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ストックホルム1


【ストックホルム症候群】

〔誘拐や監禁の被害者が、極限状態の中で犯人に同情や連帯感を抱くこと。一九七三年にスウェーデンのストックホルム市で起きた銀行強盗においては、一週間に及ぶ立てこもりの末に人質が解放された。その後、元人質たちが犯人をかばう証言をしたり、警察を非難したりしたほか、元人質の一人が犯人と結婚するに至ったことで注目され、この名が付けられた〕





ふと目を開けると、レースのカーテンの向こうに広がる真っ青な空が目に飛び込んで来た。
庭から子供達の声が聞こえて来た。
剛志が「やったぁ!」と叫び、由佳里が「お兄ちゃん卑怯よ!」と叫んだ。
子供達が一斉に芝生の上をバタバタと駆け回る足音が響くと、興奮したジョンがバウバウと吠えまくり、剛志の「琢磨くんこっちこっち!」と言う声が庭の向こうへと遠離って行ったのだった。

(琢磨くんが遊びに来ているのか………)

寝返りを打ちつつ正面の壁の時計を見た。
時計の針は十時を指していた。
日曜の朝はどうしていつも晴れているんだろう。
そう思いながら羽毛枕に顔半分を埋め、再び目を閉じた。



「あなた、あなたったら……」

耳元で掛け布団がカサカサと鳴っていた。

「ねぇ、起きてよ……」

微かに妻の声が聞こえ、大きなアクビと共に目を開けると、ベッドの脇に唇を尖らせた妻が立っているのが見えた。

「いつまで寝てるのよ、もうお昼よ」

平凡なサラリーマンの、正しい日曜の目覚めだった。

「まだいいじゃないか、日曜なんだし……」

平凡なサラリーマンの決まり文句を呟きながらもう一度枕に顔を押し付けようとすると、妻が「もう」と言いながら掛け布団を引っ張った。

「お義母さんの具合が悪いらしいのよ。これから実家に行って来るから、剛志たちを塾まで送ってほしいの」

「塾?……日曜なのに塾に行くのか?……」

寝ぼけ眼で呟く私に、妻は鼻でふんっと笑いながら、「日曜だから行くのよ」と、掛け布団を強引に剥がしたのだった。


背伸びをしながらリビングへと下りて行くと、テレビの前のソファーに見知らぬ女がポツンっと座っていた。
一目見て綺麗な女だとわかった。
レースのカーテンから注ぎ込む午後の日差しに照らされたその女は、全身から溢れる『イイ女』のオーラに優しく包まれていた。

女は私を見るなり、「あっ」と小さく呟くと、慌ててソファーを立ち上がり、「こんにちは」と上品に頭を下げた。
私はパジャマ姿だった。
しかもそれは、青と白の縞柄模様という、平凡なサラリーマンの正しいパジャマだった。

「ああ、はい、えっと……あれ?」

恥ずかしさのあまりに何が何だかわからない返事をしながら首を傾げると、女はそんな私に柔らかい笑顔を向けながら、「いつもお世話になってます、琢磨の母です」と、もう一度上品に頭を下げた。
そこに妻が慌ただしく飛び込んで来た。
大袈裟なスカーフを首に巻きながら、「あなたまだそんな格好してるの、早く準備してよ時間がないんだから」と、暗に私の縞柄模様のパジャマを貶した。

「ああ、うん」

昭和スタイルのこの縞柄パジャマに、少なからずも羞恥心を覚えた私は、隠れるようにとぼとぼと洗面所へ向かう。
すると再び妻が私を呼び止めた。

「こちら琢磨くんのお母さん。琢磨くんも同じ塾だから、子供達を塾に送った後、奥さんを自宅まで送ってほしいの」

妻がそう言うなり、奥さんは「お手数掛けてすみません」と、申し訳なさそうに頭を下げた。

「全然かまいませんよ。お気遣いなく」

私はそう答えながらそそくさと洗面所に向かった。
日曜の朝から運転手とは実に忌々しいが、しかし、今からあの綺麗な奥さんとドライブできると思うと、廊下を進む私の頬は、煮過ぎた雑煮の餅のように緩んでいたのだった。


助手席に琢磨くんのお母さんが乗った。
妻は途中で降りるからという事で、子供達と一緒に後部座席に乗った。
車は、平凡なサラリーマンらしく日産のサニーだった。

車を走らせている間、後部座席から顔を出す妻と奥さんがヒソヒソと話しをしていた。
「旦那さんの具合はどうなの」と言う妻の言葉に、奥さんは返事をせぬまま静かに首を振った。
旦那は病気なんだろうか?
郵便局の前で妻を降ろした。
私の実家は路地裏にあるため車が入れないのだ。
「帰りはタクシーで帰るから。それと、子供達も帰りはバスで送ってもらえるから迎えに行かなくてもいいわ」
妻は助手席の窓を覗き込みながら私にそう言うと、奥さんと子供たちに「じゃあね」と小さく手を振り、郵便局の横の細い路地に消えていった。

