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変態女装小説「夜蟲1」

2012/12/02 Sun 00:00

夜蟲1



 巨大な蛾やカミキリムシや得体の知れない羽根虫達。
 漆黒の闇の中からいきなり現れては外灯に群がる夜蟲たちは、公園の闇の中に爛々と輝く外灯に群がりながら一晩中狂喜乱舞しております。
 中には外灯に体当たりして命を落とすバカな奴もいれば、手当り次第に喰い殺そうとする凶暴な奴もいます。そして人間が仕掛けた電気罠にジジジっと焼き殺される無惨な奴や、その焼死骸を待ってましたとばかりにガリガリと貪り喰う醜い奴など、それはまさに地獄絵図でした。
 しかし、奴らは夜明けと共に姿をくらまします。
 空が青白くなる頃には、いつの間にかいなくなっています。
 そして昼間は何食わぬ顔をしながら草葉の陰にひっそりと身を隠し、夜になるのをひたすら待つのです。あたかもひ弱な昆虫を装っては人間様の目をくらまし、湿った日陰で夜になるのをひたすら待っているのです。



 僕はいつからこうなってしまったのでしょうか。
 原因は自分でもわかりません。
 幼い頃にそういった心的外傷を受けたという記憶もなく、成人になってからも、そういった部類の肉体的精神的ショックを受けたという事は全くございません。
 なのに。
 なのに僕は、ある日突然、女装というキチガイじみた性的嗜好に目覚めてしまったのです。

 夜になると狂気に満ちた妄想に駆られるのです。
 あの暗闇が僕を狂気に導くのです。
 こんな事をしていてはいけないと思いながらも、それでも僕は、妻や子供が寝静まるのを一人書斎で待つのです。
 ひたすら悶え苦しみ、まるで麻薬中毒患者の禁断症状の如く凄まじい形相になりながらも、僕は妻たちの寝室にジッと耳を澄ましているのです。
 これが家族に知れたら我が家は終わりです。
 これがバレたら、間違いなく妻は子供を連れて実家に帰るでしょう。
 わかっています。
 十分承知しております。
 しかし、それがわかっていながらも、それでも僕は我慢できないのです。

 家族の者が寝静まるなり、さっそく僕は全裸になります。
 そして慣れない手つきで化粧を施し、女物の衣類を身につけ、巻き髪のカツラなんぞを装着するのです。
 自分の姿を鏡に映します。
 変身した自分に恍惚とします。
 そしてひたすら自分を愛撫するのです。

 そんな愚かな日々が、かれこれ半年ほど続いていました。
 その間、自惚れだけでは気が済まなくなった僕は、そんな自分の姿を写真に撮り、それを自身のブログに掲載するようになりました。
 最初は、そこに変身した自分の姿を掲載するだけで満足しておりました。
 しかし、あるとき、そのブログを見ていた同年代の中年男性から『綺麗ですね』という、たった一言のコメントを書き込まれた事により、僕は完全に壊れました。
 綺麗。
 見ず知らずの他人から頂いたその言葉は、今まで自惚れだけのナルシストだと思っていた自分に、激しい勇気と自信を与えてくれました。
 僕は綺麗なんだ。
 そう自覚した瞬間、それまで自分を抑えていた理性が木っ端微塵に吹っ飛び、今まで僕の心の奥底でじくじくと膿んでいた危険な本能が、まるで学生の頬のニキビが潰れるかのようにして、濃厚にドロリと溢れ出て来たのでした。

 それからというもの、僕は本格的に女という生き物の研究に没頭しました。
 会社の女子社員とは積極的に接し、彼女たちの喋り方や仕草を事細かく盗みました。
 そして、会社帰りには必ず駅前のカフェに立ち寄り、飲みたくもない苦いエスプレッソなんぞを啜りながら、そこにやってくるOL達を密かにウオッチングしていました。
 そこで得た情報はすぐにメモに書き込み、場合によっては写メで盗撮したりしました。

 自宅に戻るとすぐさまパソコンを立ち上げ、さっそく楽天やアマゾンといったサイトで彼女達が持っていたバッグや靴を探し、そして、写メで盗撮しておいた彼女達の画像を参考にして、ウィッグをセットしたりメイクを真似てみたりとするのでした。
 そんなOL達のファッションを観察し、実際に彼女達と同じアイテムを手に入れていた僕は、完全に彼女達に成り切っていました。
 女装した僕は、深夜の狭い書斎で、一人こっそり彼女達を演じるのです。
 あたかも目の前に別の誰かがいるかのようにしながら、「ねぇねぇ、青山においしいパスタの店ができたんだけど行ってみない?」などど微笑んでみたり、又は、事務服に着替え、わざとヒソヒソ声で「営業の佐藤さん、課長と不倫してるってホント?」などと驚いてみたりするのです。

