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青春の罰ゲーム3

2012/11/23 Fri 13:03




 アキラがファイナルゲームに選んだコースは砂漠だった。
 アキラがそれを選んだ瞬間、雄太の心臓は、丘に釣り上げられた鯉のように跳ね上がった。それは、砂漠コースは千夏が最も苦手とするコースだったからだった。

 しかも千夏のキャラはピーチ姫だった。
 キャラは公平にサイコロで決めていたのだが、一番最初にサイコロを振った千夏は、砂漠が最も弱いとされているピーチ姫の『6』を出してしまった。
 一番苦手な砂漠コースで、更に砂漠が最も弱いピーチ姫を選んでしまうとは、もはやゲームをする前から最下位は千夏と決まったも同然だった。

 みんなは、そんな運の悪い千夏にニヤニヤと笑いながらもわざとらしく同情していた。が、しかし、雄太だけは、それが最初から仕組まれたものだと言う事に気付いていた。それは、以前からアキラが千夏に好意を寄せている事を、雄太は知っていたからだった。

 雄太がそれを知ったのは、千夏の携帯に送られて来ているアキラのメールからだった。
 それは一ヶ月ほど前の事だった。雄太の家に遊びに来ていた千夏は、うっかり雄太の家に携帯電話を忘れていった。
 雄太は、どうせ取りに戻って来るだろうと、そのままにしていると、不意にメールの着信音が鳴った。
 日頃から千夏を信じていた雄太は、彼女の携帯チェックなど絶対にしなかったが、しかしその日は、たまたま千夏の携帯を開いてしまった。
 メールボックスにはアキラからのメールがズラリと並んでいた。
 雄太は、(どうしてアキラが?)と、嫌な予感を感じながらメールを開いてみたのだった。

『二人だけで映画に行こうよ。もちろん雄太には内緒でね』

『今から出て来れない? 雄太には内緒の話があるんだ』

『雄太には内緒だけど、オレ、もしかしたら千夏の事、好きかもしんない』

 そんなアキラのメールには、必ず『雄太には内緒』という言葉が付け加えられていた。
 雄太は、それらのメールをひとつひとつ読みながら、激しい嫉妬に苛まれていた。
 そんなメールの中でも、特に雄太の心を掻き乱したメールは『二人だけで地獄のマリオカートをしないか?』というものだった。それを読んだ瞬間、不意に、全裸の千夏がアキラに背後から犯されている姿が目に浮かび、雄太は凄まじい怒りに包まれたのだった。

 しかし、そんな雄太の怒りもすぐに治まった。それは、そんなアキラのメールに千夏は一度も返信していなかったからだった。
 いや、正確には一度だけ返信していた。但しそれは、『私は雄太君の事が好きだから……ゴメンね』と、一言だけ書かれたものであり、このメールに雄太は救われたのだった。

 そのメールを千夏がアキラに送ったのは、今から一週間ほど前だった。そのメールを送信してから、アキラからのメールは一通も送られていなかった。
 雄太は、ざまあみろ、とせせら笑ってはいたが、しかし、内心、何やら嫌な予感を感じずにはいられなかった。それは、アキラという男がヘビのように執念深い男だという事を、雄太はよく知っていたからだった。

 雄太が脅えていた『嫌な予感』というのは、まさにこの事だった。
 アキラはフラれた腹いせに、わざとファイナルに千夏が負けるよう仕向けていたのだ。

 雄太がそう確信したのは、千夏が最初に振ったサイコロだった。確かあのサイコロは、中学生の頃、アキラが祭の縁日で買った『インチキサイコロ』に違いないのだ。
 それは、サイコロの中に磁石が仕込んであり、下に敷いた磁石板を操作すれば好きな数字を自在に出す事ができるというサイコロだった。それをアキラは、テキ屋のおっさんからびっくりするような値段で購入した。一緒に祭りに行っていた雄太達が「そんな物、何に使うんだよ」と聞くと、アキラは得意気に笑いながら「最近、銭湯の常連達が脱衣場で丁半博打やってんだよ。だからこれで一儲けしてやろうと思ってな」と、インチキサイコロを手の平の上で転がした。その後、まんまとイカサマがバレたアキラが、銭湯の常連達に腹一杯ぶん殴られた事は言うまでもない。

 雄太は千夏が『6』を出した直後、アキラが下に敷いていた雑誌をサッと隠したのを見逃さなかった。そしてアキラが選んだコースは、千夏が最も苦手としている砂漠だ。この二つから考えて、アキラが意図的に千夏を最下位にしようとしているのは明白だった。

 雄太は脅えた。まだ千夏が最下位になるとは決まっていないのに、それでも雄太は、いったいアキラはどんな罰ゲームを千夏にさせるつもりなのかと怖くて堪らなかったのだった。

 全員がサイコロを振り終えると、いよいよファイナルステージの火蓋は切って落とされた。
 雄太は得意のドンキーコングを走らせながら、隣りで必死にコントローラーを振り回している千夏の事ばかりを気にしていた。皆はどんどんコースを進んで行き、ピーチ姫とドンキーコングだけが半周遅れで取り残されていた。

 アキラが一位でゴールした。海斗と彩乃は激しく競い合っていたが、いきなり最後のカーブで出てきた美咲が亀の甲羅を放ち、それに激突してしまった彩乃のマリオは、惜しくもゴール寸前でひっくり返ってしまったのだった。

 二位が海斗で三位が美咲、そして少し遅れて彩乃がゴールした。
 雄太は最後のカーブを曲りながら、チラッとアキラの顔を見た。
 アキラは不敵に微笑んでいた。雄太をジッと見つめながら、唇を歪にさせて微笑んでいる。
 くそっ、と思った。千夏をおまえの好きにさせてなるものか、と、思った。雄太はそのままドンキーコングをコースアウトさせた。そしてわざと巨大な蟻地獄の中に飛び込み、その隙に千夏をゴールさせたのだった。

「なんかインチキ臭〜い、今、雄太君わざと負けたよね〜」

 彩乃が非難するようにそう言うと、海斗は「ま、しょぅがねぇよ。なんたってファイナルなんだもん。俺だって美咲にファイナル罰ゲームをさせるくらいなら、犠牲になってたよ、うん」と、美咲の髪を撫でながら自慢げに言った。

 最下位は雄太だった。しかし、それでも雄太はアキラとの勝負には勝ったと、晴れ晴れしい気分でいた。

 雄太は、さっそく座布団の下に保管されていた命令紙を取り出すと、チラッとアキラを見返しながら、心の中で「ざまあみろ」と呟いてやった。
 例え、どんな非人道的な罰ゲームが書かれていようとも、それでも雄太は満足だった。千夏をアキラの毒牙から救えさえすれば、どんな罰ゲームを受けてもいいと思っていたのだ。

 雄太は余裕の笑みを浮かべながら、ソッと命令紙を開いた。
 しかし、そこに書いてある罰ゲームの内容を読んで行くうちに、雄太の表情から余裕の笑みが消えて行った。
 雄太は、必死にそれを3回読み直した。みるみると顔を青ざめながら、最後の一行だけを何度も何度も読み返した。
 そして4回読み直そうとしたとき、そこで初めて全身の力が抜けた。

 がっくりと項垂れる雄太を見てアキラがニヤリと笑うのが見えた。
 その笑みは、まるで桶狭間の奇襲攻撃で今川義元の首を取った織田信長のようだと雄太は思った。

 その命令紙に書いていた罰ゲームは……

 雄太の完全な敗北だった。

(つづく)

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