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水のない噴水6

2012/11/17 Sat 04:26

水のない噴水7




 彼の父親が自殺した別荘で、猟奇的な撮影をしてから二週間が過ぎようとしていた。
 あの日、あの廃墟の寝室でカミングアウトして以来、彼はまるで別人のように変わってしまった。
 撮影では、以前のように花と緑と小川を全く愛さなくなった。その代わりに、繁華街の路地裏のポリバケツや駅のホームで酔い潰れているサラリーマン、ゲームセンターの前でしゃがみこんでいる不潔な女子高生やホテル街の路地で煙草を吹かしている外国人売春婦などを好んで撮りまくっていた。
「人間の体臭がプンプンと漂って来るような写真を撮りたいんだ」
 そう目を輝かす彼は、廃墟に勝手に忍び込んでは何度も不法侵入で逮捕された。
 路上駐車してあったヤクザのベンツの車内を撮っては若いヤクザにカメラを破壊され、大阪にある巨大スラム街に潜入してはプライバシーを踏みにじるような写真を撮りまくり、屈強な労働者達に袋叩きにされた事もあった。
 それでも彼は汚い写真を撮りまくった。
 そんな彼の写真には、信念や主張は全く感じられなかった。写実主義でもなければ、それを芸術として見ているわけでもなく、又、ドキュメンタリーカメラマンとして現実を世に伝えようとしているわけでもなかった。

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 彼はただ単に狂っていたのだった。
 涼子を元彼に寝取られたという妄想から始まった彼の狂気は、あの箱根のドライブインで涼子が見知らぬ男にレイプされるシーンを目撃した事により、もはや取り返しのつかない状態にまで陥っていた。
 彼は完全なる狂人だった。
 常に涼子に対しては疑心暗鬼を生じ、涼子の言葉を全て疑い、そして涼子が作るカップラーメンにさえも、毒が盛られていると箸を付けなかった。
 そこまで涼子を疑うのなら、いっその事、別れてしまったほうが楽だろうと思うのだが、しかし、彼の涼子に対するその疑心暗鬼は愛するがために生じるものであり、正常な者には理解し難い愛情表現の一部でもあったのだった。
 そんな異常な彼を更に異常とさせていたのが、武田の存在だった。
 彼の脳裏には、常に武田が付きまとっていた。彼は、いつ涼子が武田に陵辱されるかという恐怖に脅かされていたのだ。しかも彼は、武田に陵辱されながらも激しく悶えている涼子の姿をリアルに思い浮かべていた。
 それは、あのドライブインでのワンシーンを目撃してしまったからだった。あの薄暗い駐車場で、見知らぬ男に犯されていた涼子は、密かに闇に紛れながらその男と濃厚なディープキスをしていた。あの時彼は、それをまともに目撃してしまっていたのだ。そのシーンがいつまでも頭から離れず、それを思い出す度に嫉妬と絶望の渦に巻かれ、精神がズタズタに切り裂かれるのだった。
 そんな涼子を彼は素直に信用できるわけがなかった。もし、武田にいやらしい事を強要されたり、強姦されたとしても、きっと涼子は密かにそれを受け入れ、獣のように悶え狂うに違いないと彼は疑っていた。そんな彼の精神状態が美的感覚を狂わせ、今までのセンスだけでなく私生活さえも闇へ闇へと逃げ隠れるようになってしまっていたのだった。

 悲惨や残酷を被写体にするのは、彼の彼なりの現実逃避だった。
 涼子に裏切られたという残酷な現実から逃れる為に、彼はそれ以上の残酷性を求めて彷徨っていたのだ。
 自暴自棄になった彼は、今までの美的感覚を全て破壊し、あれだけ愛した草花を「幼稚だ」と踏みにじり、透き通るほどの澄んだ小川を見つめては「綺麗に見えても本当は汚染されてるのさ」と唾を吐きかけた。
 現実逃避する為に、敢えて汚い写真ばかりを撮りまくっていた彼は、傍から見て異常としか思えなかったのだった。

