度のウツ病だった。毎日机にボンヤリと座っては、「眠れない」だの、「疲れた」などと1人でブツブツと呟いては5時までの営業時間を過ごしていた。
 営業の中原はというと朝から外回りでそのまま帰って来ない事も多々あった。だから京子は、朝の9時から夕方の5時まで、この狭い事務所でウツ病の鈴木の独り言を延々と聞かされていたのだった。
 京子はそんな鈴木にいつもイライラしていた。特に生理の前後のイライラは激しく、ある時など、いつものように鈴木が「死にたい……」と溜息を漏らした瞬間、おもわず「じゃあ死ねば?」と口に出てしまった事もある。その言葉は鈴木には聞こえなかったが、しかしもしそれが鈴木に聞こえていたら、きっと鈴木はビルの屋上から飛び降りていたに違いない。

 そう、あの時のあいつのように……。

 5時きっかりに会社を出た。埃が舞う歩道をしばらく歩くと昭和の匂いが漂うパチンコ屋のネオンが見えて来た。駅前交番の前にあるルノアールで苦いコーヒーと煙草を2本吸い、コーヒーが染み付いた『女性自身』をラックの中へ戻すと、コーヒー代を払って外に出た。
 駅に向かって歩いていると、消防署の前にいたキャッチの男に「キャバクラとかに興味ありませんか?」と声を掛けられた。無視していると男は駅までついて来た。改札口の手前で、男は「スゲェ胸おっきいっすね」とイヤらしく笑った。京子はキッと男を睨むと、そのまま駅の構内へと入って行ったのだった。
 くだらないキャッチ野郎にうんざりとした溜息を漏らしながらホームに入って行くと、一番奥のホームのベンチで京子をジッと見つめている男がいた。
 男は泣いているのか怒っているのかわからない表情をしながら、ゆっくりと京子に歩み寄って来た。京子はそんな男を「ふん」と鼻で笑うと、ホームにぶら下がっている時計を見た。
 時刻は5時50分だった。丁度、あの男がこのホームから電車に飛び込んだ時と同じ5時50分だった。


