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限りなく公序良俗に8






 湯船に並ぶ二つの痩せこけた肩を呆然と見ていた。
 あの男は誰なんだ、いったい、いつの間にここに来たんだ。
 私の頭の中では、理解不能なドス黒い渦が天津甘栗の機械のようにグルグルと回っていた。

「あれは加藤さんです」

 女がムクリと起き上がりながらぼそっと呟いた。
 それまで女が顔を伏せていた床には、真っ黒な血が円を描くように広がっていた。
 四つん這いに起き上がった女は、右腕でサッと鼻血を拭いながら私の顔を見た。女の真っ白な右腕には、筆で線を引いたような鼻血の痕が走っている。

「……しかし、さっき旦那さんは加藤と言う人は死んだと……」

「死んでます。あれは死体です。あいつが首を絞めて殺したんです。私達は加藤さんの死体を青木ヶ原の樹海に捨てに行く途中なんです……」

「…………」

「さっきあいつは、私と加藤さんがあいつの目を盗んでこっそり浮気していたなんて言ってましたけど、あれは全部嘘です。私はあいつの命令で加藤さんにヤられていたんです」

 女は、腕に付着した鼻血の痕を爪でカリカリと擦っていた。乾いた鼻血は粉となって闇の中へと消えて行った。

「加藤さんもそうでした。加藤さんもあいつに、妻は淫乱症だからセックスしてヤって欲しいと強引に頼まれ私を抱いたのです。だから私と加藤さんは、あいつの命令で、あいつが見ている目の前でセックスをさせられたんです……」

 遠くの方からカラスの泣き声が響いて来た。
 漆黒の闇に包まれていた小屋の外は、いつしかほのかに白み、辺りは群青色に染まっていた。
 両膝を立てたまま呆然としている私の股間に、いきなり女の細い指が伸びてきた。
 だらりと萎んだペニスをくにゅくにゅと指で弄りながら女は言葉を続けた。

「あいつは、妻を他人に抱かせたがる異常性欲者なんです……なのにあいつは、自分で私を色んな男に抱かせておきながら、その度に狂ったように嫉妬するんです……そして私を抱いた男達全員をみんな殺してしまうんです……」

 明け方のひんやりとした空気が小屋の中へと流れ込み、私の首筋を通り過ぎていった。
 私は背筋をゾッとさせながら、「全員って……何人殺されたんですか」と聞いてみた。
 女はしばらく考えた後、「加藤さんを入れて八人です」と答えた。
 八人……っと驚きながらも、しかし、もし本当にそれだけの人間が殺されているのなら日本の優秀な警察が黙っているはずがないと思い、そのあまりにも現実離れしたサスペンスストーリーに首を傾げた。
 すると女は、ソッと私を見上げながら「信じてくれないんですか?」と呟いた。

「信じるも何も……あなたたちの周りで八人もの人間が消えていたら、さすがに警察が動くでしょう……」

 私のその言葉に女は小さく首を振った。

「加藤さん以外の男は、みんな素性のわからない人達ばかりです。あいつが出会い系サイトや、深夜営業の映画館から見つけて来た初対面の男達ばかりなんです。ですから、彼らが突然蒸発した所で私達が疑われる事は、まず有り得ません……」

 女はゆっくりと四つん這いになると、両膝を立てたまま呆然としていた私の太ももに頬擦りした。それはまるで甘える猫のようだった。

「例え彼らの死体が発見されたとしても、余程の証拠を残していない限り、警察が私達に辿り着くのは不可能です。だって、お互いに名前も知らない者同士なんですもの……そう、今のあなたみたいに……」

 女はそう言ったきり静かに目を閉じ、私の萎れたペニスを口に含んだ。
 猫が背伸びするように高く突き上げられた尻が、裸電球にぼんやりと照らされていた。
 女は妖艶に尻を振りながら、みるみると硬くなっていくペニスにじゅぷじゅぷと卑猥な音を立てた。
 女が最後に呟いた「今のあなたみたいに……」という言葉が胸に引っ掛かっていた。
 一刻も早く逃げ出さなければと焦りながらも、しかし私は、女のその濃厚な舌の動きに身動きできなくなってしまっていたのだった。