 そんな彼の現実逃避の犠牲にされていたのは涼子だった。
 彼は、社会が吐き出す汚物と涼子をコラボさせる事により、裏切られた苦しみを和らげようとしていたのだ。
 それは地獄のような撮影だった。
 ある時は深夜の歌舞伎町の路地裏に連れて行かれ、酔っぱらいのゲロと小便の匂いが立ち込めるビルの隙間で卑猥な写真を撮りまくられた。
 又ある時は、ホームレスのビニールハウスが並ぶ公園に連れ込まれ、ホームレスが眠っている小屋のブルーシートを背景に放尿させられるシーンを撮られた。
 一番屈辱的だったのは、ラブホテルのポリバケツから使用済みのコンドームを大量に盗み出し、それを涼子の裸体にペタペタと張付け、更に体中に『肉便器』や『公衆便女』といった落書きをされて撮影された事だった。
 そんな狂った彼は、常にネットでダークスポットを調べていた。廃墟、自殺名所、スラム街、殺人現場、旧赤線地帯……。それは身の毛もよだつような現場ばかりだった。そんな場所に涼子を連れて行き、卑猥な写真を撮りまくった。実際、それらの現場で撮影したその夜は、金縛りに遭ったり不思議な霊現象が起こったりした。それでも涼子は彼の指示に素直に従った。それで彼の気が治まるのならと思い、どんな悲惨な撮影にも必死に耐えていたのだった。

 そのような撮影は、涼子の人間性をとことん蔑み、屈辱感と羞恥心を植え付けた。
 彼はそれが目的でもあるかのように、涼子の精神とプライドを徹底的に痛め続けた。
 その極めつけだったのが撮影後のセックスだった。
 撮影後、必ず彼は撮影現場で涼子を陵辱した。
 あのドライブインでの呪縛に囚われていた彼は、常に誰かに成りきり、誰かを演じては、その悲惨な現場で涼子を犯していたのだった。
 例えば、糞尿と生ゴミ臭が漂う路地では、泥酔したサラリーマンを演じ、涼子の裸体に小便を引っ掛けては、生ゴミにまみれた涼子を無惨に犯した。
 ある時は、未だ血生臭ささが漂う旧屠殺場に忍び込み、食肉解体処理業者を演じ、全裸の涼子を牛や豚の死骸のように引きずり回しては、実際に肉が解体されていたという作業台の上で犯した。
 気が狂ったAV女優が、首吊り自殺をしたという新宿のラブホテルの部屋に行った時もそうだった。全裸の涼子を荒縄で縛り、実際にその女がぶら下がっていたという天井隅の鉄柵に涼子を吊るして犯したり、又、少女のバラバラ死体の一部が発見されたという公園のトイレでは、出刃包丁を涼子の体に突き付けながら犯したりしていたのだった。
 これが野外の場合だと、どこからともなく人が集まり、無惨に犯される涼子は好奇の目に晒された。
 それを覗きに来る者達は、ホームレスであったり、酔っぱらいであったり、又は女装した変質者であったりと、決まって破滅型の汚れ人間達ばかりだった。
 汚れた男達は、自分達よりも汚される涼子を見て歓喜の声を上げていた。
 男達は、交わる涼子と彼をぐるりと取り囲み、その結合部分を覗き込んだり、いやらしい言葉を囁いたり、オナニーしたりしていた。
 彼は、涼子が他人に視姦される事に歓びを感じていた。涼子の卑猥な姿が薄汚い男達に見られる事に、彼は異様な興奮を感じていたのだ。
 しかし彼は、決して涼子の体には触れさせようとはしなかった。視姦はさせても接触だけは絶対にさせなかった。どさくさに紛れて涼子の体に触れようとする者がいれば狂ったように怒鳴りまくり、時には殴りかかることさえあった。
 彼がそれを絶対に許さないのは、涼子への独占欲からではなかった。かといって涼子を気遣っているわけでもなかった。
 それは、彼があのドライブインでの呪縛に囚われていたからに他ならない。
 彼は怖れていたのだ。薄汚い男達に体を触られた涼子が快楽に陥り、それがいつしか癖となり、夜な夜な自分に隠れて一人公園に繰り出すようになってしまうのではないかと危惧していたのである。
 そんな事に怖れるくらいならば、鼻からそんな場所に行かなければいいわけだし、わざわざそんなシーンを他人に見せる必要はないのだが、しかし彼は狂っていた。狂っているから仕方なかった。狂人の複雑な精神状態は理解できないのである。
 但し、そんな彼のこの狂った行動の中で、ひとつだけはっきりしている事があった。
 それは、彼が自分と涼子の死に場所を探していたという事だった。
 彼は自殺するつもりだったのだ。涼子に裏切られた苦しみから逃れる為に死にたいと思っていたのだ。そう、あの箱根の別荘で自殺した父親のように……。
 もちろん彼は、涼子も道連れにするつもりでいた。それは、涼子を愛してるがゆえの、彼なりの考えだった。
 彼は、己の性欲の為に平気で人を裏切るような、そんな淫乱の毒に犯されてしまった涼子は、このまま生きていてもきっと悲惨な末路を遂げるだろうと案じていた。そんな涼子を一人残しては死ねないと彼は本気でそう思っていたのだった。
 狂人の思い込みというのは、時として狂気の行動に走らせるものである。
 昨今の猟奇的なストーカー殺人が物語っているように、狂人はそれが正しいと思い込み、罪の無い人を平然と犠牲にする。
 トチ狂った者の独特な世界観は理解し難く、自己中心的で凶暴で、そして切なくも果無い。
 彼もまた、そんなトチ狂ったうちの一人に過ぎなかったのだった。


