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中卒少女(後編)

2012/11/17 Sat 04:25

中卒2




 真奈美とはそれっきりだった。
 あの時、真奈美を置いて逃げ出してしまった事を怒っているのか、あの日以来、真奈美は僕と目を合わせようとはしなかった。
 しかし僕はまだ諦めていなかった。真奈美と二人きりになるチャンスを虎視眈々と伺っていた。

 その頃、いよいよ真奈美はみんなから飽きられ、今では昭夫さえも真奈美に奉仕させなくなっていた。
 今まで下着を履く暇もないくらいに忙しい公衆便所だったのが、今ではシーズンオフのスキー場の公衆便所のように静まり返っていたのだ。
 そんな状況だったため、今度こそ僕は真奈美とヤれる、と、そのチャンスを虎視眈々と狙っていたのだった。

 しかし、そんな矢先、またしても邪魔者が現れた。
 それは、暴走族の先輩達がマンションに連れて来た中年親父達だった。

 あの日、麻雀をしていた僕と裕介と南商業高校の坂田と森の四人は、いきなり昭夫に外に連れ出された。
 マンションの埃臭い廊下で、昭夫は「大貫先輩に頼まれちゃってさぁ」と前置きしながらも、「悪ぃけど、今から一時間ばかしコンビニで暇潰しててくれねぇかなぁ」と言った。そして、裕介に二千円を渡し、「これ、部屋代だから」と笑ったのだった。

 大貫先輩の命令には絶対に逆らえなかった僕達は黙ってマンションを出た。
 マンションの階段を下りると、丁度そこに大貫先輩の古いセルシオが到着した。セルシオの助手席と後部座席には、妙に気持ちの悪い中年の親父が三人乗っていた。
 僕はそのスモークが貼られた後部座席を横目で見ながら、今から真奈美は、あの気味の悪い親父達にヤられるのかと思うと、一人取り残された部屋で何も知らずにプレステで遊んでいる真奈美が可哀想で仕方なかった。

 僕達はコンビニのベンチで蚊に刺されながら二時間待った。終わったら電話すると言っていた昭夫だったが、約束の一時間を過ぎても連絡がなかった。時刻は一一時を過ぎていた。

 裕介達は二本目のガリガリ君を齧りながら、マンションに入って行ったあの中年のおやじ達の醜い風体を思い出しては、あのハゲ親父はぜってぇに包茎だ、や、あのデブ親父は強烈なワキガだ、などと勝手に想像しまくり、声を出して笑い合っていたが、僕は笑えなかった。
 しかし、不意に商業高校の坂田がポツリと呟いた。
「あんな汚ねぇオヤジ達にヤられるなんて……最悪だよな……」
 坂田のその言葉で、急にみんなが口を噤んだ。きっとみんなも僕と同様、心の奥底では、あの汚い親父達にヤられまくる真奈美に複雑な気分を抱いていたのだろう。

 三時間が経った頃、静まり返った夜の路地を昭夫がポツポツと歩いて来るのが見えた。
 昭夫に向かって、みんなが口々に「おせぇよ」と責め立てた。しかし昭夫は深刻な表情を崩さないまま、夜蟲が蠢くベンチに黙って腰を下ろしたのだった。

 そんな昭夫の様子は明らかに変だった。いつもなら誰かが食べているガリガリ君を奪い取り、欠けた前歯に煙草を差し込みながらあーだこーだと調子良く話し出すのに、その時の昭夫は、まるで幽霊でも見たかのように黙りこくっていた。
 しかも、コンビニの店内の明かりに照らされた昭夫のその顔は、まるで試合を終えたボクサーのようにボコボコに腫れていたのだ。

「……なんかあったの?」

 裕介が食べかけのガリガリ君を昭夫に渡しながら心配そうに聞いた。
 昭夫は深刻そうに「うん……」と頷くと、夜蟲が集る街灯をジッと見つめながらガリガリ君を一口齧り、すぐにそれを「うぇ」と吐き出しながら、「口ん中がビロビロに切れてて痛てぇよ」と顔を顰めた。
 ベンチの下に吐き出された昭夫の唾液は、まるで氷イチゴを食べた後のように真っ赤に染まっていた。