 その姿はまさに狂気でした。
 深夜、女装したおっさんが、一人書斎でブツブツと女言葉を呟きながら奇妙な演技をしているのです。
 もし第三者がそれを見たならば、百人中百人が間違いなく僕を狂人だと思う事でしょう。
 それはわかっております。
 自分のその行動が奇怪だと言う事も百も承知です。
 が、しかし、今の僕には自分のこの奇行を止める事はできません。
 それが、僕の人生において非常に危険であり、且つ、愛する家族を地獄に陥れる事だとわかっていても、それでも僕は自分の意志ではそれをやめられないのです。

 因に、僕は今年で三十を迎えようとしております。
 誰もが驚く有名大学を卒業し、誰もが知ってる大手都市銀行ではそこそこの地位を預かっております。
 だから世間では、僕はエリートと呼ばれております。
 妻からすれば自慢の旦那であり、子供達からすれば立派なお父さんなのです。
 しかし、そんな僕の本性は狂人です。
 いくら社会的地位は高くとも、一皮剥けばただの変態なのです。
 
 昼と夜。
 白と黒。
 エリートと狂人。
 立派なパパと変態なパパ。

 そんな二面性を持つ僕は、まさにジキルとハイドでした。
 エリートという社会的地位を持ちながらも反社会性人格障害に悩まされているサイコパスなのであります。
 このままでは、いつかきっとその本性が何者かによって暴かれる事でしょう。
 いや、何者かに暴かれる前に自爆するかもしれません。
 そうなれば、今まで必死に築き上げて来た地位や名誉はいとも簡単に失い、そして尊い家族さえも失う事になるでしょう。

 しかし、どうする事もできません。
 例え全てを失うとわかっていても、これだけはやめられません。
 僕にそれをやめろと言うのは、中学生男子にオナニーを禁じる事と同じくらい無理な事なのです。
 もはや僕は、自分の意志ではどうにもならなくなっていました。
 僕は僕を止める事ができなくなるほど壊れてしまっていたのでした。

 そんな僕は、あるとき、女を抱いてみようと思いました。
 というのは、最近の僕は女装という自己満足だけでは物足りなくなり始めていたからです。
 その頃の僕は、女に成り切って街を歩いてみたい、ミニスカートでエスカレーターに乗り、背後の男達の熱い視線を浴びてみたいといった、そんな異常な願望を抱き始めていました。
 そして挙げ句の果てには、男にジロジロと見られる自分の姿を想像しながら自慰に耽りました。冷蔵庫から『きゅうり』を持ち出し、それを他人のペニスに見立てて頬張るという、実に異常なオナニーにハマってしまっていたのでした。

 男に犯される自分を想像しながらの自慰をした後の嫌悪感といったら、そりぁ凄まじいものでした。それはまるで、二日酔いの朝に、『101回目のプロポーズ』の浅野温子の笑顔を101回見せられるに値する不快指数でした。
 そんな嫌悪感に襲われる僕は、これではいけないと本気でそう思いました。このままエスカレートすれば、そのうち僕は本当に男を求めるようになってしまうと畏怖したのです。

 そんな理由から、僕は女を抱いてみようと思ったのでした。
 女の体で濃厚な快楽を得れば、あの忌々しい妄想の呪縛から逃れられると本気でそう思っていたのです。
 しかし、相手が妻ではいけません。
 妻とのセックスは、まさに『ひとつ屋根の下』の江口洋介の、『わざと滑ったぞ』といわんばかりの一発ギャグを、まともに見せつけられたときの不快指数を更に上回る危険性がありました。
 かといってソープランドに行く気など更々ありません。
 新入社員の頃、一度だけ先輩に連れられて吉原に行った事がありましたが、あの時、アザラシのようなおばさんにヌルヌルの液体を全身に塗られたあの不快感は、まさに『東京ラブストーリー』の鈴木保奈美の眉毛の太さに匹敵するほどの不快感でした。

 だから僕は、取引先のモデルプロダクションで働く飯島君に連絡をする事にしました。
 飯島君というのは、モデルの卵を斡旋するアルバイトを密かにしておりました。その顧客には大手企業が名を連ね、もちろんウチの銀行でも、大切な接待の時には飯島君にお願いしておりました。
 料金は一般のデリヘルの十倍も取られましたが、しかし、その女の質は、さすがモデルの卵だと唸るほどに顔もスタイルもルックスも完璧で、例え十倍の値段を取られても納得できるほどの女達ばかりなのでございました。