 そんなある日の深夜、いつものように涼子を不気味な撮影場所へと連れ回していた彼は、薄気味悪い地下道で涼子にある決断を迫った。
 その地下道は、今から二年前、ひきこもりの青年がいきなり刃物を振り回しながら通行人に襲い掛かり、四人を死亡させ七人に重軽傷を負わせるという凄惨な通り魔事件のあった現場だった。
 工業団地に繋がる巨大地下道だったため、朝夕は工員達で賑わう地下道だったが、しかし夜ともなると人通りはぴたりと途絶えた。
 それでも、事件前まではハッテン場として大勢の男性同性愛者が集まって来ていたが、しかし、事件後はさすがのゲイ達も気味悪がって近寄ろうとはせず、今では深夜になるとホームレス達の寝ぐらになっていたのだった。

 そんな地下道に連れて来られた涼子は、数人のホームレス達の鼾が響く中、いつものように露出撮影をさせられていた。
 シャッターの音が地下道に響くと、それに気付いたホームレス達が毛布から顔を出して見ていた。
 それを確認した彼は、涼子を階段へと連れて行き、そこで放尿する事を強要した。
 ホームレスたちの鋭い視線が下半身に突き刺さっていた。そんな視線に脅えながら階段の隅に踞ると、一人のホームレスがこちらに向かって歩いて来るのが見えた。
 彼はそんなホームレスをチラッと見ると、そのまま続けろと涼子に言った。
 激しい羞恥に駆られながらも、涼子はしゃがんだ股をゆっくりと開いた。すかさずミニスカートが太ももの後まで後退し、見事に丸い尻がぽこんっと飛び出した。
 下半身を剥き出しにした涼子は、近付いて来るホームレスから慌てて顔を背けた。
 しかし、陰毛の奥に潜む涼子のワレメは、既にテラテラと怪しい輝きを見せていた。ワレメの両サイドでぺらりと捲れている小陰唇も、まるで八宝菜のキクラゲのようにトロトロと黒光りしていた。
 因に、この頃の涼子は、野外露出に対し異様な興奮を示していた。いわゆる、彼に野外露出の快楽を教え込まれ、調教されてしまっていたのだった。