妻が車を降りた瞬間から、私と奥さんとの会話がプツリと途切れた。
後部座席では剛志と琢磨くんがポケモンの玩具で遊び、由利香がジャポニカ学習帳を開いていた。
日曜日のせいか、駅前の交差点は家族を乗せた車で渋滞していた。
長い車の列がやっと動き出したかと思えば、百メートルしか進んでいないのにまたしても信号に捕まった。

「時間、間に合いますかね……」

巨大なステーションビルを見上げながらそう呟くと、助手席の奥さんが腕時計をチラッと見ながら「まだ十五分もありますから大丈夫だと思います」と笑った。
すると突然、運転席と助手席の間から、ジャポニカ学習帳を広げた由佳里がヌッと顔を出した。

「おばさん、この分数の足し算がわからないの……」

由佳里はそう言いながら、表紙にヤドカリの写真が載っている趣味の悪いジャポニカ学習帳を助手席の奥さんに向けた。
おもわず私が「おばさんって言い方はないだろ由佳里」と笑うと、奥さんは大きな目を餃子のように歪めながら、「もう三十ですからおばさんです」とクスクス笑った。

全く動こうとしない車のハンドルに凭れながら、由佳里のノートを覗き込む奥さんを横目でソッと見た。
もう三十才だからと恥ずかしそうに笑った奥さんのその笑顔は、無邪気な少女のように可愛かった。
奥さんが笑う度に、なにやら甘い花のような香りが弾けるような気がした。
私は歩道に連なるお店を見るフリをしながら、奥さんのスカートから伸びる脚に視線を落とした。
スラリと細く、それでいて肉付きの良い、見事な美脚だった。
そのまま恐る恐る視線を上げて行く。後部座席では剛志と琢磨くんが『なめこのうた』を口ずさんでいた。

「分数の足し算はね、分母が同じじゃないと計算できないの。だからまずは通分しなくちゃなんないんだよ……」

奥さんは保母さんのように優しく由佳里に語りかけながら通分のやり方を教え始めた。
ふと、運転席側に体を傾けながらジャポニカ学習帳を覗き込んでいた奥さんの胸元が見えた。
Eカップは優にありそうな乳だった。
生クリームのような白い肌に、まるでマシュマロのように柔らかそうな乳が魅力的な谷間を作っていた。
その白い谷間では、フロントガラスから注ぎ込む直射日光に照らされたティファニーのオープンハートのネックレスがキラキラと輝き、エロくも幻想的な雰囲気を醸し出していた。

(なんて綺麗な胸なんだ……)

その乳肉におもいきり顔を埋めたいと思いながら、乾いた喉にゴクリと唾を飲み込むと、ふと奥さんと目が合った。
焦った私は慌ててノートを覗き込みながら、「まだ二年生なのに分数を教えるなんて、さすがエリート塾ですね」と驚いたフリをすると、奥さんはクスッと微笑みながら「青です」と信号を指差した。
そんな奥さんの唇からキラリと光った真っ白な前歯は、ティファニーのネックレスの輝きよりも私を惑わせたのだった。

塾の前で子供達を下ろした。
県内でも有数なこのエリート塾は、目ん玉が飛び出るほどの月謝をふんだくられた。
いかにも裕福そうなガキ共がゾロゾロと建物の中に吸い込まれて行った。そのブルジョアなガキ共の列に混じる我が子を見ていると、おもわず優越感を感じたが、しかし私の車は中古の日産サニーだった。

そのまま駅裏の大通りを過ぎ、国道に出た。
「そこを右にお願いします」
「その角を左にお願いします」
そう告げる奥さんは、その度に申し訳なさそうに深々と頭を下げた。
そんな奥さんが堪らなく可愛く思えた。
あなたの為なら北海道まで、いやアメリカまでだって喜んでお送り致します、と心で叫ぶ私は、汗ばんだハンドルを握りながら、この時がいつまでも続けばいいと本気で思っていた。

小さな橋を渡ると、奥さんは川沿いに建っていた白い家を指差して「そこです」と呟いた。
こじんまりとした一軒家だったが、新築らしき壁はひときわ白く輝いていた。
恐らくあの外壁からして、この家は『セキスイハウス』だろうなと思いながら、妙に豪華な門扉の前で車を停めた。