 さっそく飯島君に電話をしてみました。
 明日の予定を聞いてみますと、今は東京オリンピックに関わる接待が多いため、『いい女』を確保するのはなかなか難しいかも知れませんという返事が返ってきました。
 それでも僕は、「そこを何とかAクラスの女でお願いします」と引きませんでした。
 もちろん、立場上、僕がその女を抱くとは言えませんので、「こっちも五輪関係のVIPなんですよ。ですからAクラスじゃないと困るんですよね」と嘘をついてやりました。
 すると飯島君は、『五輪のVIP』と聞いて欲がくらんだのか、たちまち「○○銀行さんがそこまで仰るなら何とか手を尽くしてみましょう」などと素早く手の平を返し そして、「但し、最上級の女ですとホテル代別で三十万になりますがよろしいですね」と、通常の倍の値段を吹っかけて来たのでした。

 それでも、切羽詰まっていた僕は二つ返事で了承しました。
 一刻も早く女を抱かなければ僕の人生が終わってしまう可能性があるのです。そこらでヘンテコな女を買えば、余計男に対する情熱が高まる恐れもあり、だから僕は、例え三十万円払ってでもそれなりの『いい女』を買わなければならなかったのです。

 翌日、僕は飯島君のいつも通帳に三十万円を振り込みました。
 そして飯島君に電話を掛け、ホテルはいつものニューオータニではなくペニンシュラだと告げたのでした。

 約束より一時間ほど遅れてホテルに着きました。
 飯島君には、先に女を部屋に入れて待たせておくように伝えていたため、僕はフロントに顔を合わせる事もなくそのままエレベーターに乗り込んだのでした。

 部屋に入ると、ベッドの端にちょこんっと腰掛けた女が優しく微笑んでいました。
 その女は、さすが『ギロッポンの女衒』と異名を取るほどの飯島君が『最上級の女』と言い切るほどに美しく、そしてその品の良さは『五輪のVIP』でも十分通用するレベルでした。

 これほどの女ならば、あの忌々しい妄想とはきっぱりと縁を切る事ができるとそう思った僕は、もはや会話や食事やムードなどと言った面倒くさいモノは全て省き、「すぐにプレイに入りたい」と申し出ました。
 すると彼女はクスっと小さく微笑みながら「はい」と返事をし、「お忙しいんですね」と呟きながら、そのままクローゼットへと向かったのでした。

 明らかに高級ブランドだとわかるワンピースを静かに脱ぎ始めた彼女は、窓際で有楽町の夜景を見下ろす僕を優しく見つめながら、「お風呂、溜めておきましたのでどうぞ」と微笑んだ。
 僕は彼女に背を向けたまま、「風呂はいい」と呟き、その場でネクタイを外し始めました。
 そんな僕のネクタイを素早く受け取った彼女は、背後で僕の上着を丁寧に脱がせながら「では、お先にお風呂に入らせて頂きます」と囁きました。
 僕はすかさず「いや、いい」と呟きました。
「えっ?」と首を傾げる彼女の小さな顔が、有楽町を映すガラスに反射していました。

「キミも風呂に入らなくてもいい……そのまま裸になってベッドに行きなさい……」

 そう呟く僕は、彼女に対して非常に強い興味を持っていました。
 これほどのいい女の『素の匂い』を嗅いで見たいと素直にそう思っていたのです。
 それは、僕が匂いフェチといった変態だからではございません。女装マニアとして『いい女の素の匂い』というものに興味を持ったのです。
 もちろんそれは彼女の匂いだけではありません。彼女の履いているヒールやヘアースタイルやネイル、そしてそのひとつひとつの仕草や表情を、僕は女装マニア目線で見ておりました。
 そして、女として完璧な彼女に、嫉妬に近い好奇心を抱いていたのです。

(このいい女を徹底的に観察してみたい……)

 そう思った僕は、ガラス越しに彼女の表情を見ていました。
 初めて会った男に、風呂に入らないままベッドに入れ、と言われたいい女が、果たしてどんなリアクションを取るのか興味津々でした。
 普通の女ならば、初めて会った男にそんな事を言われれば、多少なりとも戸惑うはずです。
 しかしこの女は表情ひとつ変えないまま「はい」と小さく頷き、そのまま静かに下着を脱ぎ始めたのでした。

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(つづく)

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