 その男というのは、いわゆる京子のストーカーだった。
 男の名前も年齢も職業も京子は知らなかったが、いつも薄汚れたスーツとボロボロの靴を履いていた事から、三流会社の定年間近のサラリーマンだと言う事はわかった。
 そんな親父が京子のストーカーになったのは2ヶ月ほど前からだった。
 いつも帰りの電車が同じらしく、よく駅のホームでその親父を見かけていた京子は、その親父の死神に取り憑かれたような顔を見ては、いつかあの親父はホームに飛び込むだろうと思っていた。
 それくらいこの親父には暗い陰が漂っていた。
 その日は、異常なくらいに車内が混み合っていた。大勢のサラリーマンにギュウギュウ詰めにされていた京子の目の前に、その親父は偶然いた。
 親父のカサカサに乾いた頬が京子の額にぴったりと密着していた。気持ち悪かったが、しかしその隣りにいる顔面を脂でギトギトにしたデブ親父よりはこの乾燥肌の親父の方がマシだと思った。
 電車は激しく揺れていた。掴まる場所のない京子は、目の前の親父に身を寄せるしか、体のバランスを保つ術は無かった。
 すると、ふと京子は太ももにコリコリとした感触があるのを感じた。それはまさしく肉の塊であり、目の前の親父が勃起しているのだろうと京子は悟った。
 不意にそんな親父と目が合った。親父は精魂が抜けたような弱々しい表情で慌てて京子から目を反らすと、まるで蚊の鳴くような小さな声で「すみません……」と謝った。
 そんな親父の弱々しい表情と情けない声に、おもわず京子はムラッと熱くなった。
(いじめてやりたい……)
 そう思う京子の感情は、決して性的エロスなサドマゾといった感情ではなかった。それはただ単にクラスののイジメッ子が転校生を虐めたいと思うような単純な感情であり、そこに加虐性欲といった高度な感情は、今はまだ芽生えてはいなかった。
 京子は親父をキッと睨んだまま、親父の太ももをおもいきりつねった。
「うぐっ!……」と下唇を噛みながら耐える親父を真正面に見ながら、京子の背筋がゾクっと震えた。
 京子は電車の揺れに任せて、親父の耳元に顔を擦り寄せた。そして親父の耳にソッと唇をあてながら「ふざけんなクソジジイ」と囁いてやった。
「すみません……」
 親父が再びそう呟いた瞬間、もう一度親父の太ももを指先でつねってやった。が、しかしつねったその肉は太ももの肉ではなく、コリコリに勃起したペニスだった。しかもそれは亀頭だったらしく、親父は京子がおもいきりつねった直後に「くふっ」と歯槽膿漏の息を吐いてはその目を半開きにさせた。
 親父のズボンがみるみると湿り、その生温かさが密着する京子の太ももにも伝わって来た。
 べっちゃりと湿ったズボンの股間の、そのコリッとした肉の塊を京子はギュッと握った。そしてそれを上下にシゴきながら「変態ジジイ、早く死ね」と耳元に吐き捨ててやった。
 親父は腰をカクカクさせながら泣いていた。親父のその涙が、まさか歓喜の涙だとは知らなかった京子は、そんな親父をジッと睨みながら優越感に浸っていたのだった。
 それからというもの、この親父は京子に付きまとうようになった。
 そんな親父を京子はとことん虐めた。
 ある時はヒールの踵で親父の靴を踏みつけ、そしてある時はおもむろに顔面に唾を吐きかけてやった。
 それが益々エスカレートしていき、ある時など、大塚の駅で降りた京子の後に付いて来た親父を、駅裏の児童公園へと連行し、そこで全裸になるように命令してやった。
 人影がまばらな児童公園の隅で親父は素直に全裸になった。そして自らの意思で京子の足下に正座しながら、なんと勃起するペニスをシコシコとシゴき始めたのだ。
 男のセンズリというものを初めて目の当りにした京子は戸惑った。まさかここまでするとは思っておらず、急に怖くなってその場から逃げ出した。すると親父は、弱々しい声で「待って下さい、待って下さい」と叫びながら、まるでゾンビの如く京子の後を追って来た。
 おもわず京子は「キャー!」と叫んでしまった。すると近くを通りかかった大学生風の男の子達がいきなり親父を取り押さえると、素早く携帯で警察に通報してしまったのだった。
 親父はそのままパトカーでどこかに連行されていった。滑り台の下に転がっている親父の片方の靴を見つめながら、不意に京子は笑いが止まらなくなった。
 その後、マンションに帰って着替えていると、ふとストッキング越しに股間がジメッと湿っている事に気が付いた。それはまるで小便を洩らしたかのようにストッキングの股間がヌルヌルに濡れており、それを見た瞬間猛烈に欲情した。そのままあの親父の醜いセンズリシーンを思い浮かべながらオナニーをした。その時から、京子の心の奥底に加虐性欲という性癖がジワジワと芽生え始めたのであった。

 それからというもの、名前も知らない親父と様々な変態プレイを楽しんだ。
 2人のプレイの始まりは、いつも日暮里駅からだった。
 親父は京子の命令には絶対服従だった。京子は、ホームに電車が入って来る度に横目で親父を見ながら、

(今ここで電車に飛び込めと命令すればきっとこの親父は本当に飛び込むだろう)

 と思っては、強烈な征服感にエクスタシーを感じていた。
 その日、電車はガラガラに空いていた。京子の真正面の席に親父はソッと腰を下ろした。
 タイトな事務服のスカートから伸びる京子の美脚がゆっくりと組まれた。黒いストッキングが車内の蛍光灯に照らされ、玉蟲のようにメラメラと輝いてていた。
 京子の右隣にiPodをシャカシャカさせた女子高生がウトウトと居眠りしていた。左側では中年のOLが単行本を一心不乱に読んでいる。この車両にはこの2人しかいなかった。
 京子は正面に座る親父に合図を出した。親父は唇を震わせながらズボンのチャックを開け、そこから真っ赤に輝く亀頭を捻り出した。
 京子はゆっくりと股を緩ませ、親父にスカートの中を見せつけた。親父はそこを必死に覗き込みながらペニスをシコシコとシゴく。
 京子はバッグの中から物件書類のファイルを取り出すと、シコシコする親父を無視しながらそれをパラパラと捲った。そしてそうしながらも、スカートの中にソッと手を入れパンティーをスルスルッと下ろした。
 ガタンゴトン,ガタンゴトン、という電車の音と共に、親父のベルトの金具がカチャカチャとリズミカルに響く。
 微かに親父のハァハァと言う荒い息が聞こえて来た。両脚の踵を座席の上にソッと置き、体育座りのような姿勢になる。すると親父の荒い息は更に激しくなった。それはまるでゴールに差し掛かったマラソン選手のような、そんな苦しそうな呻き声だった。