「あのぅ、よろしかったらお茶でもいかがですか?」

大きな目で私を見つめながら奥さんがそう笑った。
思いもよらぬサプライズに私は焦った。

「あ、いや、しかし、旦那さんの具合が悪いんじゃ御迷惑でしょうから……」

そう呟きながらも、心の中では(バカ! いらん事を言うな!)と自分を責めた。

すると奥さんは「いえ」と小さく首を振ると、「旦那とは別居してるんです。だから遠慮なさらずにどうぞ」と明るく笑い助手席のドアを開けた。

旦那とは別居しているから遠慮なさらずに……。
非常に意味ありげな言葉だった。
いや、決して奥さんはそんなつもりで言ったのではないと思うが、しかし私の胸は激しい期待に膨らんだ。

「それじゃあ少しだけ……」と呟きながらエンジンを止めた。
急に静まり返った車内に、奥さんが助手席のドアを閉める音が響いた。
誰もいない家で旦那と別居している人妻と二人きり……。
込み上げて来る期待感に胸を押し潰されながら、ふと助手席の窓を見ると、玄関前の階段を上って行く奥さんの後ろ姿が見えた。
キュッとくびれたウェストに、ムチムチとした上品な尻が、右、左、右、左、っと交互に歪んでいたのだった。





玄関に入る前から既にいい香りに包まれていた。
玄関に入るとその香りは更に強くなり、その香りが下駄箱の上に置いてあるお洒落な消臭剤だと知った瞬間、ウチにも同じ消臭剤があるのになぜウチの玄関は臭いんだという怒りが込み上げて来た。

「どうぞ」とスリッパを出してくれた奥さんの胸元に、私の視線が再び釘付けになった。
「では、お邪魔します……」と胸元を覗きながら靴を脱いだ。
ウチの玄関が臭いのは剛志のスニーカーが臭いからだ、と、そう一人息子を激しく責めながらスリッパを履いた。
そのスリッパは、平凡なサラリーマンの私の革靴よりも明らかに高価なスリッパだった。

一直線に続く長い廊下を奥へと進んだ。
廊下にはいくつものドアがあった。
この狭い敷地をフル活用するなんて、さすがはセキスイハウスだと感心していた私だったが、そのリビングに入った瞬間、更に目を見張った。
二十帖はあろうかと思われる広いリビングは、裏の小さな箱庭とウッドデッキで繋がっては素晴らしい開放感を醸し出していた。
おもわず、「なんということでしょう……」と、ビフォーアフター的な独り言を呟いてしまった。

細い洋木がウヨウヨと生えるお洒落な庭を眺めながら、奇妙な香りを漂わせる紅茶を啜った。ズルズルと啜る度に、ひと昔前の車の芳香剤(ポピー)のような香りが口内に広がり、本気で糞不味いと思った。
しかし、このフランスのオープンカフェのようなお洒落なテラスで、綺麗な奥さんと二人きりで語らえるのは幸せだった。こんなシチュエーションなら本物のポピーでも飲めると思った。

リビングの奥ではボサノバらしき曲が流れていた。心地良いギターの音色がテラスにまでさりげなく流れて来た。
春の爽やかな風とボサノバの曲に包まれながら、子供の話しや塾の話しをした。
子供や塾の話しなどどうでも良かった。私は奥さんの話しに曖昧に頷きながら、奥さんのピンクの唇や柔らかそうな胸を見つめては卑猥な妄想に耽っていたのだった。

学校の話題になると、来月の『父兄参観』の話しになった。
その話しの流れで、旦那さんの話題になった。

「三年前、主人が勤めていた会社が急に倒産したんです。十年も頑張って来た会社だったから本人は相当ショックだったらしくて……それで心の病を患ってしまったんです。今は千葉の有名な心療内科の病院に入院してるんです………」

そうしんみりと呟く奥さんの大きな瞳に、春風にサワサワと揺れる洋木の緑が映っていた。
いきなりの告白に私は戸惑った。
さすがに心療内科系の話題は重すぎた。

「旦那さんとは、いつから別居なされてるんですか?」

入院とは言わず、あえて『別居』と聞いた。

「……二年前です。一時は良くなって退院できそうだったんですけど、半年前にまた悪化しまして……」

「ウツ病……ですか?」

「ウツも入ってるんですけど……重度のアルコール依存症なんです……」

聞かなければ良かった、と本気で思った。
調子に乗ってウツですかなどと聞いた為に、空気は更に重くなった。
私は、『アルコール依存症』という悲惨な病名に、何と答えていいのかわからぬまま、ただひたすらに芳香剤臭い紅茶を啜った。
そんな私の様子に気付いたのか、突然奥さんは「あっ」と小さく呟いた。