 何か凄いことが起こったんだと予感した僕達は、そんな昭夫を黙って見ていた。
 ベンチの下には血混じりの唾が点々と広がっていた。前屈みになりながらそれをジッと見つめていた昭夫が、不意に消え入るような声でポツリと呟いた。

「ありゃあ、地獄だ……」

 真奈美が三人の親父達に犯される光景を部屋の隅で終始見ていたという昭夫は、それを迷う事無く『地獄』と表現した。

「あの地獄は思い出すだけで身の毛がよだつよ……」

 潰れた目にうっすらと涙を浮かべながらそう呟いた昭夫は、血混じりの唾液に群がる夜蟲を靴裏でジリッと踏み潰した。そして、静まり返った深夜のコンビニの駐車場に向かって、ふーっと深い溜息をつくと、その地獄とやらをぽつりぽつりと僕達に語り始めたのだった。

 あの親父達は、暴走族の先輩達がよく行くパチンコ店の常連客だった。
 その日、有り金を全部パチンコですられた大貫先輩は、なんとかその分を取り返そうと、常連の親父達に「たったの五万円で十七才の家出娘を好きなようにしていいぞ」と話を持ち掛けた。
 十七才という言葉に目の色を変えた親父達は、「本当に何をしてもいいんだな」と念を押しながらも三人で金を出し合い、「殺したっていいぜ」と笑う大貫先輩に五万円を渡したのだった。

 裕介の部屋へ行くと、部屋の隅でプレステで遊んでいた真奈美が、いつもと違うその雰囲気に顔を強張らせた。

「なかなか可愛い女の子だろ。ピチピチの十七才だ。オマンコの具合も悪くねぇぜ」

 大貫先輩は、下品な笑みを浮かべながら親父達にそう説明すると、昭夫に「あとは頼むぞ」と言ったっきりそのまま部屋を出て行ってしまった。
 一人取り残された昭夫は、脅えている真奈美に「心配すんな、俺が見張っててやっから乱暴はさせねぇよ」と耳元に囁くと、部屋の隅にソッと腰を下ろしたのだった。

 親父達は、震える真奈美を見下ろしながら無言で服を脱ぎ始めた。今までニヤニヤと笑っていた親父達の表情は険しく、まるで獲物を追い詰めたオオカミのような鋭い目で真奈美を見下ろしていた。

 全裸になったハゲの親父が、充血した目で真奈美を見つめながら、いきなり真奈美の細い手首を乱暴に掴んだ。
 おもわず「痛い」と肩を窄めた真奈美が、畳の上にプレステのコントローラーを落とすと、今度は百キロは超えていると思われる巨大デブの親父が「ほら、早く脱げ!」と怒鳴りながら真奈美の髪を掴み、床に転がるコントローラーを蹴飛ばした。

 傍若無人な振る舞いだった。それはまるで、ひと昔前の戸塚ヨットスクールの教員が、非行少年の部屋に乗込んで来たかのような、そんな乱暴さだった。
 見かねた昭夫が、親父達の背中に向かって「ちょっと待てよ……」と声を掛けた。
 その瞬間、いきなり馬のような出っ歯の大男が昭夫の胸ぐらを掴み、「なんだおまえは、なんなんだおまえは」と叫びながら、柔道技のような蹴りで昭夫の身体をひっくり返した。
 ドン!っと床に転がされると部屋中がグワンっと揺れた。ペニスを剥き出しにした親父達三人がひっくり返った昭夫を取り囲み、無言で一斉に襲い掛かって来た。

 そこらじゅうを殴られ蹴られる昭夫は、まるで大波に飲み込まれたように息をする間もなく、ただただ必死にもがいていた。
 親父達の拳は、休む間もなく昭夫の身体に食い込んだ。一見、滅茶苦茶に殴っているようだったが、しかし、親父達のその拳は確実に急所を狙っていた。耳の裏、鳩尾、鎖骨、脛、膝、と、痛い所ばかりに拳を打ち付けて来るのだ。
 今まで、先輩達にヤキを入れられる時でも、頬か腹しか殴られなかった昭夫は、この奇妙な暴行に気味が悪くなった。
 馬のような出っ歯の男が、昭夫の顔を左手で押さえつけながら、右の拳でエラ骨を殴った。ゴキッという鈍い音が脳に響き、一瞬、気絶しそうになった。
 こいつらはプロだ、とそう思った瞬間、昭夫の恐怖は倍増した。そして、今からこいつらにヤられる真奈美はいったいどうなってしまうんだろうと胸が締め付けられた瞬間、昭夫の目の前に大きなガラス製の灰皿がパッと飛んで来た。
 ゴッという音と共に、昭夫の目の前は一瞬にして真っ暗になったのだった。