 M字に股を開いていた涼子の前で、髭の男が足を止めた。
「こりゃあ、何の撮影だい?」そう彼に聞く男は、プーマの黒いジャージを着ていた。
 服も靴も普通の人と変わりなかった。歩道で擦れ違っても、この男がホームレスだとは誰も気付かないだろう。
 しかし、そのドス黒い顔色や、貪よりとした精気のない目つきには、やはり無宿人としての不気味さが漂っていた。そして、男の全身から発せられる、その何ともいえない腐った生ゴミ臭は、ホームレス以外の何者でもない臭気なのだった。
 彼はそんな男を見上げながら「個人的な撮影だよ。あんたらは撮らないから心配すんなよ」と笑い、新品のマイルドセブンを一箱男に渡した。
 以前、大阪の西成で泥酔するホームレスを勝手に撮っている所を襲われ、頭を六針も縫う怪我を負わされた事のある彼は、同じ失敗を繰り返さぬようにと常に新品のマイルドセブンを数箱持ち歩くようになっていた。
 男は「悪りぃな」と小声で囁きながら煙草を指で受け取ると、仲間に見つからないよう慌ててポケットの中にそれを押し込んだ。
 男を手懐けた彼は、再び涼子の開いた股間にカメラを向けた。そしてファインダーを覗き込みながら、「よし、いいぞ、出せ」と合図を出した。
 涼子は、そこにホームレスの視線を痛いほど感じながら蜜の溢れる陰部をヒクッとさせた。
 針の穴のような尿道口から黄金色の水がシュッと噴き出すと、男はおもわず「おお」っと声を上げた。
 湯気を立てて噴き出す尿は地下道の冷たいタイルにピタピタと音を立てて弾けた。
 見知らぬ男に、尿が噴き出す陰部を覗き込まれていた涼子は、羞恥に顔を引き攣らせながらも、しかし、内面では声が出そうなくらいに感じていた。
 そんな涼子の内面を見透かした彼は、ファインダーを覗き込みながら「見られて感じてるのか?」と聞いてきた。
 涼子は下唇を噛みながら小さく首を振った。しかし、彼はヘラヘラと笑いながらホームレスの男に言った。
「こいつはどうしょうもない変態女でさぁ……あんたらみたいな人にいやらしい姿を見られるのが好きなんだよ……」
 そして彼はソッとカメラ下ろすと、小便の勢いが弱まってきた陰部を指差し、「ほら、見てみろよ、穴の中からスケベな汁が糸を引いて垂れてるじゃないか」と、男にその部分を更に間近に覗かせたのだった。
 男は、尿が飛び散るタイルに頬を押し当てながら覗いていた。
 すげぇ、とか、綺麗だな、などと呟きながら、まるで野良犬のようにタイルの溝に溜まった涼子の尿をペロリと舐めたりしていた。
「もっと見たいか?」
 彼は男に聞いた。
「いいのか?」
 男は濁った目をギラリと輝かせた。
 彼は涼子をその場に立たせると、乱暴にタイルの壁に向かせた。
「スカートを捲って尻を出せ……ドロドロに濡れたオマンコを見て貰うんだ……」
 目をギラギラさせた男は、かじかんだ黒い手をしゃかしゃかと擦り合わせてはそこにハァーっと息を吹き掛けていた。
 立ったままの涼子の手がスカートの裾を捲ると、真っ白な尻がスルスルと現れた。
 男はヒヒヒヒヒっと下品に笑いながら彼の顔を一度見つめ、そして、勿体ぶりながらゆっくりとタイルに手を付くと、犬のように四つん這いになって涼子の股の裏を覗き込んだのだった。