「変な話ししちゃってごめんなさい……」

奥さんは、白いガーデンチェアーに尻をモゾモゾさせながら、申し訳なさそうに微笑んだ。
そして慌てて話題を変えようとしたのか、「今日はとってもいい天気ですね」と無理に微笑みながら、私のカップに紅茶を注ごうとした。

「いえ、もう結構ですからおかまいなく」と、私がその罰ゲームのような紅茶を断ろうとした瞬間、奥さんが手にする白い急須から紅茶がトロッと零れ、それが私の太ももにピチャっと落ちた。

「あちっ!」

思わずそう叫ぶと、慌てた奥さんが「ごめんなさい!」と顔を引き攣らせながらリビングへと走った。

ズボンの太ももには煙草の箱くらいのシミが出来ていた。
シミはどうでもいいのだが、妙にネトネトして気持ちが悪い。
慌てて白いタオルを持って来た奥さんに、「大丈夫ですから気にしないで下さい」と告げた私は、「できれば洗面所をお借りしたいのですが……」と、願い出た。
ズボンに染み込んだネトネト紅茶を、一刻も早く洗い流したかったのだ。

奥さんはすぐに私を洗面所に案内してくれた。
中庭に面した小窓から優しい光りが注ぎ込む洗面所に入ると、高級そうな洗濯洗剤の香りと甘いボディーソープの香りが私を包み込んだ。
貸して貰ったタオルの端に水を染み込ませ、それを太もものシミにトントンと押し付けた。
それを何度も繰り返しながら、ふと洗面所の棚を見ると青い歯ブラシとピンクの歯ブラシが並んでいた。
毎朝このピンクの歯ブラシが奥さんの口の中に入っているのかと思うと、異様な性的興奮がムラムラと下腹部に溜って来た。

「そこにドライヤーがありますから、それで乾かして下さい……」

ドアの影から覗いていた奥さんは、ビショビショに濡れた私の太ももを見つめながら申し訳なさそうに呟いた。

奥さんが指を差した棚からドライヤーを取り出すと、そのままドライヤーの口を太ももにあててスイッチを押した。
フォォォォォォンっという音と共に熱風が飛び出した。
しかし、ものの十秒もしないうちに、私は再び「あちっ!」と叫びながら飛び上がった。
そんな私の姿を見て、奥さんがプッと笑った。
おもわず私もブッと吹き出した。

「ズボンを脱いで乾かしたほうが良さそうですね……」

奥さんは必死に笑いを堪えながら洗面所のドアを静かに閉めた。そしてドア越しに「ごめんなさい」と呟きながらリビングへと走り去った。
そんな奥さんの笑顔と仕草は、少女のように可愛く、そして無邪気だった。

脱いだズボンを床に広げ、濡れた部分にドライヤーを押しあてていた。
実にマヌケな光景だった。いったい俺は何をしてるんだと、深い溜息が漏れた。
そうしながらも洗面所を見回していると、浴室の入口の横に乾燥機付きの巨大洗濯機と脱衣カゴが並んでいるのが見えた。
その脱衣カゴには洗濯物が押し込まれたままだった。あの洗濯物の中に奥さんの下着が混じっているのかと思うと、なぜか異常な程の焦りを覚えた。

「見たい」、と思った瞬間、「見よう」と立ち上がっていた。
リビングの奥さんに怪しまれないよう、ドライヤーを付けっぱなしにしたまま、恐る恐る脱衣カゴの蓋を開けた。
洗濯物の一番上には、琢磨くんのトレーナーが無造作に押し込んであった。
ドキドキしながらトレーナーを剥ぐると、同じく琢磨くんの半ズボンと靴下が出て来た。

(早くしないと………)

そう焦りながら、床で熱風を吐き出すドライヤーを心配そうに見つめ、慌てて洗濯物の中に手を押し込んだ。
脱衣カゴの底には使用済みのバスタオルが丸まっていた。
ひんやりと湿った感触を指に感じながらバスタオルを剥ぐると、ピンクの花の刺繍が施されたクリーム色のブラジャーが出て来た。
カップの部分にワイヤーが嵌め込まれたそのブラジャーは、赤子の頭がすっぽりと入りそうなほどの巨大カップだった。

しかし私はブラには興味がなかった。
私が探し求めているものは、あの上品な奥さんの汚れたパンティーだけだった。
ハァハァと荒い息を洩らしながらブラジャーの下にある白いTシャツを捲った。
小さく丸まった茶色いパンティーが汐らしく転がっていた。
ゴクリと唾を飲みながらそれを摘まみ上げ、素早くクロッチを広げると、おもわず私は唸り声をあげた。
茶色いクロッチには、奥さんの陰部から滲み出た分泌物が、乾いた鼻水のように白くカサカサとこびりついていたのだった。

(つづく)

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