 しばらく昭夫は気絶していた。真奈美の泣き叫ぶ声でふと目を覚ました昭夫だったが、しかし既に戦意は失せていた。日頃、暴走族でイキがっていた昭夫も、今度ばかりはさすがに肝を潰していた。

 部屋の隅に投げ捨てられていた昭夫は、親父達に気付かれないようソッと顔を上げた。まるで水道の蛇口を捻ったかのように、ドボドボドボっと鼻血が流れた。
 そんな昭夫の目に、男達に羽交い締めにされながら必死にもがく真奈美の姿が映った。助けてやりたいが助けてやれなかった。初めて味わった恐怖に、怖くて身体が動かなかった。

 今まで暴走族の先輩達から数えきれないほどにヤキを入れられて来た昭夫だったが、しかし、この親父達の暴力は先輩達のヤキとは明らかに違っていた。先輩達のヤキは肉体的な苦痛だったが、しかし親父達のそれは、全身が凍りつくような精神的な恐怖だった。

 いつの間に失禁したのかズボンの股間がべっしょりと湿っていた。
 奥歯がガチガチと震えるのを必死に堪えながら、そのまま気絶した振りをした。目を覚めた事がバレたら、今度こそ殺されると思った昭夫は、震える息を潜めながら、目の前で陵辱される真奈美を見ていたのだった。

 三人に同時に攻められていた真奈美は、抵抗する度に顔を殴られていた。もはや真奈美の顔は原型をとどめないほどに腫れ上がっており、白いシーツは赤いヒョウ柄のように血が飛び散っていた。

 三人の親父は完全に狂っていた。
 ハゲの親父は、真奈美の口内から折れた前歯を摘まみ上げ、ニヤニヤと笑いながらそれをガリガリと奥歯で噛み砕いていた。
 デブの親父は、血まみれの真奈美の口内にペニスを捻り込み、「噛んだら目を潰すからな」と言いながら真奈美の瞼に親指の爪を押し付け、そのまま真奈美の口の中に小便をした。
 そして最も異常だったのが出っ歯の親父だった。こいつは真奈美の右足にしがみつきながら、カッターナイフの先で真奈美の足に傷を付けていた。太ももから足首まで、約二センチ程度の切り傷を無数に作り、傷口からジワっと滲み出る血をペロリと舐めては自分でペニスをシゴいていた。

 そんな異常な親父達に犯される真奈美は、もはや死体と化していた。もしかしたら本当に死んでいるのではないかと思うくらいぐったりしており、親父達に何をされようと、黙ったままぼんやりと天井を見つめていた。

 しかし、そんな真奈美が一度だけ絶叫した。
 それは、足にしがみつく出っ歯親父が真奈美の脹ら脛にカッターナイフの先を突き刺した時だった。
 真奈美が絶叫したのは、カッターナイフが突き刺さされた時でなく、その四センチほど切られた深い傷口に、出っ歯の親父がペニスを突き刺した瞬間だった。
 突き出した唇から血と涎を吐き出しながら、真奈美は絞め殺される鶏のような壮絶な声を上げた。
 暴れ狂う真奈美の身体を、二人の親父達が爛々と目を輝かせながら押さえつけていた。傷口にペニスを挿入した出っ歯の親父は、「はっ、はっ」とスタッートな声を上げながらそこにペニスをピストンさせ、真っ白な真奈美の足に濃厚な血をブチブチと飛ばした。
 出っ歯の親父が、真っ赤な傷口の中に真っ白な精液を射精させた時には、真奈美は既に気絶していた。