踏切を通り過ぎ、遮断機の音がフェードアウトしていく。隣りの女子高生も反対側の中年OLも、男の卑猥な行為に全く気付いていなかった。
 電車の速度が落ち始めた頃、突然、ポトポトポトっという何かが床に落ちる音が聞こえた。
 京子がソッと顔をあげると、座席に座る親父が両足をピーンと伸ばしながら、だらしない顔でハァハァと唸っていた。
 京子と親父の間の通路の床に、限りなく透明に近い精液が点々と飛び散っていた。そんな無残な精液を見た瞬間、再び強烈な征服感が京子を激しく包み込んでいったのだった。


 そんなある日、京子に生理が近付いて来た。
 生理が近付くと、京子は無性にセックスがしたくなった。
 特定の彼氏を持たない京子だったが、しかし京子ほどの魅力的な女ならば、セックスの相手くらい星の数ほどいた。
 しかし、普通のセックスでは自分を抑え切れないと思った京子は、おもいきり残酷でグロテスクな変態セックスがしたいと疼き始めた。
 そんな京子が相手に選んだのは、いつも日暮里駅で会う例の親父だった。
 その日、日暮里駅のホームで男を見つけた京子は、男を意味ありげにひと睨みすると、そのまま階段を引き返した。再び改札を通り抜けソッと振り返ると、案の定、男は京子の後をついて来ていた。
 日暮里駅の南口に出ると、そのまま目の前にある谷中霊園内へと紛れ込んだ。谷中霊園は10万平方メートルもある巨大な都立霊園だった。そこには7千基もの墓が密集しており、日没ともなれば猟奇的な不気味さを貪よりと漂わせていた。
 そんな谷中霊園の奥へ奥へと進みながら、京子は自分のアソコが濡れている事に気付いていた。
 墓と墓との細い路地をくねくねと進んだ。地面の赤土にヒールの踵を食い込ませながらいくつもの墓を通り抜けていくと、みるみると排気ガスの匂いは薄れ、湿った草木の香りが濃厚になってきた。
 徳山家と彫り込まれた墓石の横に、一メートルほどの千手観音像が不気味なオーラを発しながら立っていた。辺りに人気は全く無く、貪よりと暗い夜空に日暮里駅のステーションポートタワーだけがぼんやりと浮かんでいるのが見えた。
 京子は徳山家の墓石に両手を付くと、無言で尻をツンっと高く突き上げた。男は獣のように身を潜めながら京子の足下にソッとしゃがむと、地面に両手を付きながら京子のスカートの中を覗き込んだ。
 男の荒い息が足下の漆黒の闇の中から聞こえて来た。それはまるで土の中に眠る死者が甦ったかのように薄気味悪い喘ぎ声だった。
 京子は、男がセンズリを始めたのを確かめると、そのまま下着を脱ぎ始めた。
 ストッキングに絡まった下着には老人の痰のような汁がドロドロに染み付いていた。それを千手観音の手にぶら下げると、京子はノーパンのスカートの中に手を入れ、指でワレメをネチョッと開いた。
 遠くの方でひっきりなしに車のライトが交差するのが見えた。生暖かい風が無数の墓石をすり抜け、漆黒の闇の中で草木がザワザワと揺れた。
「舐めたい?……」
 京子は遠くに見える車のライトを見つめながら呟いた。
「……はい……」
 男はハァハァと荒い息を吐きながら答えた。
 突然京子はムカッと来た。貴様のような死に損ないが私のアソコを舐めたいなんて生意気よ!、とそう思った瞬間、おもわず地面に跪く男の手をヒールの踵で踏みつけていた。
「うぐっ!……」
 男は闇の中で唸った。が、しかし男はその手を退けようとはしない。京子は男の手の甲でヒールの踵をグリグリと押し付けながら事務服のスカートだけを脱いだ。
 事務服の下半身だけを露出した姿は京子に奇妙なエロスを与えてくれた。しかもそこは死者が眠る墓場であり、猟奇的なセックスを楽しむには最高のシチュエーションだ。
 みるみると感情を高揚させていく京子は、地面に跪く男に全裸になるように命令した。男は素直に服を脱ぎ始め、瞬く間に全裸となった。
 月明かりに男の勃起したペニスが浮かび上がった。我慢汁で濡れた亀頭は、まるで生き物のように、ひくっ、ひくっ、と小刻みに痙攣している。
「その汚いチンポを私のココに入れたい?」
 京子はそう言いながら徳山家の石床にしゃがむと、一段高い位置から男を見下ろしては、大きく開いた股の陰部を男に見せつけた。