 涼子のすぐ目の前の壁には、男性器のイラストと卑猥な言葉がマジックで落書きされていた。
 昭和の時代から汚れ者たちのアンダーグラウンドとして暗躍してきたこの地下道には、それらしき落書きが所々に見られた。
『安保反対』
『ブルジョア国家の転覆を!』
『ぶち殺す』
『日本革命的共産主義者同盟革命的マルクス主義派』
『メシくれ』
『打倒新宿警察署少年課』
『チンポちょうだい』
『全国制覇 スペクター新宿総本部』
『お母さんの顔は忘れた』
『1976・7・5 決行せよ』
『肛門の汁は臭かった』
『板橋極悪参上』
『バカ公安死ね』
『とっても短い人生でした』
 それら地下道の至るところに殴り書きされている落書きは、それぞれの年代を物語っていた。それらは、最近のスプレーアートのような美しくもカラッポな落書きとは違い、暗闇に潜む日陰者たちの饐えた匂いがぷんぷん漂って来るものがあった。
 涼子は、そんな野蛮で不潔な落書きが殴り書きされた壁に両手を付きながら、天井に向かって尻をキュッと突き上げた。すかさず足下からは、「本当だ……濡れてるよ……」という、感動に満ちた男の声が聞こえてきた。
 カシャッ、カシャッ、カシャッ。
 彼がシャッターを切る。愛する女がホームレスに陰部を覗かれているシーンを、彼は必死に撮りまくる。
 しばらくすると、そんなシャッターの音に混じり、カサカサカサっというナイロンが擦れる音が聞こえて来た。
 涼子はその音が聞こえて来る足下をふと見た。
 股間を覗き込んでいる男の黒いナイロン地のジャージのズボンから汚いペニスが飛び出していた。それは天然の松茸のようにガサガサしていた。ヌルリと光る亀頭には白い恥垢がねちゃねちゃと付着し、根本に生える陰毛は半分以上が白髪だった。
 男は、そんなペニスを真っ黒に汚れた手でシコシコとシゴきながら、涼子の尻の谷間を必死になって覗き込んでいた。
「やっぱり、綺麗な女はアソコも綺麗なんだな……」
 男はそこに顔を近づけながら呟いた。男の息が肛門に吹き掛かったような気がして、涼子は背筋をゾクッとさせた。
「この女とヤリたいか?」
 目をギラギラさせながら彼は男に聞いた。
 一瞬、涼子の脳裏にドライブインの悪夢が甦った。
 確かに、今の涼子の体は一刻も早く肉棒を求めていた。例え相手が誰であろうと、そのジュクジュクに熟れた穴の中に肉棒を差し込んで欲しくて堪らなかった。
 しかし、その行為後の彼を考えると身が竦んだ。
 ドライブインの例から見ても、今ここでこの男を受け入れてしまったら彼は確実に逆上するだろう。そして彼の狂行は更にエスカレートし、取り返しのつかない結果を招く事になるかもしれない。
 そう脅える凉子は、何としてもこの一線は二度と超えてはいけないと自分に言い聞かせていた。
「本当にヤっちゃってもいいのか?」
 男は目を丸めながら言った。
「絶対にダメです」と睨んだ涼子は、開いていた尻の谷間をキュッと締め、そのままスカートをスルリと下ろした。
「それはおまえが決める事じゃない……」
 彼は静かに呟いた。
「もう帰りましょ……」
 涼子は宥めるようにそう言いながら、切なく彼の顔を見つめた。
 一瞬、彼の目がキツネのように吊り上がった。まるで顔の皮をガムテープで引っ張られているかのように、彼の顔は縦長に引き攣った。
「それは俺が決める事だ!」
 彼は地下道に声を響かせながらそう怒鳴ると、いきなり涼子の体をドン! と突き飛ばした。
 カカンっとヒールの音が響いた。膝を崩した涼子は冷たいタイルに尻餅を付いた。「痛っ……」と顔を顰めながら彼を見上げると、彼はキツネのような目をしたままニヤリと笑っていた。
「この女とヤらせてやるよ。但し、お前一人じゃダメだ。そこにいる、その薄汚いお前の友達全員でこの女を犯すんだ。どうする?」
 彼は涼子の目をジッと見つめたまま男に言った。
「わ、わかったよ、みんなを呼んで来るよ……」
 男は、彼の豹変に動揺しながらも、段ボールに包まって寝ている仲間たちに向かって走り出した。
「お願い……変な事はやめて……」
 涼子は声を震わせながら彼の足にすがりついた。
 彼がスッとしゃがんだ。涼子の顔を真正面から見据える彼の目には、いつしかキツネ目のような狂気は消え去り、妙に優しい表情をしていた。
「涼子……おまえは病気だ……」
 彼は柔らかい口調でそう囁きながら、涼子の両頬を手の平でソッと包み込んだ。
「ネットで調べたんだ……そしたらね、おまえみたいな女は多淫症っていう病気だって書いてあったよ……つまりおまえは色情魔って事さ……」
 彼はそう言いながらジャンパーの内ポケットに手を入れた。そして重く輝く出刃包丁をチラッと涼子に見せた。
「心配するな……痛くないように殺してやるから……おまえがあの化け物共と絶頂に昇った瞬間を見計らって、一気にブスリと殺ってやるから……だから何も心配せずに最後におもいきり楽しむがいいさ……」
 そう頷いた彼はスクッと立ち上がった。
 慌てた涼子が「どうして私が」と彼を見上げると、彼の目は既にキツネ目に変わっていた。
「お前が死んだら、俺も直ぐに逝くからさ……慌てて地獄に行くんじゃねぇぞ……俺が逝くまでこの地下道でずっと待ってろ、ほら、そこに赤い消火栓があるだろ、あそこで待ってろ、あそこでずっと待ってろ、必ず逝くから……」
 彼は夢遊病者のように呆然と呟きながら、赤いランプが灯る消火栓を指差した。
 そして一言、「愛してるよ涼子……」と呟くと、そのままクルリと背を向けたのだった。