 しかし、ぐったりと横たわる真奈美はすぐに飛び起きた。それは、デブの親父が、激しく振ったコーラのペットボトルを真奈美の肛門に突き刺したからだった。
 ペットボトルから噴き出したコーラは、真奈美の腸を勢い良く駆け巡った。とたんに真奈美は大量のゲロを吐き出し、血まみれの足をピクピクと痙攣させながら白目を剥いた。
 ゲロの酸っぱい匂いが部屋中に漂った。真奈美が吐き出したゲロは真っ黒なドロドロの液体だった。その中に白い米粒がポツポツと混じっている事から、恐らくその黒い液体は、コンビニで買ったおにぎりの海苔だと推測できた。

 真奈美の尻にはペットボトルが突き刺さったままだった。それを握っていたデブ親父が、「ではではそろそろ発射といきますかぁ〜」と戯けて言うと、さっそくハゲの親父が、「うひひひひ」と嬉しそうに笑いながら、気絶する真奈美を『まんぐり返し』のような体勢にさせ、そのまま真奈美の膣にペニスをヌルリと突き刺した。
 それと同時に、デブの親父がペットボトルを抜いた。パックリと口を開いた肛門から真っ黒なコーラがトロトロと溢れ出した。
 デブと出っ歯は目を輝かせながら肛門を見つめ、ハゲは目を半開きにさせながらスコスコと腰を振っていた。
 大きく口を開いた肛門からは、まるで肉団子のような丸い糞が半分顔を出し、それが蓋の役目をしていた。
 デブ親父は、「これが便秘の原因なんです」と戯けて呟きながら、その丸い糞を人差し指でグッと押した。
 丸い糞は指で押された事により一瞬は凹んだが、しかしデブ親父が指を離すと同時に、ボッと音を立てて肛門から飛び出した。
 ブシュっという不気味な音と共に真っ黒な下痢糞が噴き出した。まんぐり返しの体勢で犯されていた為、噴き出したそれは天井に向かって飛んだ。それはまるで火山の噴火のようだった。
 噴火が治まると、コーラの混じった下痢糞はグジュグジュと炭酸の音を立てながら、溶岩の如く尻を伝って流れて落ちて来た。

 未だグジュグジュと下痢糞が溢れ出る肛門の中に、出っ歯の男がペニスをズブッと挿入した。
 ぎゃゃゃゃゃ! っと絶叫した真奈美は、後と前を同時に塞がれながら、その絶叫する口さえもデブの親父のペニスで塞がれた。
 三人の親父が、真奈美の細い身体に一斉に腰を振り始めた。強烈な糞とゲロの匂いが充満する部屋で、真奈美は血とゲロと糞にまみれながら三人の親父に三つの穴を塞がれ、失神していた。

 このままでは真奈美は殺される、と思った昭夫が下唇をギュッと噛み締めると、ふと、肛門を犯していた出っ歯の男と目が合った。
 昭夫は心臓が止まるかと思った。下唇を噛んでいた前歯がタトゥーマシーンのようにトットットットットット、と、ピストンした。
 暗闇の中、糞だらけの尻に腰を振る出っ歯の親父は、そんな昭夫を見つめながらニヤッと笑った。そして、不敵に目を輝かせながら「おまえのケツの穴も犯してやろうか」と出っ歯の親父が囁いた瞬間、昭夫は二度目の失禁をした。
 それと同時に、残酷に肛門を犯される真奈美が、白目を剥きながらビシャビシャと失禁するのが見えた。
 それを目の当りにして震え上がった昭夫は、おもわず「ごめんなさい!」と叫び出し、慌てて出っ歯の親父に土下座をしていたのだった。


 僕達は、震える昭夫をコンビニに残したままマンションに向かって走った。
 こんな事件に巻き込まれるのは嫌だったが、しかしその時は真奈美の事が心配で堪らなかったのだ。
 静まり返った住宅街を僕達は無言で走り抜けた。
 そんな僕達の頭の中には、猟奇的な真奈美の惨殺死体がずっと浮かんで離れなかったのだった。



 部屋のドアを開けると、強烈なニオイが僕たちの鼻に襲い掛かって来た。
 真奈美は失神した状態のまま親父達にどこかに連れて行かれたらしく、既にそこにはいなかった。

「マジかよ〜」と叫ぶ裕介は、部屋に飛び散った下痢と血を愕然と見つめながら、その場にガクリと膝を落とした。
 確かに部屋の中は壮絶な状態だったが、しかし僕は部屋の事より真奈美の事が心配だった。これほどのおびただしい量の血を流していて本当に大丈夫のだろうかと、びちゃびちゃとカーペットに染み込んだ血を踏みしめながら背筋を凍らせていた。