 男は戸惑っていた。下手に返事をしようものなら再び制裁を加えられると脅えていたのだ。
 しかし男は、そう脅えながらも、まるでそうされる事を望んでいるかのようにしゃがんだ京子の前に平伏した。そして今にも泣き出しそうな弱々しい声で「入れたいです……」と呟いた。
「じゃあ死ね。おまえのような奴は生きててもこの先何もいい事ないわよ。だから死になさい。死んで楽になりなさい」
 陰部を弄りながらそう呟く京子と、月の灯りに不気味照らされた千手観音が男をジッと見つめていた。
 男がブルブルっと身震いした。それがスイッチであるかのように、男はいきなりペニスを握ると、凄まじい勢いでそれをシゴき始めた。
「もし、本当に死ぬのなら、最後に気持ち良くさせてあげるわ……おまえのその汚いチンポをここに入れさせて上げる……」
 京子は開いた膣の中に指を二本入れ、グチョグチョといやらしい音を立てながら膣の中を掻き回した。そして男を挑発するかのように長い舌で唇をベロベロと舐め始めた。
「し、死にます……だ、だからお願いします……」
 男の吐き出したその言葉が、京子の膣の奥をジンっと痺れさせた。
 激しく掻き回される陰部の先から、『プシュ』っと音を立てながら小便が噴き出し、一段下の男の顔に勢い良く噴き掛かった。男は恍惚の表情を浮かべながらゆっくりと口を開き、それをゴクゴクと飲み出した。
 そんな男を見下ろしながら、京子はクリトリスを激しく摘んだ。生理前の獰猛な性欲が「あぁぁん!」という叫び声となっては静まり返った霊園に響き渡った。
 京子は徳山家の墓石にしがみつきながら尻を突き出すと、男に肛門を舐めろと命令した。男は泣きながら京子の尻にむしゃぶりつき、湿った肛門にヌルヌルと舌を這わせた。
「あぁぁん……」
 くすぐったさと性的快感が同時に京子に襲い掛かって来た。京子は四つん這いになりながらクリトリスを弄り、そして徳山家の墓石に頬を押し付けながら「本当に死ぬのよ、おまえは本当に死ぬのよ」と呻くと、そのまま尻を高く突き上げた。
「はい、死にます、この世に未練はありません」
 男は搾り出すようにそう言うと、今にもはち切れそうな京子の尻を鷲掴みにし、その中心にペニスを突き付けたのだった。
 それは、まるでところてんが押し出されるかのようにスムーズに挿入された。そのあまりにもスムーズな挿入に、ふと疑問を感じた京子が自分の指を見ると、今まで陰部を弄っていた指にはコールタールのような真っ黒な液体がドロドロと付着していた。
 いつの間にか生理が始まっていた。徳山家の石床にはドス黒い生理の血が点々と滴り、それが不気味に月夜に照らされていた。
 男のペニスが膣の中を行ったり来たりし始めた。墓石にしがみつく京子は、花立ての中で揺れている腐った水の匂いを嗅ぎながら、出たり入ったりする肉の塊の感触を味わった。
(この男は数時間後に死ぬ……)
 そう思うと、凄まじい快感が京子を襲った。
 京子は自らも激しく尻を振りながら(この男は私とセックスがしたいが為にその命を引き換えにしたんだ)と激しい征服感に浸りながら獣のように乱れた。
「ああっ!」と叫んだ男が、いきなりペニスを抜いた。
 京子が振り返ると、血まみれのペニスをヒクヒクと痙攣させながら男がグッと下唇を噛んでいた。
 イキそうなのを我慢していると思った京子は、腰をくねらせながら「あなたはもうすぐ死ぬんだし、中で出してもいいわよ」と四つん這いの尻肉を更に開いた。
「はぁぁぁっ」
 男はそう呻きながら、血だらけの膣穴にペニスを突き刺した。その瞬間、生温かい精液が膣の中に注ぎ込まれ、男は京子の尻に抱きつきながら啜り泣いたのだった。
 それから三十分後、男は迷う事無く日暮里駅のホームに飛び込んだ。
 まさか本当に死ぬとは思っていなかった京子は、線路に飛び散る男の肉片を呆然と見つめながらも、なぜか無性に笑えて来た。
 そんな京子の指には、カサカサに乾いた生理の血がこびり付き、まるで剥げ掛けのマニキュアのようだった。男の飛び散った肉片を、ひとつひとつゴミ袋の中に拾い集めていく駅員達を見つめながら、京子はその指をペロリと舐め、鉄錆の味を確かめたのだった。