 肉棒を激しくしゃぶる女の顔を、ハァハァと荒い息を吐きながら見下ろしていると、不意に露天風呂から『ばしゃっ』と湯しぶきが聞こえてきた。
 私は自分の心臓の鼓動を最大のボリュームで聞きながら、慌てて露天風呂に目をやった。
 男は、加藤という男の死体を浴槽から引きずり出していた。
 石タイルの上に放り出された死体は、既に硬直しているのか、まるで釣り上げられたカツオのようにビタビタと音を立てて転がった。
 男は、うつ伏せに転がった死体を足で蹴りながら仰向けにすると、死体の全身にボディーソープをチュプチュプと噴射し、持っていたタオルで死体を洗い始めた。
 死後硬直している関節を慣れた手付きで弛めながら、脇の下や股間にタオルを滑り込ませて泡立てた。
 それはまるでそれ専門の職人のようであり、いかに彼がこれまで多くの死体を扱って来たかが伺い知れた。

 そんなシーンを目の当りにしていた私は全身が震えた。早く逃げなければ自分もあのように無惨に洗われるのだと思うと、奥歯がガチガチと鳴り出した。
 静まり返った脱衣小屋に、ちゅぽっ、と潤んだ音が響いた。
 ペニスを口から抜いた女は、唾液にまみれたペニスを愛おしそうに上下させながら、ソッと私を見上げた。

「まだ大丈夫です。あいつはいつも、死体を捨てる前には必ずああやって死体を洗うんです。まだ三十分くらいかかりますから心配入りません……」

 女はそう言いながら床に尻をペタンっと下ろした。そしてそのまま私を見つめながら仰向けに寝転がると、テラテラと輝くワレメを私に向けてゆっくりと開いた。

「中で出してもかまいません……早く……」

 女は穴の中で指を掻き回しながら囁いた。開いた裂け目から白い泡が溢れ、ぷちゅぷちゅと音を立てながら肛門へと垂れて行くのが見えた。
 遠くの方で鳴いていたカラスの鳴き声がみるみると近付き、そのまま小屋の上を通り過ぎていった。
 群青色だった空はすっかり白みがかり、辺り一面濃厚な霧が立ち籠めていた。

(五分あればイける)

 そう思った瞬間、私はM字に開いた女の股を乱暴に掻き分け、女のムチムチとした体にむしゃぶりついていた。
 恐怖はあった。いつ殺されるかわからない恐怖が常に心臓を脅かしていた。
 しかしそれでも私のペニスは勃起していた。不思議な事に、今までにはない異様な興奮に包まれていたのだ。

 まだ三十分くらいかかる、っという女の言葉を信じた私は、女の両足を両腕に抱え上げ、その黒ずんだ中心部に素早くペニスを突き立てた。
 まるで澱んだ池の中に小石を投げ込むように、私のペニスはタプタプと汁が溢れる穴の中に飲み込まれた。
 両腕に女の足を抱えたまま左腕で女の頭部を抱き、右手で巨乳を乱暴に揉みしだきながら柔らかい肉をブルブルと揺らした。
 女の体をがっちりと押さえ込みながら、女の口内で舌を回転させ、そのままズコズコと腰を振りまくった。
 女が私の口内で叫んだ。その声が男に聞こえるのではないかと焦りながら必死に腰を動かした。
 一刻も早く射精してしまおうと、いやらしい妄想を次々に頭に思い浮かべていると、何故か不意に、少年時代にいつもオカズにしていた柏原芳恵のグラビア写真が甦って来た。
 女の足が私の腰に絡み付いて来た。
 太ももで私の腰を蟹ばさみした女は、もっともっと、と言わんばかり自ら腰を激しく突き立てて来た。
 女のそんな淫らな仕草に、私はまさに魔性の女を見た気がした。
 殺された男達は皆、こうしてこの女の淫らな蜜壷にのめり込まれてしまったのだろうと思った。
 私の身体にしがみつく女は、激しく腰を振りながら舌を突き出し、再びキスをせがんできた。
 ハァハァと荒い息を吐きながら顔を近づけると、ふと女と目が合った。
 そんな女の目が一瞬笑ったように見えた。
 えっ? っと思った瞬間、ヒョンヒョンヒョンっという奇妙な音がすぐ耳元で鳴り、まるでカマイタチに襲われたような微かな痛みを首筋に感じた。
 背後で男の荒い鼻息が聞こえた。
 あっ、と気付いた時には遅かった。
 既に私の首には、ピアノ線のような細い針金が三重に巻き付けられ、ピキピキと嫌な音を立てながら首に食い込んでいたのだった。

「人の女房とセックスしてはいけません」

 男は、まるでレコードを逆回転させているような奇妙な声で私の耳元に囁いた。
 下水道に籠っているヘドロのような重たい口臭が私の鼻を掠め、恐怖と苦しさに私は強烈な吐き気を覚えた。