 彼は地下道の入口で足を止めると、両手で顔を覆いながらそこにしゃがみ込んだ。彼の肩が震え、身の毛もよだつような啜り泣きが微かに聞こえて来た。
 そんな彼を呆然と見ていた涼子だったが、しかし、突然背後に唯ならぬ気配を感じ、慌てて振り返った。
 男が三人立っていた。まるで黒澤映画に出てきそうな野蛮な男達ばかりだ。
「取りあえず、俺っちの部屋に連れてくべ」
 禿鷹のような顔をした男が涼子の手首を掴んだ。
「ちょっと待ってよ」
 その手を慌てて振り払うと、左右の目玉をロンドンとパリの方向にそれぞれ向けた男が、「早くしろよ」と言いながら、いきなりミニスカートの中に手を押し込んできた。
 ロンパリ男は「ほらほら、早く立って」などと言いながら涼子の体を起こそうとしていたが、しかし、その男の指はどさくさに紛れて涼子のワレメをねちゃねちゃと弄っていた。
 抵抗する涼子だったが、しかし瞬く間に三人の男に取り押さえられ、そのまま段ボールに囲まれた部屋に引きずり込まれた。
 畳一帖ほどのスペースには毛布が敷かれていた。枕元には大量の成人雑誌とビールの空き缶が並び、まるで犬小屋の中に放置されたままの湿った毛布のような悪臭が漂っていた。
 その狭いスペースに押し倒された。ロンパリ男が涼子の太ももの上に跨がり、禿鷹のような男が両膝で涼子の両肩を押さえつけた。
「みんなが来ないうちに早く終わらせろよ」
 最初にいた男は中には入って来ず、囲いの外から中を見下ろしていた。見張り役なのかと思ったが、しかし、男は見張るふりをしながら、しわくちゃの千円札を必死に数えていた。
「こんな上玉がたったの二千円なんてよ、まるで歌舞伎町の回転寿しで銀座の寿司を喰うようなもんだぜ」
 禿鷹男はそう笑いながら、股間に挟んだ涼子の顔を嬉しそうに覗き込んだ。
「全くだよ、こんな綺麗な女は吉原にだっていねぇぜ」
 ロンパリ男はそう頷きながら涼子のミニスカートをパラリと捲ると、そこに生々しく露出された陰毛に顔を埋めた。
「やめてぇ!」
 涼子がそう叫ぶと、三人が一斉にシッ!と睨んだ。
「大きな声出すとみんなぞろぞろ集まって来るぜ。それともあんた、ここにいる全員を相手にできるのか?」
 段ボールの囲いから涼子を見下ろす男は、そう言いながら無精髭を手の平でザラザラと擦り「まぁそのほうが俺も儲かるからいいけどね」と笑った。
 その隙に、ロンパリ男は涼子のワレメに舌を捻り込んで来た。そして涼子の顔を股に挟んでいた禿鷹男が、カチャカチャと金属音を鳴らしながらベルトを外し始めた。
 ロンパリ男の生温かい舌の感触に顔を歪めていると、涼子の目の前に禿鷹男の隆々とした肉棒がヌッと現れた。
 使い古したキャッチャーミットのように黒光りするペニスは、すっぽりと皮に覆われていた。先っぽからちょこんと顔出す亀頭はピンク色に輝き、尿道のワレメだけが腐った桃のように黒ずんでいた。
「その可愛いお口で、綺麗にしてくれ……」
 禿鷹男は下水道のような息を吐きながらそう笑うと、涼子の目の前でピリピリと皮を剥き始めたのだった。