       ※


 事務所のドアの鍵を開けると、朝の光りに包まれた鈴木がぼんやりと机に座っていた。
 どうやら鈴木は帰っていないらしく、一晩中この机の上で「疲れた」や「眠れない」と呟いていたに違いなかった。
「部長、今日は早いんですね」
 京子は嫌味っぽくそう言いながらコーヒーメーカーのセットを始めた。
「まぁ……なんと申しますか……これが早いと思うかどうかは松枝さんの御想像にお任せします……」
 鈴木はそう呟きながら、脂ぎった髪を両手でガシガシと掻き始めた。
 鈴木の机の上には、一晩中そうしていた事を物語るかのように、大量のフケが粉雪のように積もっていた。
(完全に壊れてる……)
 京子はそう思いながらコーヒー豆の缶の蓋をパカッと開けると、それと同時にいきなり鈴木が叫んだ。
「発ガン性を疑えば疑うほど私のガン発生率はそれだけ増えていくのである!」
 その大声に驚いた京子は、「きやっ」と肩を震わせながら、持っていたコーヒー豆の缶を手から滑らせてしまった。
 大量のコーヒー豆がグレーのカーペーットの上に散らばり、辺りはまるで団子虫が大量発生したかのような惨劇となった。
「す、すみません部長」
 京子は慌てて床のコーヒー豆を拾い始めた。すると鈴木が、
「い、いえ、私がいきなりバカな事を叫んだりしたのが悪いのです、私が拾いますから、どうぞ松枝さんは……」
 と言いながら、慌てて床の豆を拾い始めた。
 2人は無言のまま床の豆を拾った。豆はそこらじゅうに散らばり、机の下やファックスの下にまで飛び散っていた。
 そんなファックスの下に転がる豆を、必死に指を伸ばしながらひとつひとつ取り出していると、ふと京子の視野で鈴木の動きが止まっている事に気付いた。
 京子は鈴木が何をしているのかすぐに気付いた。きっと鈴木はしゃがんだ私の尻をジッと見ているのだろうと察しが付いた。
 そう思った瞬間、生理が近い京子の胸の奥に淫らな感情がマグマのように湧いて出て来た。
(どうせこの壊れた男は遅かれ早かれ自殺するだろう。それならば……)
 京子は鈴木をソッと見つめながら、先月電車に飛び込んで自殺した親父を思い出していた。

 あの時の快感はいつまでも京子の股間に残っていた。死ぬ間際の男のペニスの感触が忘れられない京子は、あの事件があって以来、ネットで自殺系のエログロ動画を漁っていた。
 生理が近付いて来た京子は、昨夜もそんな動画を探し出しては明け方まで見ていた。
 それはネットで自殺宣言をした欧米人が、カメラの前で切腹するという実に残酷な動画だった。欧米人は何やらブツブツと呟いた後、何の躊躇いもなく腹にサバイバルナイフをプスッと突き刺し、そのままナイフを横に走らせながら腹を引き裂いた。コポコポコポっという血が流れる音と共に真っ黒な内臓が溢れ出し、それはロッキングチェアーに座っていた欧米人の太ももの上で、まるでエイリアンのように蠢いていた。
 平然とした表情でそれらを腹から取り出した欧米人は、いきなり「チャールズ!」と誰かの名前を叫びながらその内臓を床の上にぶちまけ、そのままダラリと萎れたペニスをスパっと切り取っては、蟹のようにブクブクと泡を噴いて絶命した。
 強烈に残酷な動画であり、ものの30分で削除されてしまったが、しかし京子には、『ハリーポッター』よりも面白く、そして『ET』よりも感動した動画だった。
 そんな動画をふと思い出した京子は、この壊れた鈴木の自殺が見たいと素直に思った。そのシーンを想像するだけで首筋がヒヤヒヤとし、おもわずアソコが濡れてしまった。

 京子はファックスの下の豆を取るフリをしながら、ソッと首を傾げては斜め後にいる鈴木を見た。
 案の定、床にしゃがんだ鈴木は京子の尻をジッと見つめていた。京子はそんな鈴木の視線を気にしながら、ゆっくりと床に両膝を立てては四つん這いになると、まるでヨガの『猫のポーズ』のように尻を天井に高く突き上げた。
 鈴木は目を大きく見開きながら、呆然と京子の尻を見つめていた。そして口をポカンと開けながら床に右頬を押し付けると、スカートの隙間からその中を覗き込もうとした。
 この男を自殺させるには、まずは性の奴隷にしなくてはならないと考えた京子は、更に鈴木を挑発しようと四つん這いになる股をゆっくりと開いた。
 鈴木は直ぐに反応した。大きく開いた目をギラギラと輝かせながら股を開いたスカートの中を覗き込み、そして右手で自分の股間をギュッギュッと握り始めたのだった。