「や、やめて下さ……」

 それ以上の言葉が出て来なかった。ピキピキと金属音を立てて首に食い込んで来るピアノ線が、私の喉仏を激しく締め付け、思うように声が出て来なかった。
 男は、握っていたピアノ線を両手の人差し指にキリキリと巻き付けながら、私と女が結合している部分を覗き込んだ。

「うひゃあ、チンポが白濁の汁まみれじゃないですかぁ、これは立派な公序良俗違反ですよ」

 男はそう笑いながらも、更に、「これじゃあ、殺されたって仕方ありませんよね」と呟き、紫色に充血して行く私の耳をペロリと舐めた。
 男は、何やら気味の悪い唄を口ずさみながら、両手に握るピアノ線を更にピキピキと絞っていった。
 私の頭の中では、カリコリ、カリコリ、っという不気味な音が響いていた。それは恐らく首の筋が軋む音であり、まるで焼き鳥屋の鶏軟骨を食べている時のような気味の悪い音だった。
 男は、おもいきり締め、そしていきなり弛めるという動きを繰り返していた。
 いきなり背後から首を絞められた場合、よくドラマなどでは、断末魔の呻き声をあげながら七転八倒に悶え苦しんでいるが、しかし実際には違った。
 あまりの恐怖に身動きできず、人形のようにただただ呆然と一点を見つめるしかない、まさに無の境地だった。
 そこには、これは全て男の冗談なのかも知れないという楽観的な考えと、もしかしたら男が途中で気が変わるかも知れないという希望、そして、まさかここで自分が死ぬわけがないと思う現実逃避があったからだろう。
 しかし現実は違った。男は確実に私を嬲り殺そうとしていた。
 男がピアノ線を絞める度に涙と鼻血が溢れ出し、そしてそれをいきなり弛められた瞬間、涎と尿とそして糞が一気に溢れ出した。
 それを繰り返される度に私の意識は朦朧とし、次第にジリジリと死の実感が湧いてきた。
 もう限界だと思った瞬間、そこで初めて私はもがき苦しんだ。
 まるで壁で爪を研ぐ猫のように両手で空を掻きながら、締められた喉からしゃがれた息をゼェーゼェーと吐いた。
 必死な頭の中には、ひたすら、助けて,助けて,助けて、という言葉しか浮かんで来なかった。

「死ぬ前にイカせてあげますから腰を振りなさいよ」

 男はそう笑いながら、背後から私の腰を膝でグイグイと押した。
 私の腰がマリオネットのようにコキコキと動いた。不思議な事にまだ勃起したままのペニスが女の中の中を行ったり来たりしていた。
 突然、女が奇妙な声でケラケラと笑い出した。
 私は、天井をギロリと睨んでいた眼球を必死に動かしながら、床の女に移動させた。
 ひん剥いた目玉をぶるぶると震わせながら女を見ると、女は無表情でケラケラと笑っていた。それはまるで腹話術の人形が笑っているようで、まさに狂気が漲っていた。
 そんな女の笑い声が、突然ピタリと止まった。

「もう殺しちゃえば」

 すると男が「だよね」と呟き、更にピアノ線をキリキリと指に巻き付けながら短くした。
 その瞬間、突然私の頭に、姉の、先月産まれたばかりの赤ちゃんの顔が浮かんだ。
 確か、楓という名前の女の子だった。
 産まれて二日目の時に、一度だけ保育器の中で眠っているのを遠くから見ただけなのに、何故か彼女の顔がはっきりと私の頭に浮かんで来た。
 私は、血管が切れそうになるくらいに歯を食いしばりながら「楓!」と叫んだ。
 鳴らないはずの柱時計が突然鳴り出した。
 朦朧とする意識の中、私はその鐘が、ボーン、ボーン、ボーン、ボーンっと四回鳴るのを聞いた。
 背後で男が「ぬっ!」と息を吐いた。
 最後の力を振り絞るかのように、ギリリリッとピアノ線が激しく軋むと、喉の奥でカポッと何かが蓋をするような音が鳴った。
 それっきり息ができなくなった。
 一気に血圧が上昇し、たちまち顔がカッと熱くなっては目玉が飛び出しそうになった。
 すると今度は一気に血圧が低下し始めた。
 私の意識は、まるで換気扇に吸い取られる煙草の煙のように、スーッ……と薄れていったのだった。

(九話へ続く)

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