「あいつ、殺されたんだ……」

 真っ青な顔をして立ちすくんでいた商業高校の坂田が、そう呟くなりいきなり「うぇっ」とゲロを吐いた。
 そして口の回りにテラテラと輝くゲロを慌てて袖で拭き取りながら、「オレ、関係ねぇからな」と言い残し、そのまま部屋を飛び出していった。
 ドタドタと廊下を走っていく坂田の足音を背景に、裕介が「どうしよう」と声を震わせながら僕にしがみついて来た。
 いきなり腕を掴まれた僕は逃げ遅れた。このままここにいたら事件に巻き込まれてしまうと焦った。しかし、ガクガクと震える裕介を置いて逃げるわけにも行かず、、僕は必死に恐怖を押し殺しながらも「とにかくここを片付けよう」と裕介に告げたのだった。

 糞まみれのカーペットと血まみれの布団は捨てる事にした。
 それらを小さく折り畳み、とりあえずバルコニーに放り出すと、部屋に漂っていた凄惨な雰囲気と強烈な臭いは多少消えた。
 壁に点々と飛び散った血を、唾を染み込ませたティッシュで拭き取っていた裕介が、不意に「真奈美のやつ、どこかに埋められちまったのかなぁ……」と呟いた。
 裕介がそう呟いた時、丁度僕は、引き千切られた大量の髪の毛を拾い集めていた。無惨にも引き千切られた真奈美の髪の毛が、僕の手の平の上に丸まっていた。
 裕介のその言葉を聞いた僕は、何やらこの髪の毛に唯ならぬ怨念を感じとった。ソフトボールほどに膨れ上がった大量の髪の毛を慌てて振り払おうとした。が、しかし髪の毛は、まるで生きているかのように僕の指に必死に絡み付いていた。
 おもわず「あわわわわわわわわわわ」と声を出しながら狼狽えてしまった。すると壁の前にしゃがんでいた裕介も、その僕の声に驚き、いきなり「わああああああああ」と叫び出した。
 二人は大声で叫びながら部屋を飛び出した。二人はどこまでもどこまでも全速力で走った。深夜の東京の下町に、そんな僕達の叫びがいつまでも谺していたのだった。



              ※


 エンジンを掛けたままの原付に跨がる僕は、細い路地を爪先立ちでトボトボと進んだ。
 前を歩く真奈美に近付くにつれ、真奈美の小さな体から発散される甘い香水の香りが風に乗って漂って来た。


 あの事件の後、真奈美は一週間行方不明だった。
 その一週間の間に、僕達の生活は一変した。

 事件の翌日、裕介は、血とゲロと精液にまみれたマンションを引き払った。実家に戻った裕介は、あのマンションにはもう二度と行きたくないと、引っ越しは全て業者に任せた。
 地獄を目の当りにした昭夫は、そのショックからヒキコモリになってしまった。毎日家の中に閉じ篭り、携帯すら出なくなっていた。暴走族の先輩達が、毎晩のように爆音を鳴らしながら昭夫の家に迎えに来ていたが、昭夫は、まるで浅間山荘に立て籠る赤軍のように、窓からそれを見ているだけで、一向に姿を見せようとはしなかった。
 僕も同じだった。真奈美が行方不明だったその一週間は、一歩も外に出なかった。学校にも行かず、携帯の電源も消し、家の中で一人毎日震えていた。

 僕達は、真奈美は殺されたものだと思っていた。凶暴な親父達に嬲り殺され、既にどこかの山中に埋められてしまったと思い込んでいた。
 僕達は真奈美の亡霊に脅かされていた。
 真夜中、下半身から血を流した真奈美が、裕介のマンションの前でシクシク泣いていたとか、身影山の大原公園の池で、白目を剥いた真奈美がケラケラと笑いながら泳いでいたといった都市伝説メールが、毎晩のように商業高校の生徒達から送られて来た。
 どれもこれも実に馬鹿馬鹿しいデタラメだとわかっていながらも、それでも僕達はそんなデタラメに震え上がり、良心の呵責に苛まれた。