 思ったよりも早く釣れた。この調子だと、今夜あたりには念願の自殺が見られそうだと細く笑う京子は、そのままゆっくりと起き上がった。
「豆が奥まで入ってて取れませんから、ホウキを持って来ますね」
 そう言いながら京子は、清掃道具が保管されているトイレへと向かった。
 トイレのドアを閉めると、京子はスカートをたくし上げた。案の定、ストッキングの股間はテラテラと輝き、パンティーから滲み出たいやらしい汁がネトネトと糸を引いていた。
 京子はそんなパンティーをストッキングごと脱いだ。ストッキングが絡んだパンティーを、わざと濡れたクロッチを上に向けた状態で便器の給水タンクの上に置いた。
 立ったまま股間を弄ってみた。生理前の陰部は陰毛までベットリと濡れており、その奥はハチミツの瓶の中に指を突っ込んだかのようにヌルヌルに濡れていた。
 京子はいやらしい笑みを浮かべながら、ネトネトに濡れたその指をペロッと舐める。口内にあの時と同じ鉄錆の味を感じながらトイレをソッと出たのであった。

 事務所に戻ると、鈴木は床の上に寝そべったまま何かブツブツと独り言を呟いていた。
「ホウキが見当たらなかったので、豆は私が後で拾っておきますから、部長は席にお戻り下さい……」
 京子はそう言いながらデスクに座った。
 鈴木は、「あぁ、いや、でも、私はどうせ暇だから……」とそのまま豆拾いを始め、京子が座ったデスクへとジワジワと近付いて来た。
 鈴木はデスクの下から、京子のスカートの中を覗き込もうとする魂胆だった。
 鈴木の生温かい鼻息が素足の脛に怪しく吹き掛かった。
(ほら……死ぬ前にたっぷりと拝ませてあげるわよ……)
 そう呟きながら京子はしゃがんでいる股をゆっくりと開いた。
 机の下で踞る鈴木の背中がビクッと揺れた。
 クラクラと目眩を感じながら股間に指を滑り込ませた。裂け目から溢れ出したいやらしい汁が事務椅子にまで垂れていた。
 そんな濡れた裂け目を指で開く。指でVサインを作りながら裂け目をパックリと口を開き、机の下の鈴木に向けて赤ピンクに輝く内部を剥き出しにしてやった。

 鈴木を挑発するかのように膣筋をキュッキュッと蠢かせた。
 いきなり蠢いた膣に驚いた鈴木は「ひやっ」と飛び上がった。その瞬間、見下ろす京子と見上げる鈴木の目が合った。
 慌てて目を反らす鈴木に、密かに笑みを浮かべる京子は、「やっぱり私が拾いますから……」と呟きながら立ち上がると、
「すみませんが部長、もう一度ホウキがないかどうかを見て来て頂けないでしょうか……」
 京子はそう呟きながら、静かにトイレを指差したのだった。