 凄まじい臭気が脳を襲った。まるで勃起した犬のペニスのようにピンク色した亀頭には、汗と小便で液状となった恥垢がドロドロと付着していた。
 驚愕している涼子の鼻を禿鷹男は摘んだ。そしてもう片方の手で涼子の両頬を鷲掴みし、少しだけ開いた唇の中に汚れた肉棒を滑り込ませた。
 まるで刺身醤油のような香りが口内に広がった。ぐぶぐぶと咽せ返していると、いきなり下半身にヌルッという感触が走った。
 目に涙を浮かべながら見てみると、股間に潜り込んだロンパリ男が必死に腰を振っていた。幸いにも、ロンパリ男のペニスは入っているのか入っていないのかわからないくらいに小さかった。
 そんなロンパリ男は無惨にも中に出した。あの駐車場で見知らぬトラック運転手に中出しされた時とは違い、膣に溜る生温かい液体に対して何の感情も湧いて来なかった。
 それは、この乱交が彼の公認だったからだった。だからあの時のような背徳感は湧いて来なかったのだ。
 しかし涼子は、それとは別の焦りを覚えていた。それは、あの懐に隠した出刃包丁を見つめながら、地下道の入口で泣いていた彼の姿が見当たらなかったからだった。
 ロンパリ男がハァハァと荒い息を吐きながら股から這いずり出すと、すかさず禿鷹男が涼子の股に潜り込んだ。
 無我夢中でペニスを捻り込もうとしている禿鷹男を横目に、涼子は見張りをしている男に声を掛けた。
「あの人はどこ?」
 男は、「さっきまでそこにいたけどいねぇなぁ、どこいったんだろ?」と首を傾げると、もうそんな事はどうでもいいかのように、さっき彼から貰った煙草をスパスパと吸っていた。
 膣にグググッという圧迫感を感じた。根本までペニスを入れた禿鷹男が、目をギラギラと輝かせながらその結合部分を覗き込んでいる。
 そんなグロテスクな光景に、一瞬、涼子の首筋がゾッと寒くなった。しかし、その寒気は恐怖の寒気ではなかった。それは、欲情の寒気だった。彼に見られていないという安心感が、今まで張りつめていた緊張を和らげ、密かに生殖器が敏感になっていたのだ。
 腰を振る禿鷹男のペニスが、ずん、ずん、ずん、と膣の中で蠢くと、何ともいえない快感が涼子の脳髄に伝わった。
 あの日、あの駐車場でトラック運転手にレイプされた時から、涼子は自分がマゾヒストである事を自覚していた。
 その後、彼に様々な被虐的行為をされていたが、しかし、内面ではそんな行為に快感を得ていた。
「殺す」と言った彼のキツネ目が頭に浮かんだ。そして、下水道のような悪臭に包まれながら薄汚れたホームレス達に輪姦される自分の姿が、まるでラブホテルの天井鏡を見ているように客観的に浮かんで来た。
 そんな悲惨な光景に、マゾヒストの膿がジクジクと疼いた。
 ズボズボと早くなった禿鷹男の腰の動きに、おもわず声が洩れた。
 慌てて息を飲んだが、しかし、ここに彼はいない。
 そう思うと、この汚い男たちに、もっともっと激しく犯されたいという奇妙な願望が溢れ出し、自ら、そっと腰を突き上げたりしてしまった。