 しかし、そんな真奈美は生きていた。
 それをメールで知らせてくれたのは裕介だった。
 裕介は、仕事帰りのバスの中から、綾瀬の駅前で大貫先輩のセルシオの助手席でマックシェイクを飲んでいる真奈美を見たというのだ。
 さっそく昭夫が大貫先輩に電話をかけ事実確認をした。確かに裕介が見たのは真奈美だった。あの事件後、真奈美は大貫先輩のマンションに居候していたらしいのだ。

 僕達はたちまち真奈美の亡霊から解放された。
 昭夫はヒキコモリから脱出すると真面目に働き始めた。暴走族の先輩達とはキッパリと縁を切り、毎日、川向こうのプラスチック工場に通っていた。
 僕も学校に通った。休んでいた分を取り戻そうと必死に勉強した。
 そして裕介は再び駅裏にマンションを借りた。しかし僕達は、以前のように裕介のマンションに溜る事はなかった。真奈美の事件を機に、僕達は少し大人になったのだった。

 それからしばらくして、大貫先輩のマンションに居候していた真奈美が逮捕された。容疑は覚醒剤と売春だった。
 真奈美は、大貫先輩のマンションに居候をさせて貰う代わりに、そこで売春をさせられていたらしく、大貫先輩も管理売春の罪で逮捕されていた。

『十七才の家出少女買いませんか?』

 そんなキャッチコピーで、ネットで客を集めていた大貫先輩は、たった数ヶ月の間に古いセルシオから新車のセルシオに買い替えるほど荒稼ぎしていた。
 これまでに真奈美を買った客は百人を超えているらしく、それらの客は大貫先輩の携帯から全て割り出され、かなりの逮捕者を出した。
 そんな常連客の中に覚醒剤の売人が混じっていた事から、警察は大貫先輩と真奈美の尿検査をし、二人の尿から覚醒剤反応を検出した。そして二人は、売春とは別に覚醒剤の容疑で再逮捕されたと、朝日新聞の三面記事の隅っこにそう書いてあった。

 真奈美は鑑別所に送られた。そしてそのまま半年間、群馬の女子少年院に入れられた。
 新聞で騒がれてから一ヶ月も経つと、真奈美の噂はすっかり消えてしまった。管理売春と覚醒剤で逮捕されていた大貫先輩に殺人の余罪が発覚した時には、一時、真奈美もその殺人に関わっていたのではないかと噂になったが、しかし、直ぐにそんな噂も消え、真奈美の存在はみんなから忘れ去られてしまっていたのだった。


 原付に跨がったままトボトボと進む僕は、真奈美に声を掛けようかどうしようか悩んでいた。
 たとえ声を掛けるにしても、いったい何と言って声を掛ければいいのかわからなかった僕は、吉牛の前で原付を止めると、そのまま真奈美の後ろ姿をぼんやりと眺めた。

 朝起きられないのを理由に高校を中退し、母親が働くスナックのレジから金を盗んだのがばれて家出した十七才。
 男友達のマンションに居候し、そこに集まる少年達に夜な夜なヤリまくられては、挙げ句の果てに凶暴な親父達に輪姦された十七才。
 暴走族の先輩のマンションに住み込み、覚醒剤を打たれながら百人以上の客と売春を繰り返し、そして遂に逮捕された十七才。

 そんな十七才が、今、群馬の女子少年院を出て、僕の目の前を、短パンからはみ出した半ケツを出しながら歩いている。

 僕は、そんな中卒ヤリマン馬鹿女の逞しい背中に、がんばれよ、と呟くと、真奈美に声を掛けぬまま勢い良くアクセルを回した。

 そのままおもいきハンドルを切ると、いきなり斜めになった荷台から丼がひっくり返る不穏な音が響いてきた。
 走りながら荷台に振り返ると、銀色の出前桶の蓋の隙間からラーメンの汁がダラダラと滲み出ていた。

 今度こそクビだな、と思った。
 でも、僕も真奈美と同じゆとり教育を受けた逞しくも哀れな一人だ。
 まぁ、なんとかなるさ、と、僕はいつものゆとりの笑顔を浮かべながら、馬鹿みたいに陽気な秋晴れの街を走り抜けていったのだった。

(中卒少女・完)

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