 トイレに向かう鈴木の後を京子は足を忍ばせながら付いて行った。
 トイレのドアを開けた鈴木は、給水タンクの上に置かれたストッキング付きの下着を見て絶句した。
 しばらくそれを見つめていた鈴木は、「うわぁ……イカの塩からのようにヌルヌルじゃないか……」と呟きながらそのヌルヌルに汚れたクロッチをクンクンと嗅ぎ始めた。
「ふわぁ……」と奇妙な溜息を付いた鈴木はゆっくりとトイレの壁に背を凭れかけると、感慨深く「チンカスのニオイがする」と呟いた。
 そんな鈴木のズボンの股間には、くっきりと肉棒の形が浮かび上がっていた。それを確認した京子は、(一気に落としてやる)と、半開きのドアを静かに全開させた。
「あばっ!」と驚いた鈴木は、そのままの状態で蝋人形のように固まっていた。
 京子は、鈴木の驚く目をジッと見つめながら後手でトイレのドアを閉めた。
「それ……私のショーツなんですけど……」
 京子はそう囁きながら、肉棒の形が浮かび上がる鈴木の股間に手を添えた。そしてスラリと長く細い5本の指をタコの足のように蠢かせながら浮かび上がった肉棒を優しく愛撫した。
「あ、いや、それは……」
 狼狽える鈴木をジッと見つめながら、京子は鈴木のズボンのボタンを外した。中から黄ばんだブリーフが顔を出し、京子の品やかな5本の指はそれを優しくズリ下ろしていった。
 京子の手の中で、ピーンッと突き立ったペニスがヒクヒクと脈を打っていた。京子はそれを優しく手の平に包み込むと、弛んだ皮を根元まで下げ、そしてすぐに弛んだ皮を先っぽまで戻した。
「お口でしゃぶって欲しいですか部長……」
 京子は鈴木の耳元で囁いた。
「い、いや、しかしそれは……」
「舐めて欲しくないんですか?……」
 京子は鈴木の耳に熱い息を吹き掛けるようにして甘く囁いた。
「そりゃあもちろんそうしてほしいが、しかし、私はここ最近……いや違う、昨夜は風呂に入っていないわけで……」
 そう狼狽える鈴木に怪しい笑みを残しながら、京子は鈴木の足下にゆっくりとしゃがんだ。
 鈴木のペニスは強烈なニオイを発していた。京子はそんなペニスの先を指で突きながら「凄く臭いですよ部長……こんな汚いモノを私にしゃぶらせるつもりなんですか」と険しい目つきで鈴木を見上げた。
「だから私は、最初から」
 京子は焦る鈴木をジッと見つめながら、ゆっくりと唇を開き、その強烈なニオイを放つペニスを喉の奥へと滑り込ませた。
「あぁぁっ」
 唸る鈴木を見つめながら、口内で脈打つ肉棒に舌を這わせ、カリ首の周囲から尿道にかけて激しく舌先を擦り付けた。
「あっ、松枝さん」
 鈴木が叫ぶと同時に京子はヌポッとペニスを吐き出した。
 唾液で唇を輝かせながら「やっぱり臭いです。最悪です」と呟く京子を、鈴木は今にも泣きそうな表情で見つめた。
「舐めて欲しいの?」
 京子はゆっくりと立ち上がりながら鈴木に聞いた。鈴木はまるで子供のようにコクンと頷いた。
「じゃあ私のチンカス臭いオマンコも舐めてよ……」
 そう言いながら京子が便座に片足を乗せた瞬間、鈴木は土下座をするかのようにトイレの床に跪いた。
 鈴木が京子の股間に唇を押しあてた瞬間、ばぷっ! という音が響いた。鈴木は両手で膣を広げながら、べちょ、べちょ、べちょ、と下品な音を立てて舐めまくった。
 そんな鈴木のクンニは最低だった。ただただ薮から棒に舌を動かしているだけで、一番感じるクリトリスは全く無視していた。
「ヘタクソねぇ……」と大きく溜め息をついた京子は、イライラしながらも再び鈴木を立たせた。そして、「す、すみません……」とあたふたになる鈴木の足下にもう一度しゃがむと、ペニスを口一杯に頬張った。
 顔を上下に揺らしながら、ぷちゃ、ぷちゃ、ぷちゃ、とリズミカルにしゃぶってやった。口内でペニスを包み込むようにしながら舌をスクリューさせ、窄めた唇で竿を刺激する。
 ぷちゃっ、とペニスを口から抜くと、大量の唾液がトイレのタイル床にニトーッと垂れた。
「部長は、私とセックスしたいですか?」
 京子は、鈴木が不発しないように、そのヌルヌルのペニスを微妙に手コキしながら聞いた。
「ヤらせて頂いてもいいんですか?」
 鈴木は血走った目で京子を見下ろしながら聞いた。
「……ヤらせてやってもいいけど……私のお願いを聞いてくれますか?……」
 鈴木はゴクリと唾を飲み込みながら、「な、なんでしょう」と顔を曇らせた。
 京子はゆっくりと立ち上がった。そして鈴木の唇をペロリと舐めながら、給水タンクの上に放置されているストッキングとパンティーを手にした。
「どっちみち、こんな所じゃセックスできませんから……場所を変えましょうか部長……」
 京子はそう言いながら濡れたままのパンティーをスルスルと履き始めた。
 そんな京子をジッと見つめながら、鈴木はポツリと呟いた。
「さ、最初に断っておきますが、か、金なら……ありませんよ……わ、私は闇金にまで手を出してしまい……本気で自殺を考えているくらいですから……」
 そんな鈴木に京子はニヤッと微笑んだ。
「部長は死にたいんですか?」
「…………」
 鈴木はウツ病独特の目で、トイレの天井を見上げた。
「本当は……昨夜、このトイレで首を吊るつもりでした……」
 京子は履いたストッキングのゴムを腹でパチッと鳴らすと、「どうして死ななかったんですか?」と聞いた。
 鈴木は深い溜息を付いた。そして「怖くて死ねなかったんです……」と呟くと、水道の蛇口を捻ったかのようにダラダラと涙を流し始めたのだった。