「感じてるぜこの女……」
 禿鷹男は優越感に浸りながら涼子を見下ろした。
 その言葉に屈辱を感じた涼子だったが、しかし、そんな屈辱は更に涼子の興奮を高める結果となった。
 涼子は、自ら両脚を高く掲げると、更に深く肉棒を求めた。卑猥な声を出しながら汚れた毛布を鷲掴みし、そして、見張り役をロンパリ男と交代した男のペニスに自らしゃぶりついた。
「こりゃあスゲェや……」
 いきなりペニスをしゃぶられた男は唸った。
 そして男は、目を細めながら横を向いた。段ボールの枠の外に向かって「あんたの奥さん、最高だよ」と男が呟いた瞬間、涼子の動きがピタリと止まった。
 我に返って、はっ、と顔を上げると、段ボール枠の外に彼がいた。彼は出刃包丁を忍ばせたジャンパーに片手を入れたままポロポロポロポロと涙を流していた。
「ほれ、ほれ、イキそうか、ハァハァハァ……イクなら、俺も一緒にイクぜ……ハァハァハァ……」
 愕然としている涼子に、禿鷹男は容赦なく腰を振って来た。
 そんな腰の動きに、涼子が「うっ」と顔を顰めると、すかさず彼が「イキそうなのか?」と顔を覗き込み、そして懐の中の包丁を握り返した。
 殺される……。
 本気でそう思った涼子は、必死に表情を作った。トチ狂った彼に誤解されないよう、助けを乞うような切ない表情で彼を見つめた。
 すると、禿鷹男が、待ちきれずに「あっ、あっ、イクぞ!」と唸った。
 唸る禿鷹男の体が、いきなり涼子の細い身体にガバッと覆い被さってきた。同時に大量の精液が涼子の中に迸った。
 禿鷹男はコキコキと腰を振りながら凄まじい量の精液を絞り出し、涼子の耳元にハァハァと臭い息を吹き掛けた。そんな禿鷹男の肩越しにソッと彼を見ると、そこに彼の姿はなかった。
 彼はそのシーンを見るのが辛かったのか、例の待ち合わせ場所だと言っていた消火栓の前で踞り、肩を揺らしながら泣いていた。
 チャンスだと思った涼子は、ぐったりとする禿鷹男の体からソッとすり抜けた。
 段ボールの囲いに身を屈めながら起き上がると、最初の男が「まだだよ、次は俺の番だよ」と言いながら涼子の手首を掴んだ。
 涼子はバッグの中に手を入れた。
 くそっ! くそっ! と唸りながらタイル床を殴っている彼を横目に見ながら、急いでバッグの中から財布を取り出すと、毛布の上に数枚の一万円札を投げ捨てた。
 男達はギョッと目をひん剥いた。禿鷹男がそれをふんだくると、涼子の手を掴んでいた男が慌ててそれを奪い取った。
 いきなり大金を目にした彼らは興奮していたが、しかし、幸いにも彼らは無言だった。ここで騒げば他の仲間たちが集まって来る事に怖れていた彼らは、無言で一万円札を取り合いしているのだ。
 涼子はその隙に段ボールから抜け出した。そして彼が気づいていないのを確かめると、ヒールを脱ぎ捨て忍者のように身を屈めながら裸足で走り出したのだった。

(つづく)

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