        ※

 砂埃舞う歩道を、脱北者のように脅える鈴木と並んで日暮里駅に向かって歩いた。いつもの交番の前を通り、パチンコ屋の前を過ぎ、駅の改札口を潜る。二人がホームに立つと、線路を挟んだ向かいのホームに例の男がぼんやり浮かんでいるのが見えた。
「どこに行くんですか……」
 鈴木は溜息を吐くように気怠い声で呟いた。
「どこがいい?」と真っ赤な口紅を歪ませながら、京子は鈴木の尿道に爪楊枝をズズッと突き刺すのを不意に想像しては背筋に官能的な寒気を走らせた。
 すると突然、向こう側のホームにいた男が京子に向かって何か叫んだ。男は今までに見せた事のない険しい表情で京子を睨んでいた。ネクタイを引き千切り、ワイシャツの胸を破き、両手で頭を掻きむしりながら必死で何かを叫んでいる。
 しかし、そんな化け物の叫び声は何一つ聞こえては来なかった。そんな化け物を無視しながら、「どこでセックスしたいの?……ラブホテル? それともそこの霊園でする?」と、細い指を鈴木の指に絡ませながらそう聞くと、不意にゆっくりと顔を上げた鈴木は、虚ろな目つきで正面のホームをぼんやりと見つめながらボソリと呟いた。
「……あの人、なんだか凄く怒ってますね……松枝さんのお知り合いですか?……」
 京子は一瞬心臓が止まるかと思った。ゾッとしながら鈴木に振り向き、真っ青な表情で「あの人が見えるの?」と鈴木に聞くと、鈴木は目ヤニだらけの目をゆっくりと京子に向けながら「松枝さんに殺されたって叫んでますよ……」と、精気の抜けた表情で微笑んだ。
 そこに急行電車が滑り込んで来る音が近付いて来た。京子は、どうして鈴木にあの男が見えるのかと愕然としながらも、おもわず鈴木の肩をポンっと押してしまった。
 いとも簡単にフラフラっとヨロめいた鈴木の体は、まるで何かに操られているかのように線路へと進んだ。そして地獄の底に吸い寄せられるかのようにそのままホームの下へとスッと消えた。
 その瞬間、向かいのホームにいた男がニヤリと微笑んだ気がしたが、しかし、一瞬にしてホームに滑り込んで来た急行列車に視界を遮られ、本当に男が微笑んでいたかどうかわからなかった。
 激しい風圧が、ホームのギリギリに立っていた京子をガバン!っと撥ね除けた。ギギギギギッというブレーキの凄まじい音と、駅員が必死に吹き捲くる笛の音が京子の背後を走り過ぎていった。
 若い女の悲鳴が聞こえた。誰かが「救急車!」と叫ぶ声が聞こえ、同時にけたたましい非常サイレンの音がホームに鳴り響いた。そんな喧騒とサイレンの音を聞きながら、ホームで呆然と立ちすくむ京子はイッた。指を使わずしてイったのは生まれて初めてだった。

       ※

『私の目の前で、勝手に男達が死んでいくんです』
 警察の取調べでそう供述した京子は、鈴木以外の自殺をどこで目撃したのかと刑事に聞かれ、誰もが耳を疑うような衝撃的な自供を始めた。
 谷中霊園廃墟小屋首吊り自殺、ステーションポートタワー飛び降り自殺、荒川四ツ木橋入水自殺、鶯谷ラブホテル切腹自殺、そして日暮里駅飛び込み自殺……。
 京子が目撃した自殺は全部で六件。その中には、京子の供述により谷中霊園の廃墟小屋から行方不明者の変死体も新たに発見された。
 そんな自殺者たちは全員が精神病を患った中年男性だった。そして、その誰もが京子と肉体関係にあった。
 が、しかし、京子が殺したという証拠はどこにもない。

 そんな京子は、今日も日暮里駅のホームに立っていた。京子の身体から発せられるその匂いたつような色気に、ホームにいたどの男達もゴクリと唾を飲む。
 埃を撒き散らしながらホームに電車が滑り込んで来た。そんな京子の魅力に引き寄せられた男達が競い合うかのように京子の背後に並んだ。
 そんないつもの光景をホームの向こう側から見ていた男達がニヤリと微笑んだ。そう微笑む男達は、全員が裸足だった。

(日暮里サドマゾ事件・完)



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